カルト的人気を誇る漫画家・中村明日美子さんによるサイコサスペンスがWOWOWオリジナルドラマとして実写化。ある日、謎の死を遂げた美しい女性「朱」と、人気作家・溝呂木(北村有起哉)の前に現れた彼女の双子の妹と名乗る「桜」。ミステリアスな2人の女性を演じる前田敦子さんが、作品への意気込みや見どころなどを語ってくれました。
◆中村明日美子さんによるコミック原作を読まれたときの印象は?
2020年の春ぐらいに原作を読む機会を頂いたのですが、今も頭にこびりついて離れないほど、とても画が印象的な作品でした。また、独特な世界観も素晴しいですし、全く先の読めない物語に引き込まれていきました。そして、最後には大きな衝撃を受けました。だからこそ実写化するのはとても難しいことだと思っていましたし、原作のある作品は私自身あまりやっていなかったので、少しだけ不安もありました。ただ、監督さんもプロデューサーさんも「ウツボラ」の大ファンだったので、安心して準備を進めることができました。
◆今回、朱と桜という2人のキャラクターを演じ分けることについては?
軸にあるものが一緒な2人だからこそ、「ウツボラ」という作品に対して、また溝呂木先生という人物に共依存したと思うので、あえてあまり差をつけないようにしました。監督からも「そこまで変えないでほしい」というリクエストを頂きましたし。実際に原作の2人も髪形が違う程度で、どちらがどちらだか分からないところが面白いわけですし。あえて言うなら朱の方が恥じらいがあるので、若干人間らしいかも(笑)。原作を教科書にしながらできるだけ寄せて演じたのですが、一番意識したことは瞳です。2人とも心が読みづらく、何を考えているか分からないけれど、瞳にはどこか引き付けられてしまうと思ったので。
◆現実か虚構か分からない世界観や一人の男性を翻弄する役どころとしては、昨年公開された映画「コンビニエンスストーリー」で演じられたヒロインにも通じるところがあります
監督の演出も「コンビニエンスストーリー」とは全く違いましたし、溝呂木先生役の北村さんの存在も大きかったと思います。ラブシーンを撮るときも気を遣っていただき、とてもありがたかったです。ラブシーンが多くてそれが重要になる作品ですが、“それだけの作品にはしたくない”ということは皆さんといろいろ話し合いました。男性を翻弄するということは作品の中だからこそできる特殊なアプローチなので、開き直って、楽しみながら演じさせていただきました(笑)。
◆ミュージカル「夜の女たち」でも共演された北村さんの魅力を教えてください。
続けて共演させていただいて、役者バカと言えるほど、とても真摯に役と向き合われている方だと思いました。ずっと考えていらっしゃっていて、「溝呂木のように女性と真っすぐ向かい合う役は今までやったことがないから、どうしていいか分からないんだよね」とおっしゃっていて。そういった気持ちを一切隠さないところもありがたかったです。役を離れるととても天然な方で、ギャップがあるんです。だからこそみんなに愛されている方なんだなと思いました。
◆作品を作りだすための“生みの苦しみ”もテーマになっていますが、それについてはどのように捉えていますか?
私はこの世界に入ってまず秋元康先生という大きな存在の下で活動していたので、何かをゼロから作り上げる人、特に言葉や文章にする作家さんのすごさはずっと感じています。私には絶対にできないことですし、したいとも思いませんし(笑)。私はそれを元に具体化していく立場ですが、作家さんや演出家さんの前でそれを表現する舞台の稽古が一番緊張しますし、怖いかもしれません。
◆今回、完成した作品をご覧になってどんな感想を?
撮影は愛知県の蒲郡市・幸田町でロケだったのですが、東京では撮ることができない“色”が出ていると思いました。とてもミステリアスな作品なのに、なぜか穏やかな時間が流れていて。私の中では全体的に水色っぽいイメージがあるんですけど、原作を読んだだけでは分からなかった映像から醸し出される美しさみたいなものに、私自身も感動しました。すごくいい意味で原作を忠実に再現しているので、見比べていただいても面白いと思います。
◆そのほか、何か見どころはありますか?
見る人に問いかけるというよりは、作品の世界観にどっぷり浸かってほしいという気持ちで朱と桜という2役を演じました。何かを愛するが故に自分を見失っていく危うさ、そして悲しさや儚さが描かれた作品になっているので、繰り返し見て楽しんでいただければと思います。そしてもし気に入っていただけたら、桜の季節に蒲郡でロケ地巡りをしてみるのもお薦めです。
◆前田さんのキャリアにおいて『ウツボラ』はどんな作品になりましたか?
原作は10年前の作品ですが、私が30歳を過ぎた、大人になったタイミングでこの作品をやらせていただいて本当によかったと思っています。もしまだ20代だったら、違うことで構える自分が出てくるし、作品に飲み込まれてしまったような気がするんです。それに、ミステリーというジャンルだったり、地上波ではなかなかできないこと…例えば大きい声を出すことをあまり意識しなくていいとか、映画のように撮影からじっくり1年間かけて制作するとか。自分にとって“初めて”のことがまだまだあることに気づかされた作品でもあります。自分でも胸を張れる作品になったと思います。
◆事務所を独立されて2年たちましたが、次々と出演作が世に出ています。現在の心境を教えてください。
お仕事をもっと頑張りたいという気持ちで独立したのですが、この2年で言霊って本当にあるんだなと思いました。誰かと一緒にいるときに口に出すことで、“何かをつかみにいこう”“引き寄せていこう”と自分の気持ちが変わっていくんだと思います。例えばメイクさんと話していたときに「また野田(秀樹)さんと一緒に仕事したいな」と喋った5分後ぐらいに、「東京キャラバン the 2nd」の出演オファーが来たんです。それはさすがにびっくりしました(笑)。
◆最後に、春の思い出を一つ教えてください。
子どもが3月生まれで、今はそのイメージが強いです。一緒にディズニー作品を見ることが多くて、最近は「ベイマックス」にハマっています。そういえば、この前一緒にディズニーリゾートに行ったときに「グズグズしていたら、乗り物に乗れなくなっちゃうよ」と注意したんです。そうしたら夜に「今日のママずっと怒っていたけど、全然怖くなかった」と言ってきて…何か一枚上手なんですよね(笑)。ちなみに出産したことで長年悩まされていた花粉症が治りました! きっと、体質が変わったんだと思います。
PROFILE
●まえだ・あつこ…1991年7月10日生まれ。千葉県出身。A型。最近の出演作に映画「暑い胸さわぎ」「僕は途方に暮れる」「そばかす」「もっと超越した所へ。」、ミュージカル「夜の女たち」など。現在、『ポップUP!』(フジテレビ系)に水曜コメンテーターとして出演中。
番組情報
連続ドラマW-30『ウツボラ』
WOWOWプライム、WOWOWオンデマンドにて、3/24(金)23:30より放送&配信スタート
<STAFF&CAST>
原作:中村明日美子「ウツボラ」(太田出版刊)
脚本:小寺和久、井上季子
監督:原廣利
出演:前田敦子、北村有起哉 ほか
<STORY>
謎の死を遂げた美しい女性・朱(前田)と入れ替わるように、その双子の妹と名乗る桜(前田=2役)が人気作家の溝呂木(北村)の前に現れる。実は溝呂木は朱の小説「ウツボラ」を盗用していて、元の原稿を持つ桜は溝呂木にある提案を持ちかける。溝呂木が盗作の深い闇へと追い詰められていく一方で、刑事たちは朱の死の真相を追っていた。
●text/くれい響