累計5,500万ダウンロードを突破する人気Webマンガ『ワタシってサバサバしてるから』が実写ドラマ化。NHK総合テレビにて、毎週月~木曜の22時45分から放送されている。本作の主人公・網浜奈美は、偏った主張を繰り返したり、傍若無人にふるまったりする自称サバサバ女。それなのに、愛らしさを感じる不思議な魅力を持ったキャラクターだ。ドラマでは網浜役を、モノマネを得意とするタレントの丸山礼さんが演じていることでも話題を呼んでいる。
そんな丸山さんの起用について「賭けでした」と語るのは、プロデューサーの中山ケイ子さん。中山さんはその賭けについて「大成功だった」と続ける。本稿ではテレビドラマを作る過程から、『ワタシってサバサバしてるから』の裏話について、同プロデューサーにインタビューした内容をお届けする。
◆本日はよろしくお願いします。まず、ドラマのプロデューサーはどういう役割を担っているのか、教えてください。
企画立案から納品まで、ドラマを制作する全ての作業に関わっています。数多くのスタッフがいるなかで唯一、最初から最後まで作品に関われるのが、プロデューサーですね。
◆中山さんは、番組制作などの業務を行っているフジクリエイティブコーポレーションに所属されていますよね。『ワタシってサバサバしてるから』は、中山さんがNHKに企画を持ち込まれたんですか?
私と演出の伊藤(征章)の企画を提案しました。原作が非常に瞬発力のある内容ですので、1時間のドラマ枠よりも短い尺で心をつかむやり方のほうがいいと思っていたんです。なので、NHKさんの「夜ドラ」枠は15分尺でベストだと考えていました。NHKさんに採用いただけて、本当によかったです。
◆企画を提案したら、どのくらいの割合で採用されるものなんでしょうか?
私の場合、何十もの企画を立てたなかから、可能性があるレベルまで持っていけるのが10程度、そのうち1つが実現するかどうかというくらいですね。私の打率が低いだけかもしれませんが、なかなか簡単ではないです。企画を作っていくにあたっては、マンガや小説などのほか、実際に起きた事件や実在の人物など、全てをヒントにしていますね。
◆狭き門なんですね……! では、本作をドラマ化したいと思ったきっかけを教えてください。
原作を読んでいただければ分かりますが、主人公の網浜さんって決していい人とは言い難いんです。傍若無人で会社の人に迷惑をかけることもしばしば。でも何だか憎めない、何なら惹かれるときもあるんです。それって、彼女がへこたれないし、何を言われてもめげないからじゃないか。その魅力は今の世の中、特に若い方々へのメッセージになるのではと感じたんです。周りの目ばかりを気にして、それゆえに自分のやりたいことができなかったり、自分を責めたりしてしまう、そんな世の中ではあってほしくないなって。
◆なるほど。
もちろん、コメディなのでまずは笑っていただきたいですし、網浜さんの全てを肯定しているわけでもありません。彼女も悪いことをすれば「それは本当にダメだ」と説教されます。ただ、やり直すチャンスがあるのが大事なのかなと。でもまずは純粋に笑って楽しんでいただければ!(笑)
◆そういうメッセージ性があるとはいえ、網浜さんという人物は見せ方が難しいかなと感じます。序盤は特に、言葉を選ばずに言えば「イラッ」としてしまう人も少なくないのではと。
網浜さんの見せ方は非常に難しかったです。原作のすごいところは、表情の豊かさなんですよね。あの面白い顔があるから、網浜さんが傍若無人ぶりを発揮しても「まぁ、いっか」ってなるんです。ところが、それを生身の人間がドラマでそのままやったとて、同じような印象を与えられるとは限りません。誤解される可能性もあるのではと心配していました。なので、「この作品は、たくさんの人に元気になってもらいたい」というメッセージを念頭に置いて、細かいところで原作の要素にプラスしていることがあります。
◆個人的には所々でテロップが流れるというのが、イラッとする気持ちを緩和させているように感じました。
そう思っていただけるとすごくありがたいです。テロップに関しては編集の段階になってもまだ議論するほど、試行錯誤を繰り返して入れることが決まったものです。あとは、やはり丸山礼さんの存在も大きかったですね。
◆丸山さんをキャスティングしようと思ったきっかけは?
コメディテイストの作品なので、企画の段階からできれば「お笑い」をメインに活動している方でやりたいという話をしていたんです。これまでにない新しいチャレンジをするという思いもあったので、ドラマ出演経験などは問わずにキャスティングしようと考えていました。そのなかで、最も適役ではないかと名前が挙がったのが、丸山さんだったんです。
◆実際に丸山さんを起用してみていかがでしたか?
