声優・アーティストの伊藤美来さんが4枚目となるアルバム『This One’s for You』を2023年2月15日(水)にリリース。「ギフト」がテーマの本アルバムにはポジティブな気持ちになれる楽曲が集まっているという。今回は伊藤さんに2022年の活動を振り返ってもらいつつ、アルバムのこと、また今後の音楽・声優活動についてもお話を聞きしました。
◆2022年は伊藤さんにとって、どんな1年でしたか?
アーティスト活動の面では「青100色」のリリースやライブツアーに加えて、アコースティックライブをしたり、多くのフェスに出演させていただいたりと、いろいろな挑戦をした1年だった気がします。役者の面でも朗読劇に出演したり、自分が今まで経験してこなかった役を演じたりする機会がたくさんあって。挑戦することが多かったゆえにつまずくことも多々ありましたが、自分を「頑張れ、頑張れ!」と鼓舞しながら何とか歩みを止めずに進めました。成長できた1年になった気がしています。
◆『仮面ライダーリバイス』ではラブコフの声だけでなく、本人役でもご出演されていましたね。
アニメのアフレコとはいろいろと違って、多くの学びがありました。本人役として出演した際は、全然違う世界過ぎて驚きっぱなしで。カメラの撮り方ひとつでも、MV撮影などするときとまるで違うんです。すごく緊張しました。
◆そういった活動を経て、2023年にアルバム『This One’s for You』がリリースされます。テーマは「ギフト」。こちらはどのようにして決まりましたか?
伊藤美来の音楽チームみんなで「テーマ決め打ち合わせ」をやったのですが、最初は変な案しか出てこなくて(笑)。なかなかまとまらずどうしようかと悩んでいたのですが、それならいっそのこと考え方を変えてみようと思ったんです。今回はどんな曲を届けたいかではなく、「私がお客さんだったらどういうテーマのアルバムがあればうれしいのか」と考えてみることにしました。
◆なるほど。
そうやって今の私に必要だと思ったことが「自己肯定感」。自分のやっていることを認めてもらえるような曲があればうれしいなと思ったんです。2022年はつまずくことが多かったと先ほど言いましたが、そういう大変なときに「それもこれも成長するための神様のギフト」だと思えれば、日々生きやすくなる気がするんです。自分を認めてあげれば大変なことも乗り越えられるようになるんじゃないかと思い、「ギフト」というテーマに至りました。
◆こういうアプローチの仕方は、これまでリリースされた3枚のアルバムとは異なる?
はい。これまでは音楽性を追求したアルバムが多かった気がします。例えば1stアルバム『水彩 〜aquaveil〜』は、伊藤美来の音楽性を模索するためにいろいろな楽曲を歌いました。続く2ndアルバム『PopSkip』では方向性が徐々に固まり始めたので「私の音楽はこうですよ」と提示して、3rdアルバム『Rhythmic Flavor』はその方向性を踏まえてちょっと新しいことに挑戦してみたんです。対して今回は、もちろん音楽的な挑戦もしていますが、いつも以上にテーマをギュッと詰め込んでいるんですよ。自分をなかなか認められない方々に歌の「ギフト」をプレゼントできれば、という気持ちでいます。
◆そんなアルバムに収録される新曲を中心にお話を聞かせてください。まずは「laid back」。
「のんびり」というタイトル通り、ゆったりテンポの楽曲です。「自分の歩幅でいい」という思いがこもった曲で、歌詞には「自分のなかにある距離感やスピード感で生きていいんだよ」という言葉が散りばめられています。
◆心地よいスピード感や距離感って、人それぞれですもんね。
そうなんです。あなたも私も急がなくていいし、距離が近くたって遠くたっていい。誰かに合わせるんじゃなくて、自分の歩幅で生きていけばいいというメッセージを込めた曲になっています。レコーディングでは語りかけるように歌うことを意識しました。イントロが私のブレスから始まるので、耳を澄まして聞いてもらえたらと思っています。
◆レコーディングは緊張しましたか?
