お笑いコンビ・トンツカタンの森本晋太郎さんがTV LIFEで連載中のコラム「トンツカタン・森本晋太郎のネクストブレイク紀行」。「今年売れる」と言われ続ける中での出来事や本音が綴られた“飛躍を夢見る芸人の備忘録”をwebでも公開します。今回は、お尻に起きた悲劇の話。(TVLIFE 2023年6月7日発売号より転載)
いつか思いっきり座ってみたいな
売れてる人を目の当たりにすると一番に思うのはその凄まじい体力。頭と体がフル回転するような現場を早朝から深夜までこなしていく様を見ていると「果たして自分にこれができるのか…?」と自問してしまいます。つまりブレイクするには圧倒的に丈夫で健康な身体というのが必須条件のひとつなのかもしれません。そんな中、今回は齢33を迎えた僕の体(お尻)に悲劇が襲いかかってきたお話。
「誰かに言うほどじゃないんだけど」という身体の不調ってみなさんにもあると思う。僕にとってのそれはここ一年ほど、足の付け根(お尻の下部)にできものが出来たり消えたりするを繰り返していることだ。たまに痛くなることもあるが、どうしても早く治さなきゃという緊急性のあるものではなかった。
先日、またしても同じ箇所に新規のできものが現れた。その日は昼過ぎに仕事が終わったので帰り際になにか塗り薬でももらえたらという思いで皮膚科へ行くことにした。診察室に案内され、お医者さんに事情を説明すると「ではそこのベッドに患部が見えるように横たわってください」と言われる。ズボンとパンツを脱ぎ、ドラマ『結婚できない男』第一話の阿部寛さんと全く同じ構図で触診してもらっていると
「あぁーなるほど。これ今から手術して取っちゃいますか」
想定外の手術というワードに思わず狼狽してしまった。オペってそんなフランクにやっていいもんなんだ。しかしながら今後の人生ずっとうっすら気になるできものが出来続けることに比べれば今勇気を出して取ってしまった方がいいのかもしれない。意を決して切除をお願いした。
そこから別室へと移動し、院長による手術が始まる。麻酔もお尻に打つからそんなに痛みもないだろうと高を括っていたら看護師さんが僕の足をパンパンと叩きながら
「ここに意識を集中させてください!」
とシリアスなトーンで言ってきた。その瞬間、患部を囲うように注射が何発も刺されていく。看護師さんの注文も虚しく、全ての意識がお尻の痛みに集結した。こんなことならできものと一生付き合っていけばよかったと後悔するくらいの激痛だった。
しかし麻酔の痛みさえ乗り越えたらあとはこっちのもんで、気付けばあっという間に傷口を縫合して手術が終わった。箇所が箇所なだけに「座ると糸が切れる可能性がある」という恐ろしすぎる忠告を受け、それからなるべく座らない生活を心がけている。実はこのコラムも初めて家で立ちながら書かせてもらっている。もしよかったらみなさんも立ちながら読んでやってほしい。
術後のいま、もし僕が現時点で売れてしまっていたらと思うとゾッとする。ロケでたくさん歩いては雛壇で立って座ってを繰り返す…。若手芸人は意外と下半身を酷使するのだ。今回ばかりは売れてなくてよかったと心から思えた。そして今日もお尻の縫い目に軟膏を塗りながら思う。
森本晋太郎
●もりもと・しんたろう…1990年1月9日生まれ、東京都出身。お笑いトリオ「トンツカタン」のツッコミ担当。プロダクション人力舎のお笑い養成所・スクールJCA21期を経て、現在はテレビやラジオで活躍中。趣味でもあるツッコミに特化したYouTubeチャンネル「タイマン森本」も好評。