『葬送のフリーレン』岡本信彦インタビュー「フリーレンの名前を呼ぶときは全ての慈愛を込めるようにしています」

特集・インタビュー
2023年10月06日
『葬送のフリーレン』
『葬送のフリーレン』©山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

日本テレビ系『金曜ロードショー』で初回2時間スぺシャルでスタートを切ったアニメ『葬送のフリーレン』が、10月6日からは同局系「『FRIDAY ANIME NIGHT(フラアニ)」』(毎週(金)後11・00)で放送される。TVLIFE webでは、キャスト陣に全3回にわたってリレーインタビューを実施中。第2回は主人公のフリーレンと共に魔王を打ち倒した勇者で、彼女が“人を知るための旅”へ出るきっかけにもなったヒンメル役の岡本信彦さん。初回を振り返ってもらうとともに、10月6日の放送回の見どころなども聞きました。

◆初回スぺシャルをご覧になって、どんな感想を持ちましたか?

劇場版なのかというくらい、クオリティが高かったですよね。映像もそうですし、あと音楽も素晴らしくて。Evan Callさんの音楽をがっつり聴くのは初めてだったんですけど、壮大さと優雅さがあり、この作品ともマッチしていて。一流のクリエイターたちが、どうやったら皆さんにこの作品の良さが伝わるかを考え抜いたような。それだけのものが詰まっている気がしました。絶対にみんなに見てもらいたいなというスタッフ陣の熱い気持ちが伝わってくる初回でしたね。

◆10年にわたる旅の末に魔王を倒して凱旋したヒンメルたち勇者一行。魔法使いで、1000以上生きるエルフのフリーレンは50年後にヒンメルと再会するも、老いた彼の死を目の当たりにし、それをきっかけに“人を知るための旅”に出ました。

時間の大事さや人間の一生の大事さ。そういうものがフリーレンの視点から描かれていて。1000以上生きるエルフの彼女の視点だからこそ、人間の尊さだったり、儚さだったり、切なさだったりみたいなものを俯瞰できるというか。人間とはどういう存在なのかということを、冷静に外側から見られるんですよね。それを通して、自分自身も見つめ直せる。自分は今、楽しんで人生を生きられているだろうかとか。どんな仲間たちがいて、しゃべるときにどんな言葉を使っているだろうかとか。そういうことを一度落ち着いて、前向きに自問自答できる作品だなとあらためて思いました。

『葬送のフリーレン』
『葬送のフリーレン』©山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

◆パーティーの中で、ヒンメルはどんな勇者だったと想像しますか。

どんな勇者だったんでしょうね。ヒンメルって僕が子供のころから思い描いていた勇者像と全然違うんですよね。勇者っていうと、やっぱり強くなるために努力し、時に仲間とぶつかりながらも、力を合わせて小ボス、中ボスと倒して。ラスボスに負けそうになるけどそこから覚醒して倒せるくらい進化を遂げる、みたいな。“ザ・少年漫画の主人公”というイメージがあるじゃないですか。でも、ヒンメルの場合は結構どこにでもいそうな人なんです(笑)。勇者感がなくて、めっちゃ天然ですし。天然すぎて、自分が強いということもあまりよく分かっていなさそうで。彼自身も気づいていない才能が他にも眠っていそうですよね。でもだからこそ、親近感があって話しやすくもあり、そういう姿によってみんなに勇気を与えられる。彼自身にはあまり勇気がないみたいですけど。「怖い」とか言いますし(笑)。普通の人の感性を持っているんですよね。だから、誰でも勇者になれるというのを彼は体現してくれているのかもしれません。ヒンメルのよさはまさにそこだと僕は思っていて。ヒンメルを見ていると、自分の中にも眠れし才能があるんじゃないか、それを信じたら自分も近いところまで行けるんじゃないかと思わせてくれる。そういう勇む心をくれる勇者だなと。