曲の雰囲気をつかめれば早かったですね。この曲はリラックスした状態で柔らかい声質が出るよう、座ったままレコーディングしたんです。立って歌っているときとの違いが伝わればいいな。
◆この曲がアルバムの1曲目ですが、曲順は最初から決まっていたんでしょうか?
決まっていました。既存曲をどこに入れるのかも最初から考えていましたし、方向性や曲順を決めてから新曲の制作もスタートしたので、まとまりのあるアルバムに仕上がっていると思います。
◆続いて「ユニットバス」。こちらは、ゆいにしおさんが作詞・作曲を担当されています。
以前、ゆいさんには「hello new pink」という曲を書いていただいたのですが、「ユニットバス」はそのストーリーの後日談となります。歌詞に「ワンピース」という言葉が入っているなど、前回とのつながりを感じられるのもポイントですね。ゆいさんの作るオシャレで艶っぽい、流れる水のようなメロディがお気に入りです。
◆歌う際も艶っぽさは意識しましたか?
実はゆいさんから「諦める感じで歌ってください」というディレクションがあって。この曲の主人公はいろいろあって相手と別れることになるけれど、もうあきらめがついているんです。なので、艶っぽさを特別意識することはなく、感情をこめ過ぎず思い出に浸るように淡々と歌いました。この曲はファルセットと地声を組み合わせて歌う箇所が多いんです。それもあってか、自然に出てくるファルセットを活かすというよりも「ここはファルセットで、ここで地声に戻す」という細かいディレクションがありました。難しい曲でしたが頑張ってレコーディングしたので、ぜひ聞いてほしいです。
◆3つ目の新曲は「Oh my heart」。
かっこよさと強さが魅力的な曲です。レコーディングでも「強く引っ張っていく感じで」というディレクションがありました。この楽曲の主人公はうらやましくなるぐらい強い人。ここまで前向きに全てを捉えられたらすごいと思います。
◆憧れがある。
そうですね。「世間のセオリーなんかいらない」「キミもキミのまま それがいいから」って歌詞は、自信がない自分の背中を押してくれる……というより叩いてくれているような気がします。「どうしようもない時は笑ったら?」という言葉も印象的でした。私、もうどうしようもないときでも、思い悩んじゃうタイプなんです。でも、悩んでもしょうがないこと、答えが出ないこともあるじゃないですか。そういうときは笑ったらいいのかも、とこの曲を聞いて改めて思いました。明るく前向きなこの曲が誰かの救いになれば、私もうれしいです。
◆続く「ギフト」はご自身で作詞された楽曲です。
最初からリード曲は私が書くと決まっていたのですが、その時はまだどんな曲になるのか聞いていなくて。一体、どんな曲調になるんだろうと思っていたら、ストレートなジャズがきて驚きました。正直、「また難しいことを言いよるわ」と思っちゃいましたね(笑)。まず曲を理解するのに苦労しました。ジャズは単純にABCという流れじゃないので、そこでつまずいちゃって。
◆苦労しながら書いた詞には、どのような思いを込めましたか?
落ち込んだときや自己肯定感が低くなった時に、どんな言葉をかけてもらって、自分がどういう気持ちになれば「次も頑張ろう」「前向きになろう」と思えるのか考えながら歌詞を書きました。結果的に私のメンタル回復法をつづったような歌詞になっちゃったかもしれません。ただ、ネガティブな言葉は絶対に使いたくなくて。私の持ち合わせているポジティブな言葉と「人は誰も幸せで ロマンティックならいいのに」といった少しの願望を歌に込めました。
◆作詞する際は歌いやすさなども考えている?
