小野花梨さんと風間俊介さんがW主演を務める『初恋、ざらり』(テレビ東京系 7月7日(金)スタート 毎週金曜 深夜0時12分~)。小野さん演じる有紗のアルバイト先の先輩・岡村龍二を演じる風間さんに、本作の印象や作品に込めたメッセージなどを聞きました。
原作は、SNSを中心に話題を集め「このマンガがすごい!2023」にもランクインした、ざくざくろ著の同名作。主人公の上戸有紗(小野)は軽度知的障害と自閉症がある女性。身の回りのことをうまくこなせず、立体的に物を見ることができないため体をぶつけてしまう、暗黙の了解が分からないといったハンディを抱えている。
◆本作の出演が決まった際の心境をお聞かせください。
お話を頂いたときにまずは原作を読ませていただきましたが、タイトルに感銘を受けました。初恋の初々しさや温かさ、優しさがしっかりと伝わりながらも、そこに確かにある痛みみたいなものを感じて。決して切りつけるような痛みではなくて、タイトルの「ざらり」そのものだと感じました。本当にタイトルが素晴らしいんだなと。なので、実写化したときに手触りの“ざらり感”だったり、初恋の初々しさみたいなものを表現できたらなと思いました。
◆本作で演じられる岡村龍二にどのような印象を持たれていますか?
すごく優しい人だなと思いました。でも、この優しさというものが時に人を傷つけたりすることもあって。今回登場するのが知的障害の女の子なのですが、その子を気遣えば気遣うほど対等から遠ざかってしまう瞬間があると思うんです。なので、優しい人物ではあるものの、その優しさが時に残酷だったり人を傷つける瞬間があるのだと思うと、優しいってなんだろうな、と問いかけるような役になると思います。
◆実際に岡村を演じられていて、学んだところやご自身に影響したところはありますか?
個人的に、福祉の番組を長くやらせていただいていて、僕の中でのマイノリティや障害がある方への接し方の矜恃みたいなものがあるんですけど、それが岡村とハマらない瞬間がいくつかあるんです。ドラマを見てくださる方からしても、「岡村甘いな」「それはちょっと違うんじゃない?」と思う瞬間がきっとあると思うのですが、当事者たちはそういうことを繰り返しながら理解していくと思っていて。岡村も、有紗を大切にしたいからこそ、大切と腫れ物が紙一重になる瞬間がやってきたりするんですけど、失敗して後悔する時間を繰り返していかないと本当の理解はきっとないと思うんです。でも、人間関係って、そのトライアンドエラーを繰り返させてくれるかというとそうでもないところもあって。
なので、岡村から何かを学ぶというよりは、岡村の失敗を見て、「でも理解するにはその失敗を経ないとだめだよね」というところを再確認しています。
◆岡村を演じられていて、視聴者の方に注目してほしいと感じた部分はありますか?
難しいのが、このドラマがラブストーリーなのかヒューマンドラマなのか僕には分からないんです。でも、そこが僕としては一番好きなところで。なので、逆に視聴者の方にどう見えたかを聞いてみたいです。それこそ多様性というのもあって、一人一人が感じて生み出していくものだと思うんですね。視聴者の方の感想がどんな角度であっても、我々が「この方にはこう見えたのか」と受け入れること自体が多様性なんじゃないかと思います。
◆ヒューマンドラマなのかラブストーリーなのか…というお話でしたが、風間さんから見て有紗と岡村の恋愛はどういうふうに映りましたか?
僕の願いも込めて、原作と同じく“初恋ざらり”だったらいいなと思っています。それを目指しているので、ドラマでもそうなっていると思います。かわいらしいし、お互いを思っているし、2人とも真摯だし。でもお互い真摯に向き合っているからこそずれるところもあって。ずるさがないからこそすれ違う、ごまかしを利かせられていないから痛みが伴う部分もありますね。
◆演じていて難しかったことはありますか?
言葉を選ばずにせりふをチョイスしたい瞬間もあるのですが、今の社会だと多くの人がそういった言葉を受け入れられないのではないかというところもあって、言葉を柔らかくしたり、ぼかしたりするところがありました。真意を伝える中で直球な言葉から少しずらすのは、工夫であり気遣いでもあり、悔しさがにじむ瞬間でもありました。直球の言葉だったとしても、いつの日か真意が伝わる社会になったらいいなと思います。
◆本編で印象に残っているシーンはありますか?
