お笑いコンビ・トンツカタンの森本晋太郎さんがTV LIFEで連載中のコラム「トンツカタン・森本晋太郎のネクストブレイク紀行」。「今年売れる」と言われ続ける中での出来事や本音が綴られた“飛躍を夢見る芸人の備忘録”をwebでも公開します。今回は、くりぃむしちゅーさんの話。(TVLIFE 2023年5月10日発売号より転載)
僕たちも、くりぃむしちゅーです。
ブレイクまでのスピード牛歩系芸人、トンツカタン森本です。下手したら牛が見ても「モォ?(遅くね?)」と言うんじゃないでしょうか。そんな僕も今年の春で芸歴10年を迎えました。今回はその節目を狙ったかのように僕を初心に帰してくれたお仕事のお話。
正直言って芸人という職業は非常にコスパが悪い。ウケるかどうかもわからないネタを頭を悩ませながら書いて練習し、それを場合によっては自らエントリー費を支払って舞台で披露する。お客さんの入り次第ではウケたのかスベったのかすらわからない。時折呼んでもらうオーディションも軒並み落選。そんな日々を繰り返しながら運良くメディアに羽ばたける芸人はほんの一握り。そこから売れ続ける芸人はさらにほんの一握り。基本的には芸人を志した時点で負けイベントなのだ。
さらに言えば今はおもしろいことを発信できるプラットフォームが乱立している。スマホ一台あれば撮影、編集、投稿ができてしまう便利な時代だ。そこから生まれたスターが今や時代を席巻する勢いを持つ。それでも僕らは今日も無骨にお笑い芸人を続けている。全部あの日抱いてしまった憧れのせいだ。
いちお笑い好きの学生だった僕が本格的に芸人を志したのがくりぃむしちゅー上田さんがおひとりでやられていた『知ってる!?24時』というラジオ番組を聞いてからだ。あまりのおもしろさに「この人みたいになりたい!」と思ったのを強烈に覚えている。今でこそトリオでコントを主にやっているが、大学のお笑いサークルや人力舎の養成所では漫才で上田さんの最下位互換として例えツッコミを乱発してはスベりまくっていた。
そんなルーツを持つ僕が先日『有田ジェネレーション』で、漫才はやりたいけどわざわざ新ネタを作るのが億劫だという有田さんのために、くりぃむしちゅーさんになりきって新作漫才を披露するという企画に出させていただいた。まさかそんな機会があるとすら思っていなかったが、少しでもくりぃむしちゅーさんのためになれるならと思い、僕なりの恩返しの意味も込めてキャリアのすべてを注ぐつもりでネタ作りに励んだ。
そしていざ迎えた収録では数メートル先に有田さんと小峠さんが見守る中、今の僕が書ける最大限のくりぃむしちゅー漫才を披露させていただいた。ここ最近の仕事でダントツ緊張したはいわずもがな。ただ、僕のその想いの強さに押しつぶされる形で隣にいた相方のお抹茶がその倍緊張していた。「たまに顔が有田さんに似てると言われる」くらいしかくりぃむしちゅーさんへの思い入れがないのに。
結果的におふたりとも僕らのネタを褒めてくださり、有田さんは「これやりたい。少なくとも上田に台本は見せる」と言ってくださった。リップサービスだとは思うけど、万が一このネタをくりぃむしちゅーさんがやってくれたらこんな幸せなことはない。
今回こういったご褒美のようなお仕事をいただけたのも、先述したコスパの悪くて泥臭い日々を積み重ねたからこそなんだと思う。いや、ただ負けを認めたくないからそう正当化してるだけなのかも。どっちにしろ、当分は芸人辞められそうにないや。
くりぃむしちゅーについて書いたからか、なんだか今回のコラム、アチチ。
森本晋太郎
●もりもと・しんたろう…1990年1月9日生まれ、東京都出身。お笑いトリオ「トンツカタン」のツッコミ担当。プロダクション人力舎のお笑い養成所・スクールJCA21期を経て、現在はテレビやラジオで活躍中。趣味でもあるツッコミに特化したYouTubeチャンネル「タイマン森本」も好評。