考えられないですね……。本当にこれは何度書いてもダメです。
◆ダメ(笑)。
いっつも「こんな高音のところで歌いづらい言葉を入れたのはだれ?」「あっ、私だ」って自問自答しています(笑)。詞の内容を優先しちゃうんですよね。
◆つまり、それだけストレートに気持ちが乗っているということ。
そうかもしれません。いったん歌うことは忘れて、手紙を書く感覚で作詞しています。
◆そんな歌詞が、ブラスサウンドが印象的な曲に乗って届けられます。
いろいろな楽器が楽しそうに演奏していて、聞いているだけで体が思わず動き出すようなハッピーなサウンドに仕上がっています。今回のアルバムのリード曲にふさわしい、ゴージャスな楽曲ですね。
◆アルバムには新曲があと2つ収録されていますね。ひとつが「100年前に会いましょう」。
森(由里子)先生のまるで映画を見ているような詞が印象的です。聞いているだけで、1本の洋画を見ているような気分になる曲ですね。タイムマシンに乗って知らないところにたどり着いたとしたら、私ならすごく焦ってしまいそうですが、この歌詞の主人公は全部楽しめちゃうんです。「この後、何が起きるんだろう(ワクワク)」みたいなマインド。明るくて、元気をもらえます。
◆歌っているときも楽しかった?
楽しかったですね。レコーディングで「ワクワク感や楽しみな気持ちを存分に声に乗せてほしい」というディレクションがあったので、ウキウキしながら歌いました。
◆もうひとつの新曲が「トロイメライ・ミライ」。こちらはどのような曲ですか?
小さい頃の夢はまだ持ったままで諦めていない、きっと誰かと一緒ならかなえていけるという思いが込められた、ポジティブな楽曲です。個人的には、応援してくれているみなさんと私のことを表現した曲になっているとも感じたので、「一緒に羽ばたいていきたい」という私とみなさんのこれからをイメージしながら歌いました。(2022年に行ったライブツアー)『What a Sauce!』のアンコールで「君に話したいこと」という曲を歌ったとき、応援してくださる方々の力や、私とお客さんの絆を感じたんです。それを踏まえた曲をいつか歌いたいと思っていたので、この曲に巡り合えてうれしいですね。
◆全体的にポジティブな気持ちになれる楽曲が集まったアルバムに仕上がっているんですね。
「ユニットバス」は内容的には悲しい出来事ですが、最終的には前を向いている楽曲です。全体的にポジティブな気持ちになれる曲が集まった気がしますね。個人的にハッピーエンドが大好きなので、こういう曲たちを歌えて楽しいです!
◆このアルバムに収録されている楽曲のどれかに、救われる人がいるかもしれません。
そうだといいな!
◆伊藤さんが最近見た中で印象に残っているエンタメはありますか?
日常で見るエンタメは、ハッピーな気持ちになれるものが多いかも。そのなかでも最近はディズニー映画をたくさん見ています。映画を見終えたあと、周りがちょっと明るく見えるんですよね。大好きです。
◆特に印象に残っている作品は?
ずーーっと大好きなのは「美女と野獣」。最近見たなかだと「プリンセスと魔法のキス」が印象的でしたね。登場人物が困難を乗り越えていく姿を見て、私も頑張ろうという気持ちになりました。
◆なるほど。その他、伊藤さんが読者のみなさんに推したいエンタメは?
私、「お笑い」ってすごいエンタメだと思っていて。本当に大好きなんです。よく見るのは千鳥さんが出ているテレビ番組と、江頭2:50さんのYouTubeチャンネル。
◆その2組のどういうところが好き?