◆凱旋したヒンメルはフリーレンたちに対し、10年の旅を「クソみたいな思い出」と表現しつつ「でも楽しかったよ。僕は君たちと冒険ができてよかったよ」と感謝しました。

言葉としては矛盾していますよね。でも、きっとあの「クソみたいな」は、例えるなら「ヤバイ」みたいなことで。怖くても楽しくても「ヤバイ」になるように、「クソみたいな」も言葉通りの意味のほかに「楽しい」って意味もあって、あのときは後者だったんじゃないかなと。人間何でもないような日もあれば、つらい日もあるし、人に対して誇れる生き方じゃなかったとしても、その中にこそ大事なものがあったり、意味があったりするじゃないですか。友達とコンビニでただだべっていただけの、青春の1ページの輝きみたいな。ヒンメルにとってのあの旅もそういうことで、「クソみたいな」なんて言ってますけど、きっとそれが楽しかったんだろうな、めっちゃ意味があったんだろうな、と思いました。

『葬送のフリーレン』
『葬送のフリーレン』©山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

◆ヒンメルは名言が多いですよね。演じる上で意識していることはありますか?

名言を名言のように言わない、というトライはしています。どれだけ日常会話のようにさらりと言えるか。人にとっては名言でも、きっとヒンメルにとっては当たり前のことで。「飲み物を冷やしたいなら、氷を入れればいいじゃん」ってくらいの感覚でしょうから。最初はキメキメで演じようとしていたんです。でも、初回の収録でかなり細かいところまで時間を費やして話し合わせていただいて。それで方向性が分かった気がしたんです。勇者ぜんとしない方がいいんだろうなと。「イケメンだろう」というせりふも、キザっぽくすることでコミカルさにつなげようとしていたんですけど、ヒンメルは自分自身が本当にイケメンだと思っているんですよね。なので、誇張表現はせず自然に。それが天然っぽくも見えたらいいなと。

◆凱旋時、そして再会時にパーティーの仲間たちと流星群を見上げるシーンも印象的でした。

きっとヒンメルはあの星のきらめきと流れる速さに、最初の凱旋時は10年間の旅を、再会時は年を重ねた自分の一生を重ね合わせていたんじゃないですかね。脳裏を駆け巡っていく思い出を振り返りながら。僕も人生を終えるときには、ああやって振り返るんだろうなと思いました。じっくりとではなく、一瞬でフラッシュバックして。流星群はそういう比喩表現だったんじゃないかと思います。最後につぶやいた「きれいだ」というせりふも、最初はキメキメで演じようとしていたんです。そこに関しては、直後にハイターの「ヒンメルは幸せだったと思いますよ」というせりふがあるので、その幸福感を込めたくて。でも、それまでの流れで分かるだろうとなって、さらっと。命の灯が消える直前の、こと切れるような「きれいだ」にしました。

◆“老ヒンメル”ももちろん、岡本さんが演じてらっしゃったわけですよね。

“老ヒンメル”を演じるのは、本当に大変でした。正直、今までで一番自信がなくて。「ヒンメルの声のまま、おじいちゃんになってください」というオーダーだったんです。でも、僕が演じるヒンメルの声って超“等身大”で。先ほども言ったように自然さをモットーにしているので、腹式呼吸ではなくあえて基本式呼吸にもしていますし。高校生に聞こえてもおかしくないくらいのラインなんです。そのままおじいちゃんになるなんて、全く想像ができなくて。デフォルメができないのは逃げ道をふさがれたようで、かなり怖かったです。丸裸のまま、芝居力だけでどうにかしなければならず、それは大きなチャレンジでした。結局ヒンメルのラインのまま、フリーレンと別れて過ごした50年を想像して、その年輪みたいなのをプラスしたんです。出来上がりを見たら、画のおかげもあって思っていた以上におじいちゃんに聞こえたので、よかったなとほっとしました。あれは現場に感謝です。

『葬送のフリーレン』
『葬送のフリーレン』©山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

◆ヒンメルを通して、岡本さん自身が気づかされたことはありますか?

