DMM TVのオリジナルバラエティコンテンツ『横道ドラゴン』の配信が、2023年8月11日よりスタートした。本作は、真実にたどり着くためなら非道な捜査も厭わないアウトロー刑事・反田龍児と、エリート街道を進む敏腕刑事・由良歩、橘陶子が龍児のバディとなって事件の解決に挑むクライム・サスペンスストーリー。しかし、各話に用意された捜査シーンは台本一切なし。メインキャストは誰がゲストなのか知らないまま本番に挑み、アドリブで物語が進行するという。
そんなチャレンジングな本作について、反田龍児役・劇団ひとりさん、由良歩役・真木よう子さん、橘陶子役・門脇麦さんにインタビュー。「誰もプロフェッショナルがいなかった」という本作の見どころについて、お話を聞きました。
◆捜査シーンは全てアドリブという本作。最初に企画の内容を聞いたときはどう思いましたか?
劇団ひとり(以下、ひとり):僕は「こんな企画をやろうと思っている」という構想の段階で出演のお話を聞いたんです。当時はまだアドリブがそこまで物語に作用するような仕組みじゃありませんでした。だから、「ドラマの展開がアドリブの内容を受けて変わるくらい、アドリブに比重を置いてくれないか」って話を(本作の企画を担当した)橋本(和明)さんにしたんですよ。そしたら、ぜんぶ真に受けてくれて(笑)。その通りになりました。
◆すべてを真に受けてもらえるとは思っていなかった?
ひとり:「そうなったら面白いな」というくらいの気持ちで伝えたんです。ある程度キャリアを積んだ役者やスタッフさんたちが集まったら、保険のかけ方っていくらでもあるんですよ。例えば、台本を書いて最終的にここに着地すると決めておけば、アドリブ劇だったとしても、その通りに進められる力はあると思うんです。でもそうじゃなくて、「現場にいる誰も今後の展開が分からないぐらいのもの」を見てみたくて。結果、その通りにしてくださいました。
◆そういう意味では、ふだんエンタメジャンルで活躍されているプロフェッショナルのみなさんもひりつく現場だった。
ひとり:そうです。この現場に関しては、誰もプロがいなかったというね。これまでのキャリアがあまり役に立たなかったというのが面白かったです。
真木:私は仲の良いスタッフさんから声をかけていただいたのが、出演のきっかけでした。「バラエティやるから参加してもらえない?」と言われて、概要もそんなに聞かないまま「いいよ」と返事をしたのですが……ド後悔しています。とはいえ、終わってみれば楽しかったですね。声をかけてくださったスタッフさんとまた一緒に仕事できてよかったです。
門脇:私も、軽く受けてしまったと言いますか……。完全に視聴者目線で「面白そうじゃん!」と思って出演を決めたのですが、撮影が近づくにつれて、だんだんと不安が募っていきまして。というのも、私は本作に途中から加わるメンバーで、出演する前にもらった、それまでのあらすじが複雑かつ散らばりまくっていたんですよ。「ほんとうに出たくない」と言いながら、現場入りしました(笑)。
◆実際にアドリブパートの撮影をするとき、みなさんはどういうお気持ちでしたか?
ひとり:アドリブするとき僕は、とにかく何も考えないようにと心がけているんです。撮影や収録前って、どうしたっていろいろと考えちゃうんですよ。予想しちゃうんですよね。ただ、そういうのをなるべく取っ払って、裸一貫で入って、そこで感じたことを口にしたくって。自分で最初から予想すると、どうしてもそっちへ持っていこうとしちゃう自分がいるんです。経験上、予想しながらアドリブすると上手くいかないから、そうしているんですけど。だから、アドリブする際の気持ちとしては「何も考えていない」んです。
◆確かに、ふだんの生活でも「こうやってコミュニケーションを取ろう」と思って臨むと、意外と上手くいかないことがあります。
ひとり:要は不自然になっちゃうんですよね。決め打ちして臨むと絶対、不自然さが生まれちゃう。
◆真木さん・門脇さんはどんなお気持ちでアドリブパートの撮影をしていましたか?
真木:何だか、すごく上手な人たちと一緒にバレーボールをやっているような感覚でした。そのなかで、絶対に球を落としちゃいけない、みたいな。だから、常に緊張していました。ただ、お笑いの世界の人間でもない私が、何かを決めてやっちゃうのはいけないだろうなという気持ちはずっとありましたね。
◆ドラマや映画でアドリブ芝居するときと感覚はぜんぜん違った?
真木:ぜんぜん違いますね。アドリブで芝居することがずっと続くことなんて、なかなかないですし。一応、放送に乗せられないNGワードを言わないようにだけは気を付けていましたが、他は何も考えていなかったです。
門脇:「アドリブ演技」って言うなら演技をしますが、本作は「アドリブ演技」ではなく「アドリブ」なんですよね。10年間演技に携わる仕事をさせていただきましたが、今回は別に演技してないですもん。加えて、感覚は人それぞれだと思いますが、私はふだんの仕事でも演技しているって気持ちはそんなになくって。それなのに台本がなかったら、もう何を言っていいか分からない、どうしようという気持ちでした。いかに相手の言葉をキャッチするのかという作業でしたね。演技ではなく、素の私でした。
ひとり:この作品を見た方は、出演者がふざけたり、おちゃらけたりしているように見えるかもしれませんが、みんな頭をフル回転させていますからね。手を抜いて対応できるもんじゃない。みんな必死ですよ。
門脇:ちょっと休んだり、会話を回避したりしようとすると、ひとりさんに引っ張られるんです。
ひとり:僕は休もうとしている人をすぐ見つけちゃうんで。「あっ、逃げようとしているな」って思ったら、引っ張ってきちゃう。
門脇:私は陶子という役なのですが、「おい、陶子!」って何回も言われました。そして、言われる度に「ひぃ! 呼ばないで!」と思っていました(笑)。
◆劇団ひとりさんは、あえて巻き込もうとしていた。
ひとり:このふたりは絶対に巻き込もうと思っていました。
門脇:でも、逆に巻き込んでくださらなかったら会話に入れなかったと思いますから、よかったかも。
真木:だね。私も「歩!」って言われたら、「ありがとうございます!」と思っていました(笑)。
◆数々の番組でアドリブ劇を披露してきた劇団ひとりさん。意識していることやコツなどはありますか?
