近所で有名な“おばけ団地”は、小学6年生の航祐と夏芽が育った団地。そこにクラスメートたちと忍び込むと不思議な現象に巻き込まれ、気づくと大海原に浮かんでいた。彼らは元の世界に戻れるのか? そして、団地で出会った謎の少年・のっぽとは? ひと夏の別れの旅を描いた長編アニメーション映画『雨を告げる漂流団地』(9月16日(金)Netflixで全世界同時配信、日本全国公開)で航祐の声を担当した田村睦心さんと、夏芽の声を担当した瀬戸麻沙美さんにインタビュー。大人は懐かしさがこみ上げ、子供はわくわくが止まらないであろう本作について語ってもらいました。
◆航祐役、夏芽役に決まったときの率直な感想は?
田村:とてもうれしかったです。正直、オーディションのときは、小学6年生の役ということもあって私には難しいかなと思っていたので。「やった!」と「いいのかな?」が同時にやってきました(笑)。
瀬戸:オーディションでは、どんな方向にでも演技の可能性がある――逆に言えば、どれが求められている夏芽像なのか分からず、自分が想像したものを吹き込んだ素材を送ることしかできませんでした。長編アニメーション映画ということで、テレビアニメーションとはまた違った取り組み方をしていけると思い、夏芽役としてぜひ関わりたいと願っていたので、合格の連絡を頂いたときは喜びが倍増しました。同時に航祐役がむっちゃん(田村)だと聞いて、収録が待ち遠しくて仕方なかったです。
◆共演者が田村さんと聞いて、どんなところが楽しみになったのでしょう?
瀬戸:プライベートでもよくご一緒させていただいていて、私は“むっちゃん”と呼ばせていただいているのですが、本当に素晴らしい声優さんだと思っています。私の中では少年役のイメージが強く、航祐君を見た時に「これはむっちゃんでしょ!」と思ったんです。ファンか! という感じですが(笑)。
田村:ありがとうございます!(笑)
瀬戸:むっちゃんとは知り合って10年以上たつのですが、実はがっつり絡む役で共演したするのは初めてなんです。なので、むっちゃんに“瀬戸ちゃん、やるじゃん”と思われたい、という下心もありました(笑)。
田村:私も瀬戸ちゃんと一緒にお芝居するにあたり、「やりやすいな」「さすがだな」と思ってくれたらいいな、そう思ってもらえるように、より頑張らなきゃ、という思いはありました。
◆田村さんは、夏芽役が瀬戸さんと聞いてどう感じましたか?
田村:瀬戸ちゃんがすごい声優さんであることは当然知っているので、「どうやって絡めるだろう」という期待と楽しみがありました。夏芽のような、活発だけどちょっと影があるキャラクターを瀬戸ちゃんがどう演じるのか、わくわくしながら実際に声を聞いたら、きれいな水みたいな声で、すごくよかったです。「これかー!」と思いました。
瀬戸:安心しました(笑)。
◆台本を読んだときの感想は?
田村:子供たちが思った以上に過酷な状況に置かれているな、と思いました。それと、のっぽくんは最終的にどうなってしまうのかが気になりました。台本を読んだ時点からすごく泣いてしまい、「アフレコでは大丈夫かな」と思ったくらいです。私、涙腺が緩いので(笑)。
瀬戸:むっちゃんと初めて会った現場が『あの花(あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない)』だったんですけど、その最終回の現場でも大号泣していたよね? なので、むっちゃん=涙という印象があります(笑)。
田村:そうでしょ。だから、「ちゃんとできるかな」と思いながら、アフレコに臨みました(笑)。
瀬戸:台本を読んだ第一印象は、夏芽は思った以上に抱えているものがあり、それを表に出すのではなく抱え込んでしまう。自分の幼少期とは違ったので、演じる上で自分の経験の引き出しで補えるものがすごく少なかったんです。なので台本読みもすごくじっくりというか、「夏目はどういうリアクションになるんだろう」と、他人の感覚を考えるのに近かったです。でも台本を読み進めていくと夏芽が両親のけんかを止めるシーンがあって、涙が出ました。「そうだよね、両親のケンカを止めるのって、つらいよね」と。そこで共感するところがあるなと感じました。
◆アフレコで印象的だった出来事は?
