数多くのヒット曲を生み出してきた広瀬香美さんによる「歌姫発掘オーディション」を追ったリアリティショー『歌姫ファイトクラブ!!』がHuluで全話独占配信中。その広瀬さんとタッグを組み番組を制作した人物こそ、伝説のバラエティ番組『¥マネーの虎』の生みの親でもある日本テレビの演出・プロデューサーの栗原甚さんだ。ついに10月21日より最終話が配信され、その全ての軌跡が明らかになった。栗原さん本人にこの大型企画が生まれた経緯や、広瀬さんとの知られざる絆などについて語っていただきました。
◆栗原さんは数多くのバラエティ番組を手掛けて来られましたが、音楽を扱う番組は珍しいですよね。もともと音楽への興味はあったのでしょうか?
全くなかったですね(笑)。特に音楽番組をやりたいと思ったわけではなく、何か久しぶりに熱い番組をやりたいという気持ちがあって。『¥マネーの虎』みたいな番組はできないかと、実はもう10年以上考えていました。そんな中、Huluで番組を作ってくれないかという話が持ち上がって。いろいろ検討した結果、オーディション番組が面白いんじゃないかと。オーディション番組って今の時代すごく見られていて、Hulu以外にもたくさんあるじゃないですか。しかも、どんどん新しい番組が生まれていて。でも実は『¥マネーの虎』だってオーディション番組と言えばオーディション番組です。昔を振り返れば『スター誕生!』から既にオーディション番組はあったわけで。やっぱり僕は、こういう一般の方が挑戦するような番組を作りたいという結論に至りました。
◆他のオーディション番組にはない、この番組ならではの特徴というと?
広瀬香美さんにしかできない企画という部分ですね。広瀬さんは歌手で、音楽プロデューサーで楽曲提供もプロデュースもしていて、ボイストレーナーもしている。そういう全方位型の広瀬香美さんが審査しているからこそのオーディション番組になっていると思います。あとは、ソロシンガーだけに絞っているという部分だと思います。広瀬さんが自分に代わるような「新時代の歌姫」が生まれてほしいと考えていると聞いて、「本物のアーティストが選ぶ!ソロシンガーのオーディション番組」を作ったら面白いと思いました。スーザン・ボイルさんみたいな年齢の方が挑戦できるのも面白いと思ったので、16歳以上であれば誰でも応募できるようにしました。
◆実際に年配の方の応募もあったんでしょうか?
60歳近い方の応募もありましたし、最初の動画審査を通過した中に40代の方もいらっしゃいました。本当に幅広い年齢層が参加してくださって、ありがたかったですね。しかも「ちょっと記念に応募してみようかな」という冷やかしの人はほとんどいなくて、皆さん本気なんです。歌はもちろん、広瀬さんのことが大好きな方ばかりが集まったので、その中から選考しなければならない。とにかく広瀬さんが一番大変でした。
◆応募総数1457名ですからね。
めちゃくちゃ大変だと思います。動画も一つ一つ真剣に見て、気になる人は見直したりもしているので、凄く時間かかっています。広瀬さん自身もデビュー前はたくさんオーディションを受けられていて、落とされる人の気持ちもよく分かっています。なので、審査が進んでいけばいくほど、心身ともに疲れて、痩せていくような印象を受けました。
◆あらためて栗原さんが感じる広瀬さんの魅力について教えてください。
広瀬さんとお話をする度に感銘を受けるんですけど、プロフェッショナルって本当に凄いなと。広瀬さんの事務所には、頭の人体模型があって。広瀬さんは、体のどこをどう使えば声がより通るのかということを凄く研究されているんですよ。専門家やお医者さんに「人間の骨格はどう出来ているか」みたいなことも取材していて。広瀬さんは番組の中で「歌手にとって、体が楽器!」とおっしゃっています。体のどこを共鳴させたらどういう声が出るのか、科学的にも突き詰めているんですよね。その結果、「じゃあ、この筋肉を鍛えよう」と、そこを集中的にトレーニングされたりしていて。そうやって徹底的に突き詰めて考えている人が僕は好きなので、プロフェッショナルな広瀬さんを世の中の人に知ってもらいたいという思いがありました。そういう意味では『¥マネーの虎』も同じです。新しいビジネスや野望を持った人が挑戦する番組でしたが、僕としては、なかなか聞くことができない成功者の名言を伝えたいと思って企画した番組でもあるんです。
◆確かに挑戦者よりも“虎”の皆さんの言葉が心に残る番組でしたよね。
