お笑いコンビ・トンツカタンの森本晋太郎さんがTV LIFEで連載中のコラム「トンツカタン・森本晋太郎のネクストブレイク紀行」。「今年売れる」と言われ続ける中での出来事や本音が綴られた“飛躍を夢見る芸人の備忘録”をwebでも公開します。今回は、『Qさま!!』に初出演した話。(TVLIFE 2023年7月5日発売号より転載)
ありがとうチャップリン
先日、『Qさま!!』の収録に初めて参加させていただいた。今までの僕のメディア露出といえば基本的に全て24時以降という逆シンデレラ状態だったのだが、今回はなんとゴールデンの3時間スペシャル。とてつもなく光栄なことなのだが、いかんせん僕はクイズへの自信が全くない。英語ができるからインテリのイメージを持たれることがあるのだがそんなことは一切なく、本当にただ英語が喋れるだけなのだ。しかも今回は1900年代の偉人にまつわるクイズが出題されるという、英語スキルがほとんど有利に働かないパターンである。
それからネットで偉人が学べるマンガ本を何冊か購入して読んだのだが、一冊につき50人ほど網羅しているのでクイズ番組で通用するとは思えない必要最低限の知識が広く浅く備わっていった。勉強をすればするほどあまりの付け焼き刃感に絶望していく中で、「これ以上は悪あがきだからやめておこう」というある種の悟りを開いた。この程度で渡り合えるほどクイズの世界は甘くないから、当日は大人しく恥をかいて逃げるように帰ろう。その覚悟ができた僕はそこから本番までの数日は思う存分ダラダラと過ごすことができた。
そうして迎えた収録日。ゴールデンのスペシャルということもあり、テレ朝にはとんでもない数の大人たちがいた。これからこの人数の前で不甲斐ない姿をお見せすることになるのか…。ここに来て事の重大さを実感し、あのダラけてしまった数日をひどく後悔した。メイクや楽屋挨拶などをしていたらあっという間に本番を迎えた。
現在のQさまは出演者が順位によって螺旋階段を上り下りする個人戦。事前にくじ引きでスタート位置を決めるのだが、なんと僕は一番低い位置を引いてしまい、さっそく運にも見放された形で人生初のクイズ番組が始まった。
螺旋階段の目の前にある超巨大モニターに偉人の貴重映像が映し出される。ものの数秒でカズレーザーさんがボタンを押して正答。あまりのスピードに唖然とした。あれは『Qさま!!』と言うより『東大王』に近かった。こんなレベルの高さについていけるわけがない。そんなことを考えていたらカズさんが次の問題も正解していた。
早くも戦意喪失している中で、おそらく最初で最後の出演になるんだから記念に一回くらい目の前のボタンを押したいなと思い始めた。そして出される次の問題。モニターにはハテナマークで隠された偉人の姿。彼の周りには人だかりができており、とても人気があることがわかる。もうどうにでもなれ…!気付けばボタンを押していた。
「チャップリン!!」
正解を知らせる音がスタジオに鳴り響く。アドレナリンが身体中を駆け巡った。実家のリビングでなんとなく回答するQさまとはわけが違う。この緊張感で答えるクイズってこんなに気持ちがいいものだったのか。
最悪の事態を免れることができた僕はその後いっちょまえに「ここは答えずにいれば次のステージまで生き残れるぞ」などと邪心まみれになったバチが当たってすぐに脱落してしまった。
でもあなたがいなければなにも答えず無声で終わるところだったよ、チャップリン。
森本晋太郎
●もりもと・しんたろう…1990年1月9日生まれ、東京都出身。お笑いトリオ「トンツカタン」のツッコミ担当。プロダクション人力舎のお笑い養成所・スクールJCA21期を経て、現在はテレビやラジオで活躍中。趣味でもあるツッコミに特化したYouTubeチャンネル「タイマン森本」も好評。