田村:私たち2人で「このシーン、大変じゃない?」と言っていた場面がありました。そこは言葉数が多い上に、一緒に言うせりふも結構あったんです。
瀬戸:むっちゃんがばっちり合わせてきてくれても私がずれてしまったらどうしようと思い、「むっちゃん、このシーンできるかなぁ?」と先に聞くことで保険をかけたりしました(笑)。
◆石田祐康監督のディレクションで、印象的だったことは?
田村:基本的に「お二人はオーディションのときからばっちり合っていたので、そのままやっていただければ構いません」とおっしゃっていただいていました。同じシーンを何度も録ることによって、監督の思い描くシーンをより深く作っていた印象です。
瀬戸:ディレクションというより、お話をしているときに言われた「夏芽は悩んで悩んで、それが作中で解決したように見えますけど、明確に“これがあったから解決した”という状況はないんです。自分の中でじわじわと答えを見つけているんです」という言葉がすごく心に残っていました。それをヒントに、「明確なものがなくてもじわじわとした変化でいいんだな」と思えました。
◆『雨を告げる漂流団地』は子供たちの夏休みの物語ですが、お二人の夏休みの一番の思い出は?
田村:8月31日にずっと宿題をやっていたことですかね(笑)。
瀬戸:私は地元のお祭りで大きな花火大会があって、それを家から見たり、近くまで見に行ったりしていました。一番思い出深いのは、リビングの椅子を玄関の外まで運んで、みんなが座って花火を見られるように準備している父の姿がかわいかったことです(笑)。
田村:それはかわいい!(笑)そういえば私、夏休みに家のベランダでバーベキューをしました。大人も子供もいて、ウインナーとか好きな具材を焼いて食べて。そういう空間が楽しかったのを覚えています。
◆お二人はこの作品から、どんなメッセージを受け取りましたか?
田村:作品全体というより、航祐を演じて思ったことではあるのですが、どれだけ思いやっていても、結局言葉でちゃんと伝えることが大事なんだなと思いました。言おう言おうとしていても、感情が漏れていても、それだけでははっきりと伝わらないんですよね。どんなに信頼し合っていても、言葉にするのは本当に大事なんだとあらためて感じました。
瀬戸:登場人物がたくさんいて、育った環境や置かれている状況、考えていることでこれだけ意見が違うんだな、と感じました。でも相手を理解しようとしたり、思いやろうとしたりする気持ちは不器用ながらもしっかりぶつけていて、それがまた子供らしさを感じられるんです。彼らの中でこの経験は大きな思い出になると思いますし、自分がいち視聴者として本作を見たときに、子供のころに思いを馳せ、「この感覚は自分の経験と似てる」と胸にくるものがありました。初めて感じたピュアな感情を、思い出させてくれた作品です。
PROFILE
田村睦心
●たむら・むつみ…6月19日生まれ。東京都出身。主な出演作は『デジモンゴーストゲーム』(天ノ河宙役)、『ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン』(エルメェス・コステロ役)など。
瀬戸麻沙美
●せと・あさみ…4月2日生まれ。埼玉県出身。主な出演作は『ちはやふる』(綾瀬千早役)、『BIRDIE WING -Golf Girls’ Story』(天鷲葵役)、『呪術廻戦』(釘崎野薔薇役)など。
作品情報
長編アニメーション映画
『雨を告げる漂流団地』
9月16日(金)Netflix全世界独占配信&日本全国公開
<STAFF&CAST>
監督:石田祐康
脚本:森ハヤシ、石田祐康
制作:スタジオコロリド
主題歌&挿入歌:ずっと真夜中でいいのに。
声の出演:田村睦心、瀬戸麻沙美、村瀬歩、山下大輝、小林由美子、水瀬いのり、花澤香菜 ほか
●photo/中村功 text/篠崎美緒 hair&make/鰕澤真由美(addmix B.G)(田村)、久木田梨花(アートメイク・トキ)(瀬戸)styling/青木水穂(田村)、もりやゆり(瀬戸)衣装協力/styling(スタイリング)、VALENTINO(ヴァレンティノ)(田村)
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