千鳥さんはとにかくふたりの会話がいい! ネタももちろん面白いんですけど、ロケやエピソードトークでの掛け合いが微笑ましくて好きですね。お互いを面白いと思っているあの感じが、見ていて心地よいです。エガちゃん(江頭2:50)はもう見ているだけで「一生懸命に生きなきゃ」って気持ちになる。体を鍛えないと動かない年齢だってご本人は言っていますが、それでも活発にいろいろなことにチャレンジしていて。こんな企画は無理だろうと思うことでも苦労しながら達成する姿を見ているだけで、泣けてきちゃいます。エガちゃんに勇気をもらっていますね。
◆江頭さんの個人的に大好きなところは、どんなチャレンジな企画でも、はにかんだり笑ったりするところ。あれって、なかなかできないことだと思うんですよね。
すごいですよね! しかも、エンタメとして面白い。チャレンジ企画をちゃんと笑いにする姿がカッコいいです。
◆千鳥さんも江頭さんも、エンタメを届ける人間として見習うべきところがたくさんある。
本当に! 千鳥さんのように誰かに笑顔を届けて、私のおしゃべりが少しでも楽しいって思っていただけるよう、頑張りたいです。そして、私がエガちゃんからパワーをもらっているように、伊藤美来が何かに一生懸命挑戦することが誰かの活力になればうれしいですね。
◆今後のことについてもお話を聞かせてください。2023年5月からはライブツアーの開催が決定しています。少し気が早いですが、こちらへの意気込みをお願いします。
今回のアルバムを引っ提げてのライブツアーになると思います。「伊藤美来も頑張っているから私も頑張ろう」「この曲に元気をもらったから頑張ろう」という気持ちになれるライブを作れたらいいな。まだセットリストなどは決まっていませんが、「盛り上がって最高だったぜ!」という内容よりは、少しほっこりしたり、あたたかい気持ちになったりするツアーにしたいと思っています。
◆では、今後、声優・アーティストとしてどんな活動をしていきたいですか。
デビューしてからしばらくは、いろいろな人に自分を知ってもらいたい、自分が作ったものを届けたいという気持ちで、がむしゃらにやってきました。そうして、気が付けばもう声優活動も10周年。驚いていますし、そろそろ落ち着かなければ、とも思っています。私、アフレコもソロライブも未だにすごく緊張するんですよ。でも、これから先はその緊張とも上手く付き合いつつ、心の余裕が持てるようになりたいです。できる限り楽曲制作も続けていきたいですし、役者としてまだまだたくさんの役に出会いたいし、スキルも上げていきたい。より自分と向き合う時間を作って、いい表現を世に出せるような「表現者」になりたいと思っています。
◆がむしゃらにここまで走ってきた分、ここからは丁寧さを心がけていく。
ですね。一歩、一歩確認しながら歩んでいきたいです!
PROFILE
伊藤美来
いとう・みく…10月12日生まれ。東京都出身。O型。主な出演作は『久保さんは僕を許さない』久保明菜役、『五等分の花嫁』中野三玖役、『アイドルマスター ミリオンライブ!』七尾百合子役など。
リリース情報
4th Album『This One’s for You』
2023年2月15日(水)リリース
価格
【BD付き限定盤】
4,400円(税込)
【通常盤】
3,300円(税込)
CD収録内容
1.laid back
2.ユニットバス
3.気づかない?気づきたくない?
4.Oh my heart
5.Gift
6.100年前に会いましょう
7.傘の中でキスして
8.パスタ
9.トロイメライ・ミライ
10.青100色
11.La-Pa-Pa Cream Puff
Blu-ray収録内容
「Gift」Music Video、メイキング映像
ライブ情報
伊藤美来 Live Tour 2023 Every Day is a Gift
2023年5月6日(土)神戸国際会館 こくさいホール
OPEN 17時30分 / START 18時30分 全席指定
キョードーインフォメーション 0570-200-888(11時~18時 / 日祝休業)
2023年5月13日(土)名古屋市公会堂
OPEN 17時 / START 18時 全席指定
サンデーフォークプロモーション 052-320-9100(全日12時~16時)
2023年5月21日(日)東京国際フォーラム ホールA
OPEN 17時 / START 18時 全席指定
サンライズプロモーション東京 0570-00-3337(平日12時~15時)
●photo/YOSHIHITO_SASAKI text/M.TOKU