TBSの深夜ドラマ枠「ドラマストリーム」で9月20日から放送開始した『階段下のゴッホ』(TBSほか 毎週火曜 深夜0時58分〜1時28分)。本作は、自分らしく生きるために邁進し、強くたくましく夢にも仕事にも向き合い進んでいく主人公・鏑木都の姿を通して、生きやすいようで生きにくい令和の時代を闊歩する女性たちにエールを送るヒューマンラブストーリーだ。
大手化粧品メーカーに勤める“高収入バリキャリ女子”で、ある絵画に出会ったことで一念発起し、画家になるという夢をかなえるべく東京藝術大学を目指す主人公・鏑木都をSUMIRE、都が美術予備校で出会う6浪中のミステリアスな青年・平真太郎を神尾楓珠が演じる。
そんな本作でプロデュース兼全話の演出を担当する小牧 桜さん(TBSテレビ)による連載が、TV LIFE webでスタート。本作に込めた想いから撮影の裏側まで、演出・プロデューサーという立場ならではの視点でお届けしていきます。
第3回:見えない合図
拝啓、皆様。
コラムは3回目、3話についてとなりますが。
3話の思い出として最初に浮かんでくるのは、やはりプラネタリウムの真太郎の涙にまつわるエピソード。
科学館の撮影日は、神尾さんにとってのクランク・イン。
1シーンだけ事前に抑えたかったシーンを撮影したら、その後すぐに真太郎が涙を流すという肝のシーンを撮らざるを得ないスケジュールとなっており…。
しかも涙を流す理由は表向きではなく、真太郎自身にしか分からない理由で。
初手から申し訳ないながらも、神尾さんのほうから合図を頂ければカメラを回しますから、とじっとその時を待ちました。
照明が暗転し、静寂の星の下。スタートをかけてからそう間もないうちに、ほろほろと涙が浮かび。今すぐにでもカメラを回そうかと思うのに…。
神尾さんから全く合図が出ない。
チーフ助監督の鳥居さんに声をかけるも、「いや、(合図)まだ出てないです」との目配せ。
これぞ撮りたい涙なのに。でもこれご本人が納得いってないんだとすれば、まだ耐えるべきだよな…なんて頭を悩ませるその間も、神尾さんはほろり、ほろりと綺麗な涙を流していて。
結局耐えきれなくなって、無理矢理RECボタンを押してもらいました。
撮影が終わった後、神尾さんがベースに「大丈夫でしたかね」とやって来られて。
もちろんです、とお答えしたところ、「でも最初こっち(右)から流れたかったですよね」とふらりと歩いていく。現場移動の車で鳥居さんとカメラマンの加藤さんと話しながら、「いや、神尾さんから全然合図出なくて。今涙流れてました?」「もうずっと出てましたよ。どうして回さなかったんですか?」「いや、こっちは真っ暗で、瞳までは何も見えなくて。でも合図は全く出てないんですよね。なんで出さなかったんですかね」「神尾くんのことだから、右目狙いで一筋流れるのを待っていたのかもしれない…」
…と、撮影後もスタッフの間で七不思議になっていたエピソードだったのですが…最近、それについてようやくご本人にお尋ねする機会に恵まれて。
「あの時の涙、なんで合図出さなかったんですか?」「え? 俺ずっと俺の涙が足りないって思われてるのかと思ってました。あれ、合図出すの俺でしたっけ? いや、すっごい試されてるのかと思ってたー」とケラケラ。
あれは本当にお互いの勘違いが生んだことだったのか。それともやはりプロたる人の行動だったのか。それともこっそり見えない合図を送っていたのを、我々が受け取れなかったのか。
いまだにちょっとだけ、謎が残っているのです。
PROFILE
小牧 桜
こまき・さくら…1989年4月14日生まれ。東京都出身。
TBSテレビ コンテンツ制作局ドラマ制作部。
『ルーズヴェルト・ゲーム』、『99.9〜刑事専門弁護士〜』、『凪のお暇』などの演出部を経験し、2020年『この恋あたためますか』でGP帯監督デビュー。以降は『リコカツ』、『持続可能な恋ですか?〜父と娘の結婚行進曲〜』などのドラマの演出を担当。
9月20日より毎週火曜深夜0時58分からTBS系にて放送中のドラマストリーム『階段下のゴッホ』(出演:SUMIRE・神尾楓珠ほか)で、初プロデュース兼全話演出を担当。
番組情報
ドラマストリーム『階段下のゴッホ』
TBSほか ※一部地域を除く
2022年9月20日(火)スタート
毎週火曜 深夜0時58分〜1時28分
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/kaidanshita_no_gogh_tbs/
公式Twitter:@drama_streamtbs
公式Instagram:tbs_drama_stream
公式TikTok:@drama_stream_tbs
●photo/山元良仁
©「階段下のゴッホ」製作委員会