丸山さんの素晴らしいところは求心力。周りを仲間にしていっちゃうんですよね。だから、現場が常に楽しそうな雰囲気になるんですよ。(安藤晴香役の)若月佑美さんにしても、(藤川亜紀役の)佐々木史帆さんにしても、敵対してツッコむ役どころなのに、ずっと楽しそうにしていました。(本田麻衣役の)トリンドル玲奈さんとも楽しそうに収録されていましたね。丸山さんは網浜さんと違ってものすごく配慮される方なので、言わば“いい網浜さん”です(笑)。
◆なるほど(笑)。
ただ、丸山さんはとにかく大変だったと思います。というのも、演出から「共演者を本気で笑わせてくれ」という指示が出ていたので。加えて、台本のお芝居を終えても全然カットがかからないんですよ。だから、ずっと周りを笑わせるためにしゃべらなければいけない。とても苦労されたと思います。
◆SNSでは、「キャストの方が素で笑っているように思える」というコメントがありました。演出の意図が視聴者にも伝わっているのかもしれません。
実際、ちょっと笑っていますよね。普通のドラマだとNGが出ます(笑)。でも、それも含めてキャストみなさんの魅力が出ているというか。役に入った状態でついリアクションをしちゃうというのが、何だか温かさを感じられてよかったと思います。
◆他のドラマとはまた違った魅力が生まれた。
ですね。あと丸山さんのすごいところは、形態模写の上手さです。最初に打ち合わせした際「このキャラクターは表情がすごいから、顔真似したほうがよさそう」とおっしゃられていて。すごく鋭い方だなと思いました。模写もマンガのままやるものもあれば、網浜さんがやりそうな表情を考えて表現してくださるものもあって。歩き方なども監督が「こんなふうにやって」とお手本を見せると、すぐに真似されていました。
◆そこは、モノマネを得意としている丸山さんの真骨頂と言えるかもしれませんね。
「こんな感じの顔で」と言えば、すぐできちゃうんです。あまりドラマの出演経験がない丸山さんを主演に据えることは「賭け」な部分もありましたが、ズバリのキャスティングでした。丸山さんが演じてくださって、本当にありがたかったですね。
◆最近のテレビドラマは、リアルタイムで見られない方々や見直したい方のために「見逃し配信」が基本的に行われるようになっています。そういう時代の変化に合わせて、ドラマの作り方も変わっていますか?
いまは過渡期だなと日々感じながら私たちもやっています。そのなかで、肌感覚ではありますがやはり「もう1回見たくなる」という作品が求められているのでは、と感じていますね。何回も見たくなる作品がヒットしたり話題になりやすかったりする傾向にある気がします。
◆個人的には人気の俳優さん・アイドルさんが出演したからといって視聴率やヒットにつながる時代ではなくなってきているかな、とも感じています。
そうだと思います。エンタメの数が以前とは違いますからね。人それぞれ、求めているものも違うというか。時代の変化に伴って誰かが強烈な数字を持っている、ということもなくなってきているのかもしれません。
◆ここまでいろいろとお話をうかがってきましたが、ご自身がプロデューサーとして大切にしていることは?
スタッフみんなベストなパフォーマンスができるよう可能な限りフォローすること。感謝の気持ちを忘れないこと。どんなにつらくても、眠くても、諦めないこと(笑)です。現場は、寒かったり、暑かったり、ずっと走り回らなければならなかったりして、「もう、いいじゃん、諦めちゃいなよ、楽しちゃいなよ」とささやく悪魔が心の中に現れることがあります。できるだけその誘惑に負けぬよう努力していますね。
◆いよいよクライマックスに向かう本作。今後の見どころを教えてください。
本作では、原作のストーリーに加えて「ワタシってサバサバしてるから」というお題目の大喜利をし続けました。「ワタシってサバサバしてるから、ちくわの揚げ物が好き」とか。もはやそれは、サバサバとは関係ないだろうということを、これからもずっと続けていきますので、まずはそれを楽しんでほしいです。注目ポイントは、網浜さんが最後にどういう選択をするのか。
先に言っておくと、彼女は最後までいい人にはなりません(笑)。NHKさんから「いい人に変わっていくみたいなお決まりの展開に縛られなくて大丈夫です」と言っていただけたので。おかげさまで、最終回のラストシーンがすごいことになっています。ひとしきり笑った後に、何を言いたかったのかなと少しだけ考えていただければと思っています。
◆気になります……!
いま自らハードルを上げていますね(笑)。でも、私たちスタッフですら何回見てもビックリしちゃうんです。ぜひご覧ください。
◆最後に、改めてドラマの注目ポイントをお話いただければと思います。
丸山さんを中心とした個性豊かなキャストの方々が、他では見せないような演技をここで見せてくださっています。ここまでお話した出演者の方はもちろん、早乙女京子役の栗山千明さんが何回見ても面白い演技をしてくださっているので、それを純粋に楽しんでください。そして、私たちが大切にしてきたメッセージを笑いながら受け取ってもらえたら、うれしいですね。
PROFILE
中山ケイ子
●なかやま・けいこ……フジクリエイティブコーポレーション(FCC)所属のプロデューサー。ライトタッチのコメディから、実録事件や戦争を題材にした重厚なドラマまで、幅広いジャンルの作品に携わる。主な作品は、『いりびと~異邦人』(文化庁芸術祭優秀賞)、『終戦記念大型ドラマ 戦場のなでしこ隊』(ニューヨークフェスティバル銀賞)、『木皿泉作 富士ファミリー』、『昨夜のカレー、明日のパン』『インフルエンス』ほか。
番組情報
『ワタシってサバサバしてるから』
NHK総合
2023年1月9日より放送中
毎週月曜~木曜 午後10時45分~11時
「NHK+」(放送後1週間まで)、「NHKオンデマンド」でも配信中
■キャスト
丸山礼、トリンドル玲奈、犬飼貴丈、栗原類、鞘師里保、本多力、若月佑美、小林涼子、佐々木史帆/和田正人、マギー、山田真歩/栗山千明、笹野高史
“お魚さん”(ストーリーテラー):アンミカ
■スタッフ
原作:とらふぐ、江口心「ワタシってサバサバしてるから」
脚本:福田晶平
音楽:信澤宣明
制作統括:中山ケイ子(FCC)、訓覇圭(NHK)
プロデューサー:大瀬花恵(FCC)
演出:伊藤征章(FCC)
©NHK
●text/M.TOKU