百戦錬磨の社長ばかりだったので、「そのビジネスは失敗するよ」とか「こういうふうにしないと成功しないよ」ということを惜しみなくしゃべってくれたんですよね。そういう話ってみんな聞きたいと思いますし、そういうものを番組として伝えたいと思ったんです。『¥マネーの虎』の収録では、社長たちは一体何をしゃべるんだろうと僕も毎回現場で凄く刺激を受けていました。経営の極意みたいなことも学ばせてもらったと思います。同様に、この『歌姫ファイトクラブ!!』でも、広瀬さんが30年間第一線で活躍され続けている理由が分かるくらい、今まで培った経験や知識を惜しみなく出してもらいたいと思い、企画しました。
◆広瀬さんも「教養番組みたいになれば」とおっしゃっていましたね。
実はそういう狙いがあって制作していたんでsy。あと僕自身ずっと地上波の番組を作ってきたんですけど、地上波って1回放送されたら終わりじゃないですか。最近は見逃し配信で1週間ぐらいはTVerで見られますけど。ネット配信のサブスクHuluだったら、その番組は永遠に見ることができるので、“何か意味のある番組”を作りたいと考えて企画しました。1回見て「面白かったよね」「ためになったよね」で終わるのではなく、何度も見たくなったり、2回3回見るとまた違う発見があったり。特にサブスクの番組コンテンツというのは、そういうものであるべきではないかと思っています。
◆番組では、栗原さん自身が番組の司会や進行も担当していますよね。
広瀬さんのことをよく分かっていて、広瀬さんの邪魔をしないで番組の進行をできる人がいないかなと思って、いろいろ探したんです。でも結局見つからなくて、僕がやっているという(笑)。この番組は広瀬さんが主役で、広瀬さんさえ目立てばいいので。そういう理由で僕が出ているんですけど、特に何の説明もしていないので“なぜ、この人が出てるんだろう?”って思われているでしょうね(笑)。僕は名前も肩書きのテロップも入れたくないって言ったんですけど、「この人、誰?」って思われると番組スタッフに言われて。それで一応入れました(笑)。
◆あくまでも広瀬さんの番組ということですね。
僕の中では「広瀬香美ショー」ですね。リアリティードキュメントなので、ナレーションも必要ないと。ナレーションで説明したら、広瀬さんが説明する意味もなくなってしまうので、それもやめました。広瀬さんは場面場面で今まで見せたことのない表情をしてくださるので、余計なテロップも入れたくなかったんです。邪魔になるので。ただ関係各所から「テロップを入れてください」というリクエストがあって、第1話と第1.5話では渋々テロップを入れました(笑)。でもその後は、ほとんど入ってないですね。そもそも表情を見せるドラマにはテロップは入らないですから。あと実は、歌姫候補が“香美マスク”を付けることも周りのスタッフには反対されたんです。僕は口元が見えるだけで、挑戦者の微妙な表情もわかると信じていたので、「大丈夫、大丈夫!」とスタッフを説得しました(笑)。
◆Hulu配信番組でも放送時間には限りがあるので、カットした場面はかなり多いのでは?
たくさんあります。1stステージには42名が参加してくれましたが、映像として使っているのは数人です。1stステージに合格したのに2ndステージでは映らなかったので、あの歌姫候補は不合格だったのだろうかという人も多いんです。でも、それは仕方がないと思って割り切りました。全部を見せようとすると、見せたい部分が見せられなくなります。使いたいシーンだけを使って、使わないシーンはまったく使わないという風に大胆に編集しないと、面白い番組は作れないので。
◆カットになったシーンも、実際には広瀬さんが一人一人の歌唱力を審査して、丁寧にアドバイスしているということですよね?
もちろん、そうです。毎回その挑戦者だけのために貴重なアドバイスをされているので、できるだけ番組でも紹介したいんですけど。なるべく多くの視聴者に共感していただけそうなアドバイスをもらっている挑戦者の場面を使うようにしました。超一流の方というのは“Giveする(与える)人”であって、何か見返りを求めることもしないんですよね。しかも広瀬さんは“一期一会”を大切にしていて、どんな挑戦者に対しても優しく温かくて、器の大きい人です。音楽プロデューサーとして他のアーティストに楽曲を提供している部分も大きいと思います。もともとボイストレーナーとしてレッスンをされていたので、教えることも上手です。声帯を傷つけないための正しい歌唱法もご存知ですし、同じ歌手だからこそ歌姫候補の悩みを解決できたりもするんです。そういうアドバイスは、お金には代えられない貴重な情報ですよね。
◆広瀬さんの場合、明るいキャラクターも素敵ですしね。
広瀬さんのキャラクターは凄く面白くて、その部分をもっと世の中に出した方がいいんじゃないかなと思っています。それで「YouTubeをやったらどうですか?」と数年前に提案しました。
◆広瀬さんのYouTubeにも、栗原さんが関わっていたんですか!
