堤幸彦監督が『ノッキンオン・ロックドドア』制作秘話を語る「松村君と西畑君の卓越したお芝居が刻まれている」

特集・インタビュー
2023年09月01日
『ノッキンオン・ロックドドア』堤幸彦監督

松村北斗演じる“トリック=不可能(HOW)専門探偵御殿場倒理と、西畑大吾演じる動機や理由=不可解(WHY)専門探偵片無氷雨が、W探偵として数々の難事件に挑んでいく30分の本格ミステリードラマ『ノッキンオン・ロックドドア』。

そんな本作でメイン監督を務めるのが、『トリック』『ケイゾク』『SPEC』など、唯一無二のバディミステリーを次々と大ヒットさせてきた堤幸彦監督だ。撮影を終えた今、堤監督が感じていることや本作に感じる魅力、撮影の裏話やW主演を務める両名の印象を聞きました。


◆当初、この作品をどのように描きたいとお考えでしたか? 

コンパクトで質のいいミステリーを作りたいと考えていました。このドラマは30分という短い枠ですので、あまりギャグやシュールな方面に逸れてしまうと戻れなくなってしまうなと思い、その辺は今回は控えようと(笑)。物語の始まりがあり、 混乱や気づきがあり、最終的に謎を解く、という流れを30分にまとめるということを大切にしています。また、この作品は倒理、氷雨、穿地(石橋静河)、美影(早乙女太一)というメインキャラクター4人の“秘密”が後に物語の軸となっていきますが、なによりそれをきちんと描くにはミステリーに対して真面目なドラマでなくてはならないな、と思ったんです。とはいえクスっと笑えるようなシーンも入れているのですが、それはあくまで刺身のツマのようなもので、主演の2人を中心とする骨太なミステリー展開を楽しんでいただけたら、と。最終回に向けて、なぜこの4人はこの4人でなくてはならなかったのか、彼らが今後どうなっていくのか、ということも語られていくので、ぜひ楽しみにしていていただけたらと思います。

◆原作、脚本を読まれた際の印象はいかがでしたか?

とても分かりやすく、サクサクと読めるポップないい作りの物語だなと思いました。それは何故だろうと思っていたのですが、いざ原作者の青崎(有吾)先生とお会いしたら、とてもロックなリズム感をお持ちの方で。ボブ・ディランの名曲をもじったであろう、この作品のタイトルにもそれが象徴されていますよね。かつての名バンドであるチープ・トリックのことが描かれていたり、そういう青崎先生がお持ちのリズム感が筆のノリとリンクしているのかなと感じて。僕もどちらかと言うと音楽寄りの人間なので、サクサク読める理由はそこにあるのかな、と。ミステリー作品として面白いのはもちろん、それ以外のリズム感みたいなものが物語に大きな効果をもたらしているなと思ったので、ドラマ作りにおいてもそれをヒントにできればなと思いました。
また、浜田(秀哉)さんの脚本は本当によく描かれていて、演出的に解釈して映像化するに当たり、こちらでイメージを広げていく必要がほとんどなかったです。このまま朗読劇をやっても成立するのではないかなと思うくらい、素晴らしい脚本だと思います。 

◆今回W主演を務める松村さんと西畑さんの印象は?

まず、2人ともとても真面目ということ。以前石橋さんも語っていましたが、本当に尊敬に値する真面目さです。役者と言っても人間ですから、暑さであったり疲労感に対する乱れもあると思いますが、2人はそれをおくびにも出しません。ある種のタフさというのも俳優に求められる重要な条件ですが、それはもう十分にクリアしていますし、節度とマナーをわきまえている2人だなと思いました。ただ、僕は古くからジャニーズ事務所の皆さんとお仕事をさせていただいていますが、これは2人に限らずほぼ皆さんに共通する話で。例え何十ページであろうと撮影が始まる前にせりふが全て入っていて、チームの要求にきちんと答えてくれる。そして、こちらが求める以上の何かを残して帰るという面では、2人も共通していて本当に素晴らしかったです。

『ノッキンオン・ロックドドア』左から)西畑大吾、松村北斗©テレビ朝日

◆お2人が倒理と氷雨を演じるに当たって、それぞれどのようなことを伝えましたか?