一見無意味そうでも、楽しんだもんがちだよねっていう。それはヒンメルを通して再確認させてもらいました。大人になるにつれて忘れがちですよね、そういうのって。人生を楽しみながら生きる…もちろん、その方法は人それぞれですけど、本当に大事なことだなと思います。「楽しい」と「楽」は違いますからね。それに、気負わずにとりあえず一歩踏み出してみたら、意外と…っていうことがあるかもしれない。僕にとっての声優のお仕事もそうですから。振り返ると、昔の自分は声優になりたい、なれるだろうと漠然と思っていて。そんな簡単じゃないですし、大人たちにもそう言われましたけど、当時は若かったのでなれると信じて突き進んできたのが、今という結果になっている。そう考えると思い切りのよさとか、信じる力ってやっぱり大事だなと。無駄なことなんて一つもないんです。

◆ヒンメルとフリーレンの関係性については、どうとらえていますか?

よく「ヒンメルはフリーレンのことが好きなんですか?」って聞かれるんです。実際どうなのかは原作の先生に聞いていただきたいんですけども(笑)、僕が演じる上で考えているのは、きっと「好き」は「好き」なんでしょう。でもその「好き」は、単純に恋人への愛とか、そんな簡単な物差しで測れるものではなくて。父親から子供への愛にも近かったり、子供から母親への愛にも近かったり。いろんな意味の愛が複合されていて、その中の一つに恋人への愛も含まれているんじゃないですかね。だから僕はフリーレンの名前を呼ぶときは、いつも全ての慈愛を込めるようにしています。

◆フリーレンの回想で出てきた、蒼月草の話をするシーン。あそこもフリーレンへの愛を感じる瞬間でした。

僕の解釈ですけど、あれは一種の愛情表現ですよね。故郷にある花を「いつか君に見せてあげたい」なんて。つまり僕の故郷に来てほしいという風に受け取れますし。でも、ヒンメルは見返りを求めているわけでもなくて。自分の思いを一方通行で伝えているだけですけど、それだけでうれしいだろうし、後で思い返してくれることもまたうれしいんじゃないかと思います。

『葬送のフリーレン』
『葬送のフリーレン』©山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

◆フリーレンを演じる種﨑敦美さんのお芝居の印象は?

もともと種﨑さんには、演じるキャラクターがこういう姿形や骨格なのであれば、こういう性格なのであれば、きっとこういう声が出るんじゃないかととらえる能力が高く、もちろんそれを発する力も強いというイメージがあって。フリーレンはどんな声で来るんだろうと。
個人的にはかわいい声なのかなと想像していたんですけど、実際は1000年以上生きる人生の中でいろんな人と出会ったり、いろんなことを経験したり。その積み重ねによって達観した感じを、抑えた声で表現されていて。年齢とか性別とか…まあ性別は分かるんですけど、そういう垣根を全て超えてくるような声で、はっとさせられましたね。

◆では最後に、10月6日放送回の見どころを教えてください。

旅に加わる新たなメンバー、シュタルクがついに登場します。久々の若い男キャラなので(笑)、そこもぜひ注目していただけたらうれしいです。

『葬送のフリーレン』
『葬送のフリーレン』©山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

PROFILE

岡本信彦
●おかもと・のぶひこ…10月24日生まれ。東京都出身。B型。近作は『僕のヒーローアカデミア』(爆豪勝己役)、『鬼滅の刃』(不死川玄弥役)、『僕の心のヤバイやつ』(足立翔役)など。

作品情報

『葬送のフリーレン』
『葬送のフリーレン』©山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

『葬送のフリーレン』
日本テレビ系 毎週(金)後11・00~11・30
『FRIDAY ANIME NIGHT(フラアニ)』にて放送

<STAFF&CAST>
原作:山田鐘人、アベツカサ
監督:斎藤圭一郎
音楽:Evan Call
アニメーション制作:マッドハウス
オープニングテーマ:YOASOBI「勇者」
エンディングテーマ:milet「Anytime Anywhere」
声の出演:種﨑敦美、市ノ瀬加那、小林千晃、岡本信彦、東地宏樹、上田燿司ほか

©山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

●text/図司 楓