2015年3月にNHKにて放送されたドラマに、未公開映像を追加した「LIVE!LOVE!SING! 生きて愛して歌うこと 劇場版」。本作は、阪神・淡路大震災と東日本大震災という2つの震災にスポットを当てたロードムービーで、神戸から福島を目指す少年少女たちの真っすぐな姿を『あまちゃん』のチーフ演出を務めた井上剛監督がドキュメンタリータッチで描く。主演を務め、E-girlsのメンバーとしても活躍する石井杏奈さんに、福島ロケの様子や本作のテーマでもある“音楽の力”について聞きました。
人一倍朝海を理解し、作品を愛さないといけない
――主人公の女子高生・水島朝海はどんな役ですか?
福島県で被災して、今は神戸市の女子高に通う女の子です。怒るときは怒るし好きなものは好きだし、本当に普通の高校生ですね。でも、福島の話になると隠したくなって自分と向き合おうとしない部分がある。朝海は福島の小学校時代の同級生たちと母校のタイムカプセルを探す里帰りの旅に出るんですが、それをきっかけに自分と向き合うようになるんだと思います。前田航基君演じる本気(マジ)君は、被災した同級生の中で唯一福島に留まっている男の子だからみんなを引っ張ってくれるんですが、主演ということもあり朝海がメインだと思って演じていました。朝海の気持ちを全部表現しないといけないですし、だからこそ人一倍朝海を分からないといけない。そして、この作品を愛していかなきゃいけないという思いがすごくありました。その心情を理解するまでは難しかったです。
――2つの震災という重いテーマを扱っているだけあって、役作りも大変だったと思います。
本当にどのように役作りをしていいか分からなかったです。台本を読んでも「もし、自分が福島出身だったら? もし、そこから神戸に行ったらどういう思いになるのか?」と想像が全くつかなかったんです。そこで、福島に行って取材をする機会を設けていただいて、福島の方とお話しながらどんどん役作りをしていきました。取材のときは、被災した方々に何を聞いたらいいのか、何が傷つかない言葉なのかという不安や、つらい記憶を思い出せてはいけないという思いがすごくあったんですが、いざ行ってみると福島の皆さんから積極的に話してくださったんです。みんな「伝えたい」って思いにあふれていて、その気持ちを汲んで自分が演じなきゃって思いました。
――どのような方を取材されたのですか?
男子高校生2人と、学校の先生とその娘さんたち2人です。助監督さんたちが現地で出会った方を紹介してくださったんです。助監督さんは皆さんに「取材だけじゃなくて、エキストラで出なよ」とも言ってたんですけど「いや、いいです」と(笑)。結局皆さん映画には出られなかったですが、映画にかかわっている人たちだけでなく、福島で被災された方々とお話ができてとてもいい経験になりました。福島に行く前と行った後ではだいぶ印象も変わりました。
ともさかりえさんとのシーンで思わず涙が
――実際に福島ロケをされたそうですが、やはり大変なシーンもあったのでしょうか?
大変というより、感情がいっぱいになったのは、タイムカプセルを開けるときですね。タイムカプセルを開けた同級生1人ひとりの姿や思いを目の当たりにして、朝海は学校の屋上まで行くんです。そこから校庭を見下ろすんですが、もう本当に胸がいっぱいになりました。屋上で朝海はタイムカプセルに埋めていたあるものを開けるんですが、震災から3年たっても変わらない町の現状と自分の気持ちが全部入り混じって、胸が苦しくなりました。この場面は、それぞれが抱えていた思いがあふれたり、自分が何をすべきだったのかってことに気づかされるシーンだったと思います。
――津波により行方不明となった夫を捜すアスカ(ともさかりえ)と海辺で話すシーンはとても印象的でした。
ともさかさんの言葉を新鮮に聞いて受け入れようという気持ちで臨んだんですが、このシーンでは泣く予定がないのに泣いてしまって。砂浜でいまだ行方不明の夫を捜すアスカさんに向かって朝海が「大丈夫。(旦那さんは)見つかりますよ」って語りかけると、アスカさんに「見つけたくない。見つかったらそこで自分の夫が亡くなったってことが証明されちゃうから、見つけるために捜してるんじゃない!」って言い返されてしまうんですよね。このシーンは結構終盤での撮影だったんですが、「今まで自分が経験したことはなんだったんだろう」という思いになりました。せりふだから仕方ないとはいえ、アスカさんみたいな考えの人もいるのに、無意識に同情することはよくないなと思いました。そういうことを考えていると、アスカさんの思いと周囲の状況と自分の情けなさで本当に涙が出たんです。もう言葉が出なかったですね。「映画はフィクション」といいますが、この作品はドキュメンタリーっぽく撮っているからこそ、「本当なんじゃないか」と思えるようなことばかりでした。
撮影の合間はラップを歌って遊んでいました
――つらいシーンも多々あったかと思いますが、キャストたちの雰囲気はどうでしたか?