松村君は見ての通り素晴らしい顔立ちで、きっと無言でも画が成立する人なんです。でも、それでは面白くないので、基本的に早口で自分の言いたいことを言い放して、それが周囲にどう広がっていくかは考えないような、少々わがままなキャラであってほしいと伝えました。ドラマ的にも、そういう人が壁にぶち当たって悩む姿というのはやはり面白いので。でも、松村君は自分でもいろいろ見せ方を考えてきてくれていて、決してそれが外れていなかったので、あくまで彼を後押しした格好になっています。
西畑君には、氷雨は理知的でありながら、丁々発止ではなく何かあってもひと呼吸おいてから話しだすような、自分だけのリズム感を持っている人にしてほしい、ということをお願いしました。なので、倒理がガーっと来た時もそれをストレートに受け止めるのではなく、ちょっと変化を付けながら受け止めてもらえたらと。あと、話において出方が少しずつ変化していくので、1話においてはちょっと控えめで倒理に対して受けの芝居が多くなるかもしれないけど、徐々にそれは変わっていくからと伝えていて。
そういうリズム感の微妙に違う2人が、成立しているのかしていないのかよく分からないバディとして活躍するドラマというのはとても面白いなと思いましたし、ピッタリはまっている2人だなと思っています。 

◆穿地役の石橋さん、美影役の早乙女さんについてはいかがでしょうか?

今回、石橋さん演じる穿地というのは、実は一番難しい役なんじゃないかと思っています。というのも、目の前で展開していて、見れば分かるだろうということを「何してんだお前ら!」と問いただす(笑)、いわゆる“ボケ刑事キャラ”というのは、演じる方はなかなか大変なのではないかなと。それをあの凛とした石橋さんがやってくれるのが面白くて仕方がなかったですし、演じていただいて大正解だったなと確信しています。
そして、早乙女君演じる美影の謎というのは後に解明されていくわけですが、登場から最終回に至るまでの彼の立ち振る舞いがこのドラマの非常に大きな軸になりますので ぜひこれはあまり説明なしに、楽しみに見ていただきたいなと思います。 

◆松村さん、西畑さんの“俳優”としての魅力はどのように感じられましたか?

松村君は、きっとどんな役でも引き受けてくれるんだろうなと思いました。今回のようにちょっと面白くてカッコいい役どころはもちろん、性格的に破綻しているダメな感じだったり、昭和っぽいレトロな香りのする男だったり…他の作品での松村君も見てみたいですね。きっといろんな色に染まれるタイプの俳優だと思います。
そして、西畑君はとにかく勘が良く、自分で役を訴求して現場に臨むタイプで、松村君同様に大変優秀な俳優です。個人的に、今後彼がこれをやったら面白いんじゃないかなと思うのは“(ゲゲゲの)鬼太郎”(笑)。 あの特徴のある顔立ちを生かした役どころであったり、ちょっとシュールで面白い存在感を醸し出すような役どころもできる人だと思うので、将来的に大変期待しています。

◆本作において、監督がこだわった点をひとつ挙げていただくと?

ひとつは場所選びです。探偵事務所がある場所は東京・東中野という設定ですが、大都会の一角の非常にリアルなスペースを使わせてもらっています。あと、ときどき説明的に東中野の風景が出てきますが、実はその中に中野サンプラザが映り込んでいるんです。70年代のロックシーンが好きな僕としては、サンプラザの閉館に切ない思いがあり、新宿の方面ではなくあえてサンプラザを入れて撮影しています。そういう実景1つひとつに至ってもこだわっていますし、関東全域に広がった撮影でのバラバラのピースを集めながら、まるで同じ街で起きている事件のように見せられているという部分ではとてもうまくいったなと思います。

『ノッキンオン・ロックドドア』左から)松村北斗、西畑大吾©テレビ朝日

◆明日放送となる第6話の見どころは?