ひとり:先ほども言いましたが、やはり「考えないこと」ですね。気の利いたことをアドリブで言える訳ないんですよ。そんなこと言えるなら、世の中に脚本家なんていらないんだから。だから、なるべく素直に、その世界に上手く入り込む。あとはもうオートパイロットじゃないけれど、勝手に自分が動いてくれるというか。それが毎回できたら苦労しないんですけどね。
◆共演者の方との絡みによっても、生まれるものがあると思います。
ひとり:それはありますよ、やっぱり。自分ばかりが頑張ったって上手くいく訳はなくて。バーンとぶつかったときに、相乗効果で生まれるものがたまーにあるかな、という感じです。
◆真木さん・門脇さんとのアドリブで生まれたものもあった。
ひとり:当然あった……と思いたいです。それぞれが「気持ちよかったな」という瞬間があったらいいなと思っていますね。
◆真木さんは実際に気持ちよかったなと感じた瞬間はありましたか?
真木:私のみだったらありましたが、「これ、ひとりさんは気持ちいいのかな」と考えていましたね。
◆相手が気持ちいいのかとも考えていたんですね。まさにコミュニケーション。
ひとり:ですね。お互い腹を探りながら一生懸命に頑張っているけれど、ぜんぜん上手くいかないときもあって(笑)。
真木:ありましたね(笑)。
ひとり:でも、もう物語は動き出しちゃっているから。この展開は完全に泥船だなと思っていても、みんなで溺れながら必死にやらなきゃいけないときもあるんですよ。つらいです。
◆門脇さんは気持ちよかったと思った瞬間はありましたか?
門脇:私は、そこまでたどり着けなかったですね。相手がどういうふうに持っていきたいのか、この場面は押したほうがいいのか引いたほうがいいのか、みんなで探り合っているような感じでした。まさにコミュニケーション。ただ、お互いがやりたいことが通じ合ったときは、心が晴れるというか。そういう意味の気持ちよさはありました。
真木:私、麦ちゃんともっとやりたかったかも。女優同士だったら、恐らくもうちょっと分かり合える部分があったと思う。
(こんなお話も!)劇団ひとりさん・真木さん・門脇さんが読者の方々に推したいエンタメは?
ひとり:Apple TV+で配信されている『ハイジャック』。ハイジャック犯に飛行機を乗っ取られて、いかに解決していくかというシンプルなお話です。ただ、「いやいや、あるじゃん、『ハイジャック』ものなんていっぱい」と思わないで、プレーンな目で見てほしくって。やっぱり面白いですよ。『ウォーキング・デッド』が発表されたときも「もうゾンビものなんてこすられまくっているんだから」って言われていたのに、あんなに面白いものができたんだから。食わず嫌いにならず、見てほしいですね。
真木:娘がすごくアニメを見るので、私も影響されてよく見ています。なかでも『ブルーロック』。漫画も読みましたが、もう完全に蜂楽(廻)くん推し。娘とふたりでアニメイトに行って、『ブルーロック』のグッズも買いました。面白いので、ぜひ。
門脇:アニメだったら『天国大魔境』。最高です。あとは『進撃の巨人』に滅茶苦茶ハマっています。伏線だらけ。その世界の成り立ち、過去や未来などが絡み合うので、SF好きの方は絶対に好きになると思います。ドラマだと『セレブリティ』かな。
ひとり:あれ面白いんだ!
門脇:面白いです! 1、2日ぐらいで一気見しました。アジアのインフルエンサーの闇みたいな感じの話なんです。危うい世界の話で、見ていてすごく面白かったですね。
◆『横道ドラゴン』にも、みなさんが推すエンタメのような要素はある?
門脇:ある……かもしれないです。
ひとり:伏線だらけですよ。ただ、回収率は4割くらいかな(笑)。それも含めて楽しんでほしい作品です。
プロフィール
劇団ひとり
●げきだん・ひとり…1977年2月2日生まれ。千葉県出身。太田プロダクション所属。
真木よう子
●まき・ようこ…1982年10月15日生まれ。千葉県出身。そよかぜ所属。レプロエンタテインメントとマネジメント契約
門脇麦
●かどわき・むぎ…1992年8月10日生まれ。東京都出身。ユマニテ所属。
作品概要
横道ドラゴン
DMM TVにて2023年8月11日より配信中。毎週金曜更新(全6話)
<出演者>
劇団ひとり 真木よう子 門脇麦
岡田義徳 永野宗典
小手伸也、岩崎う大(かもめんたる)、小峠英二(バイきんぐ)、ヒコロヒー、ふせえり
狩野英孝、真空ジェシカ、国崎和也(ランジャタイ)、大久保佳代子(オアシズ)
錦鯉、光石研、酒井貴士(ザ・マミィ)、小宮浩信(三四郎)、東ブクロ(さらば青春の光)
ベッキー、井口浩之(ウエストランド)、春日俊彰(オードリー)、かが屋
平子祐希(アルコ&ピース)
<スタッフ>
企画・総合演出:橋本 和明
脚本:上田誠(ヨーロッパ企画)
●photo・text/M.TOKU