和気あいあいとしていました。私はずっと笑っていましたね(笑)。同級生役の柾木玲弥君がすごく面白かったんですが、当時柾木君はラップにハマっていて、みんなで韻をふみながら遊んでました。やっぱり前田君も芸人さんだからすごく面白いし、それに木下百花ちゃんがつっこんだり。この2人のやり取りが本当に面白かったです。だから私はなんていうか…ガヤでした(笑)。
――朝海が所属する合唱部の顧問で、朝海の恋人でもある岡里を演じた渡辺大知さんはどういった印象でしたか?
ザ・関西人(笑)。でも、1人だけ大人ということもあり言葉がすごく深かったです。先生っぽいというか。でも、一緒に撮影しているとだんだん面白い部分が出てきて、大知さんも同世代みたいな感じでした。あとはやっぱり歌がとても上手なので、この作品のポイントとなる神戸の復興を願う歌「しあわせ運べるように」を歌っている姿にすごく感動しました。
自分の欠点を見つけてパワーアップしたい
――本作は“人と人とをつなぐ音楽の力”もテーマの1つですが、石井さんご自身が“音楽の力”を感じる瞬間はありますか?
結構あります。2015年はE-girlsの2回目のアリーナツアーがあったんですが、まず、2時間半を音楽だけで埋めるってことがすごいと思いました。ライブ中の感情にも違いがあって、緊張だったり、それが楽しさに変わったり、本当に楽しいときはあっという間に一曲終わっちゃうんです。あとは何万人ってお客さんが笑顔になってくれたり、一緒になって盛り上がってくれる姿を見ていると、こういうのが“音楽の力”なんだなって思いました。
――仕事以外でもそういった瞬間はありますか?
疲れたときや車の移動中に音楽をかけてると無感情になれるので、すごいなって思います。THE BLUE HEARTSさんが好きなので、テンションを上げたいときはよく聞いています。親がTHE BLUE HEARTSさん好きで、昔から旅行に行くときは車の中でいつも流れていたんです。音楽って頭の中にずっと残ってるから、ふと聴くと同じ曲を聴いた旅行のときを思い出してわくわくしたり。こういう感情になれるのも“音楽の力”なんじゃないかなって思います。
――女優、E-girlsとして活躍した2015年でしたが、2016年はどんな1年にしたいですか?
2015年はいろいろ経験させていただく機会も多く、その中で自分の欠点を見つけたり指摘を受けることもあったので、自分のレベルが分かった1年でした。だから、ここで留まらずにどんどん進んで、E-girlsやLDHに貢献できる人になるために、また欠点を見つけて2016年もさらにパワーアップしていきたいです。もちろん演技の仕事も頑張ります!
――最後に、これから本作をご覧になる方へメッセージをお願いします。
本作を見て今の福島の現状を知っていただきたいですし、当たり前のことが本当は当たり前ではないんだということを伝えていきたいです。なので、この「LIVE!LOVE!SING! 生きて愛して歌うこと 劇場版」で、幸せや笑顔の意味をもう一度見つめ返して大切にしてほしいです。ぜひご覧ください!
PROFILE
石井杏奈●いしい・あんな…1998年7月11日生まれ。東京都出身。O型。
女性実力派ダンス&ボーカルグループ・E-girlsのメンバーとして活躍するいっぽう、女優としても数多くの作品に出演。映画「ガールズ・ステップ」(2015年)で映画初主演を務めた。2016年は「世界から猫が消えたなら」(5月14日公開)、「四月は君の嘘」(公開日未定)、「スプリング、ハズ、カム」(公開日未定)などが公開を控えている。
作品情報
「LIVE!LOVE!SING! 生きて愛して歌うこと 劇場版」
2016年1月23日(土)より、シアター・イメージフォーラムほかにて全国順次公開
(1月16日(土)より、フォーラム福島、シネマート心斎橋、元町映画館にて先行公開)
監督:井上剛
脚本:一色伸幸
音楽:大友良英、Sachiko M
出演:石井杏奈、渡辺大知、木下百花、柾木玲弥、前田航基、津田寛治、二階堂和美、皆川猿時、ともさかりえ、南果歩、中村獅童 ほか
配給:トランスフォーマー
【STORY】
東日本大震災で被災し、現在は神戸の女子高に通う朝海(石井)。合唱部の朝海は、顧問の岡里(渡辺)から、阪神・淡路大震災の復興応援ソング「しあわせ運べるように」を行事で歌うことを提案され、沸き起こる違和感から反発するようになる。その後、朝海は小学校時代の同級生・勝(柾木)、香雅里(木下)と合流し、立ち入り制限区域になっている母校の校庭に埋めたタイムカプセルを掘りに行く旅へ。ひょんなことから旅に参加することになった岡里や、この旅の発起人である福島在住の本気(前田)とともに、5人はタイムカプセルのある小学校を目指す。
公式HP(http://livelovesing-movie.com/)
(C)2015 NHK
●photo/中村圭吾 text/金沢優里