水族館に行くシーンがあって、お土産にクラゲの縫いぐるみを買うんです。それがその後も岡村の部屋にあるんですけど、そのクラゲの縫いぐるみがやたらいい仕事をするんですよ(笑)。ドラマ上では2人の思い出の品というものが他にもいくつかあるのですが、全然想定していなかった縫いぐるみにめちゃくちゃ思い入れが出てくるっていう。それがすごく日常だなって思ったんです。2人の記念品にしようと言っていたものではないような、なんでもない物に愛着が湧いていくっていうのはリアルだなと。なので、先ほど見てもらいたい角度はないと言ったのですが、クラゲは注目していただきたいです!
◆小野花梨さんとは久しぶりの共演ですよね。
前に共演させていただいたのは、映画「鈴木先生」(2013年)という作品でした。「鈴木先生」というのは今活躍している20代の俳優たちがたくさん出ている作品で、その作品に出ていた人たちとしゃべるたびに「風間さんは鎌を持って学校に立てこもる人だった」とみんな言うんです。花梨ちゃんを人質に取った後に、土屋太鳳ちゃんを人質に取るという…。初めて花梨ちゃんと対峙したときは、人質に取るという状況でした(笑)。
◆それが今回ラブストーリーということですが…。
そうなんですよ(笑)。感慨深いですよね。小野花梨さんという方は、本当にすごい女優さんなんですよ。連続ドラマの『鈴木先生』(2011年)のときに花梨ちゃんを知ったのですが、ドラマ撮影時に小学生だったということに衝撃を受けました。その後、中学生になった花梨ちゃんと映画「鈴木先生」で共演して、また時を経てこうやって共演できて。お互い続けてきた時間があるからこの共演があったと思うと、僕もあれからの月日を見せたいですし、花梨ちゃんがあれからどのように過ごしてきたのかというところもしっかり受け止めたいと思います。
◆最初の共演から年月がたって、今の小野さんと向き合われていかがですか?
相変わらずとんでもない女優さんだなと思います。演じる役に寄り添って、役がどういうふうに動くかというのを考えつつ、最後は自分の直感、体感を信じて演じられている印象があります。それは、前に共演した中学生のときからきっと変わっていないんだと思いますし、そのスタイルでずっとやっていくというのは本当に努力のたまものだと思います。年上からの傲慢に聞こえてしまうといやですが、年下ながら尊敬しています。
◆撮影中はどのようなお話をされていますか?
ひたすらキャッキャキャッキャしてますね(笑)。謎かけのこころを当てるクイズをみんなでよくやっていて、中学生の修学旅行かよってくらい盛り上がりました(笑)。
◆小野さんの取材会のときに風間さんの魅力を何時間でも語れるとおっしゃっていたのですが…。
花梨ちゃんのアメとムチがすごく面白くて。僕がちょっと調子に乗って「俺そういうところあるよね」と言った瞬間、きれいにはしごを外すっていう掛け合い漫才のようなことをやってのけるんです(笑)。すごく褒めてくださるんですけど、そこに乗っかった瞬間に花梨ちゃんはムチを持ってくれる人なので、あまり調子に乗りすぎないようにしようと思います(笑)。
◆近年、障害を現実に即した形で取り上げるドラマが増えてきていますが、風間さんはその現状についてどう思われますか?
今、俗に言われる“多様性”な時代で、それを受け入れている最中だからこそ注目が集まっていると思うんです。でも、後々それが当たり前になって、特色と呼ばなくなる時代がくるかもしれない。何十年後かの人たちが見たとき、これがありふれた物語になっていたら、それはそれですてきなことだと思います。この作品に関しても、今はそこがピックアップされる作品になっていると思いますが、我々はそれを軽視するつもりもなければ過保護にするつもりもなくて。今の社会を生きる人たちからすると「もっと丁寧にそこを描いてほしい」と思われる方もいらっしゃると思うのですが、何十年後かの人からしたら、「この人自身を好きになったんだしそれが当たり前の世界なんだから、これくらいでいいよね」となるかもしれない。このドラマではそんなふうに時にサラッと描く部分もありますね。
◆風間さんはドラマ『silent』(2022年)でも障害のある方と接する役を演じられていましたが、今回の役と通ずる部分はありましたか?