広瀬さんのことをもっと10代20代に知ってもらえたらいいなと思ったんです。若い人に知ってもらうために、「いま若者に人気の曲を歌ってください」と言って。「まずはヒゲダン(Official髭男dism)を歌ってみましょう」「次は嵐を歌いましょう」みたいな感じで、いろいろアドバイスしました。あとは「街中のピアノが置いてある場所に、いきなりフラッと現れて…みたいな企画はどうですか?」とか好き放題言っただけです(笑)。いろいろ仕掛けたら結構いろいろなことがうまくハマって、メディアへの露出も徐々に増えていき、最近では10代も広瀬さんのことをよく知ってくれています。本当に嬉しいです。
◆まさに再ブレイクの仕掛け人ですね。
約5年前、広瀬さんのコンサートに行ったら、MCトークが非常に面白かったんです。このキャラクターはファンの方は知っているけど、世間には知られていないと思って。広瀬さんの明るいキャラとぶっちゃけトークってYouTube向きなので、YouTubeを始めたらきっとたくさんの人に広まると思いました。その後のTikTokも話題になって、この番組のオファーに対しても「栗原さんだったら、うまくいくと思うのでやります!」と言ってくださって。多分この数年間のやり取りがなかったら、広瀬さんにお受けいただけなかったんじゃないかなと思います。この番組は非常に過酷で、心身共に大変な長期プロジェクトなので。
◆では最後に、配信されたばかりの『歌姫ファイトクラブ!!』最終話の見どころを。
7.5話(日本テレビで10月14日(土)深夜に地上波で放送し、現在Huluで見逃し配信中)から8話にかけて、相当面白くなっています。ここまで様々な審査をクリアしてきた歌姫候補5人のポテンシャルが凄いんですよ。「この短期間のオーディションでどれだけ伸びるか、その伸びしろも含めて審査してきた」と広瀬さんがおっしゃっていたんですけど。本当にみんな成長したと僕自身も実感していて。よく短期間でこんなに上手になったとびっくりします。スポーツでも“集中合宿”ってよくあるじゃないですか。それと同じような感じで、何かお題を出してそれをクリアしていくと、その人の限界点を越えて信じられない能力を発揮するんです。人間の熱量や集中力って、本当に凄いなと思います。『¥マネーの虎』も挑戦者の本気度が凄かったわけで、その本気度は視聴者にも画面を通して伝わるじゃないですか。結局、同じなんですよね。
◆FINALステージの審査会場は、広瀬さんが今年行った夏フェス「Kohmi EXPO」ですよね。
実は最終審査に合わせて、広瀬さんに初の夏フェスを開催していただいたんですけど、その本番のステージで大勢の観客を前に、ファイナリスト5名に歌ってもらいました。だから、かなり見応えがありますよ。それを実際のライブに近い形でお見せしているのが7.5話になります。ライブ会場には広瀬さんのファンが多かったんですけど、そこで突然審査を始めたら、今の時代だと「何番の人が最終審査に残っていた」とかSNSで情報が洩れると思うんです。でもそれが一切なかったんですよ。会場で広瀬さんが「まだHuluでは配信前なのでSNSなどで絶対に発信しないように!」と言ってくださったことが大きいんですけど、それをしっかり守ってくださるファンの皆さんも素晴らしいなと。でも、自身のコンサートで、しかも本番のステージを使って最終審査をやるオーディション番組なんて、今まで無いですよね(笑)。振り返ると1stステージから“大ホール”を貸し切りで使いましたし、2ndステージは広瀬さんがかつてミリオンヒットを飛ばした曲をレコーディングした歴史ある“ビクタースタジオ”で収録しました。その後は、ビクター本社の大きな“役員会議室”を使って面接したり…審査会場には凄くこだわりました。
◆では最後に、視聴者の皆さんにメッセージを。
うちのスタッフも、まさかこういう番組になるとは予想していなかったと思うんです。歌手を目指す人やオーディションに参加する人にとっての【バイブル】的な番組になっています。7話では、広瀬さんが「そういうことを言うと、オーディションに落ちちゃうよ」みたいなことまで言及していますから(笑)。「番組を何回も見たら、オーディションに受かった!」という方がたくさん出てくれたらいいなと思って作りましたので、ぜひ“イッキ見”してほしいですね。
PROFILE
●くりはら・じん…北海道札幌市出身。企画・総合演出・プロデュースを手掛けた代表作『¥マネーの虎』のほか、『さんま&SMAP』『中居正広のザ大年表』などバラエティ番組を数多く担当。また『平成舞祭組男』『天才バカボン~家族の絆』などドラマ制作も手掛けている。著書に「すごい準備」(アスコム刊)。
番組情報
『「歌姫ファイトクラブ!!」心技体でSINGして!』
Huluで全話独占配信中(全10話)
出演:広瀬香美ほか
企画・演出プロデューサー:栗原甚(日本テレビ)
Hulu:高橋浩史、荒井智美
制作協力:太陽カンパニー
製作著作:日本テレビ
©NTV
●text/橋本吾郎