6話では、薬子(畑芽育)のたったひと言の謎めいたワードから倒理らが事件を推理していくのですが、探偵事務所の中でのみ繰り広げていきます。果たして、それはただの雑談なのか、はたまたリアルな事件なのか、という会話劇の応酬が30分の中で展開していくわけです。原作を最初に読んだ時から「これ面白いな」と目をつけていて、プロデューサーの皆さんにも「このエピソードをやるなら僕が撮ります」と立候補していたので(笑)、それがかなってとても幸せでした。

◆そんな第6話撮影時の印象的なエピソードがあれば教えてください。

6話で描くエピソードというのは、ロジックの飛躍が激しく、本来は会話だけで表現するのがなかなか難しいんです。何か物を使うのではなく、話の音だけで物語を醸し出していくわけですから。でも、それを松村君は見事にやってのけただけでなく、なんと2時間巻きで撮影を終わらせたんです。終わった後はもう「お疲れさま」ではなく「お見事!」という感じでした(笑)。
そんな中、氷雨は別の場所でとある事件を監視しつつ、スマホでその会話劇に参入することになります。倒理の話を聞き、氷雨も氷雨で自分なりの推理を進めていくのですが、これが、また難しいんです。というのも、松村君とは別場所で別日に撮影していますから。そんなスマホだけでつながっている2人のやりとりが各所で繰り広げられるのですが、見事に面白いものになりました。まさに松村君と西畑君の卓越したお芝居が刻まれていますので、ぜひご覧いただきたけたらと思います。

◆この作品を撮って感じられていることは?

非常に基本的なミステリーの物語をしっかりと作ることができたなと、久々の感覚を味わっています。大昔はずっとそういうドラマをやらせていただいていて、そこからさまざまなジャンルのドラマを作りあげてきましたが、60代になってこうして原点に帰ることができ、「まだできるじゃん、俺」と(笑)。さらに、本作において会話のみで成立するミステリー(第6話)という、変化球にも挑戦することができました。僕は望まれた以上のクオリティーを望まれた以下の時間で撮るというのがプロの仕事だというふうに思っていて、この話もめちゃめちゃ短時間で撮っているのですが、内容はもちろん作り方の面でも挑戦できてとても面白かったです。
そして、来たる最終回では、今までまき散らしてきた謎との決着を付けたり、メインキャラクター4人の過去との対話のようなものが描かれますが、今までのエピソードとは全く異質の、まるで別のドラマを作っているような物語なんです。全話の中で、「キャラクター紹介」「物語の始まり」「ドラマの始まり」という3種類の作品を作れたことがとても光栄ですし、この世で最も暑いと言われた夏に、初老のおじいちゃんが半分意識が朦朧としつつもそういうことができたというのは(笑)、一生の思い出になるんじゃないかなと思います。

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まず、堤監督はいつも撮影開始の2時間前には現場に入られているんです。そして、みんなが入ってきて、段取りをやろうという時にはご自身の中でもう全てが出来上がっている状態。なので撮影はとてもスピーディーですし、指示も的確で柔軟でありながらも一切迷いがないので、役者の皆さんやスタッフからの信頼も厚い。こんなにベテランになられても常にそのような姿勢で現場に臨まれていることに頭が下がりますし、長く一線を走り続けられる所以なのだろうなと思います。

番組情報

オシドラサタデー『ノッキンオン・ロックドドア』
テレビ朝日系
毎週土曜 午後11時~1130

出演:松村北斗(SixTONES)、西畑大吾(なにわ男子)
石橋静河、畑芽育、駒木根隆介・早乙女太一・角田晃広、渡部篤郎ほか

※放送終了後、TVerhttps://tver.jp/series/srlxv6mww1)で最新話を見逃し配信
TELASAhttps://www.telasa.jp/series/13629)では全話独占配信中

●photo&text/片岡聡恵

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