眼鏡ですね(笑)。あと、僕が大好きな作品『ひとつ屋根の下』(1993年)、『星の金貨』(1995年)、『愛していると言ってくれ』(1995年)など、マイノリティや障害のある方の物語というのは今までもありました。今回の『初恋、ざらり』の一報出しの中に「普通」という言葉があったのですが、原作の中でも有紗が「普通になりたい」というふうに「普通」という言葉を使うんです。でも、この一報出しがあったときに、「制作側が普通という言葉を使うのはどうなのか」という意見もありました。だけど、その議論が生まれてくれること自体、物語やドラマの役割としては正しいと思うんです。先ほど言った作品や『silent』、今回の作品など、障害のある方が出てくる作品はたくさんありますが、例えば“主人公の友人”のような、障害があるから物語が生まれるのではない役、そういった方たちの加わりが今後どんどん増えてきたら、僕が今言った「そういった方」という言葉もなくなるのかなと思います。
昨今そのような作品が増えている中で、どこかのタイミングでもう一段また状況が変わるんだろうなと思うと、その流れの中でお芝居をしている今、変わる瞬間に立ち会えているかもしれないので、このドラマもそういう未来への架け橋になるような作品になればいいなと思います。
◆あらためて、本作の魅力はどのようなところにあると思いますか?
優しさってなんだろうというところを考えていただけると思います。知的障害がある人たちと対面したときに、「全然そう見えない」というワードって、どっちの言葉なんだろうって思う瞬間があるんです。優しさの良い意味での言葉なのか、逆に一見そう見えないけど落胆したという意味なのか。優しいと思って持った言葉は本当に刃ではないのかなと考えていただける作品だと思うと、すごく意味がある作品だなと思います。
人から聞いたら差別だと思われる言葉でも、相手との信頼関係があってその人に何かプラスを起こしたいと思って放った言葉はプラスなんだと思うんです。逆に、相手のことをそこまで考えていなくて、耳触りのいい言葉を言っていればいいやと思って言った言葉は、どんなにきれいな言葉でも刃に変わると思います。結局は心持ちですよね。
昨今の社会ではどうしても切り取られたりする瞬間があるが故に、その言葉を使ったらだめだと目くじらを立てる人が多いと思いますが、その人がなぜその言葉を相手に向かって言ったのかということを深く考えないで批判するのではなくて、愛を持って相手に言った言葉はなんでも伝わる瞬間があるんだと。そのようなことを考えていただける作品だと思いますし、そこがこの作品の魅力だと感じています。
◆最後に、視聴者の方へのメッセージをお願いします。
どう見てもらってもかまわないというドラマだと思っています。でも一つ言えるのが、根底にあるのは温かさや優しさだということ。この作品は、最終回だけ台本の色が違うのですが、それ以外は総じて薄ピンクの台本なんですよ。その薄ピンクっていうのがこの作品全体を包んでいるような気がしています。「薄ピンクな作品です」とだけ言われても「何言ってるんだろう」と思われてしまうかもしれませんが(笑)、温かい気持ちになれる作品だと思いますので、ぜひご覧ください。
PROFILE
風間俊介
●かざま・しゅんすけ…1983年6月17日生まれ。東京都出身。A型。
番組情報
ドラマ24『初恋、ざらり』
テレビ東京系
2023年7月7日(金)スタート
毎週金曜 深夜0時12分~
配信:各話放送終了後から、動画配信サービス「Lemino」「U-NEXT」にて第一話から最新話まで見放題配信
広告付き無料配信サービス「ネットもテレ東」(テレビ東京HP、TVer)にて見逃し配信
主演:小野花梨、風間俊介
共演:尾美としのり、熊谷真実、西山繭子、浜中文一/若村麻由美
原作:ざくざくろ『初恋、ざらり』(CORK/KADOKAWA)
脚本:坪田文、矢島弘一、池田千尋、紡麦しゃち、藤沢桜、上野詩織
監督:池田千尋、七字幸久、倉橋龍介
チーフプロデューサー:祖父江里奈(テレビ東京)
プロデューサー:北川俊樹(テレビ東京)/廣瀬雄(東北新社)
音楽:元倉宏、小山絵里奈
制作:テレビ東京/東北新社
制作協力:楽映舎
製作著作:「初恋、ざらり」製作委員会
公式HP:https://www.tv-tokyo.co.jp/hatsukoizarari/
Twitter:@tx_koizara
Instagram:tx_koizara
©︎「初恋、ざらり」製作委員会