お笑いコンビ・トンツカタンの森本晋太郎さんがTV LIFEで連載中のコラム「トンツカタン・森本晋太郎のネクストブレイク紀行」。「今年売れる」と言われ続ける中での出来事や本音が綴られた“飛躍を夢見る芸人の備忘録”をwebでも公開します。今回は、『だが、情熱はある』の大打ち上げの話。(TVLIFE 2023年7月19日発売号より転載)
だが、笑いはない
先日、僕が参加させていただいていたドラマ『だが、情熱はある』が最終回を迎えた。こんな大作ドラマに出演させてもらったのは一生の思い出だし、間違いなく糧になる経験だ。しかし、そんな輝かしい作品の裏で僕がひっそりとスベっていたことをみなさんはご存知ないだろう。
それはドラマがクランクアップした後に開かれた大打ち上げでの出来事。濃密な3ヶ月を全速力で駆け抜けた演者とスタッフさんたちが一堂に会すビッグイベントに出席させていただいた。初めて参加するドラマの打ち上げは広い飲食店を貸し切って行われ、改めてたくさんの人の熱量とチームワークにより完成した作品なんだなと実感した。
監督による情熱とユーモアを交えた乾杯の挨拶で始まり、各テーブルでお互いを労いながらドラマの思い出話に花を咲かせる。お店の奥にある巨大スクリーンには作中の漫才が代わる代わる映し出されており、それを見ながら富田望生ちゃんが目に涙を浮かべていた。彼女がいかにこの役に命を削って挑んだのかがわかってこちらも泣きそうになってしまった。
早くも充実感に満たされる中、カウンターの奥のキッチンから美味しそうな匂いが漂ってきた。料理はビュッフェ形式になっており、僕はここぞとばかりにプレートを自分好みに彩ってテーブルに戻った。するとその少しあと女優陣が山盛りになったお皿を持って帰ってきた。
「これみんなで食べましょうー」
こんな情けない話があるだろうか。他のみなさんがシェアするためにビュッフェから戻ってくる中、僕は自らのためだけに料理をよそってきた。自分の卑しさが恥ずかしくなり、僕はそっと森本プレートをテーブルの真ん中に移動させた。思えばこのあたりから歯車が狂い始めた気がする。
動揺を隠しながら料理に舌鼓を打っているとスタッフさんが僕の元にやってきて「これから出演者のみなさんに挨拶をしてもらうんですが、森本さんトップバッターでお願いします」と言われた。まるでスタンバイしてたかのような早さで脇汗が噴き出てきた。まさかそんなコーナーが設けられていたなんて。顔面蒼白の僕を見かねた渋谷凪咲さんが「私は笑うんで!」と、不発前提の気遣いをしてくれた。そうして内容を固める余裕もないままその瞬間がやってきた。
マイクを渡され、みなさんの前に立つ。10年以上の芸歴を信じてノープランで臨んでみたが、なにも思い付かず
「えー、こんな素晴らしい作品に出れて、とてもうれしくて…」
共感性羞恥で見てられない人もいたんじゃないかと思うくらいの辿々しさ。見るに見かねた近くのスタッフさんが小声で
「英語!英語!」
と言っていて、急きょスピーチを英語に切り替えると遠くの方にいたかが屋のふたりが全力で
「いや英語いらないいらない!」
と立ち上がってツッコんでくれて、そこで初めて笑いが生まれた。その後は逃げるように席に戻り、なんとか最悪の事態を免れることができた。スタッフさんとかが屋、本当にありがとう。ちなみに渋谷さんに笑ってくれていたのか確認すると
「…裏切ってしまいました」
どうやら僕の笑いのプレートは誰も手をつけなかったらしい。
森本晋太郎
●もりもと・しんたろう…1990年1月9日生まれ、東京都出身。お笑いトリオ「トンツカタン」のツッコミ担当。プロダクション人力舎のお笑い養成所・スクールJCA21期を経て、現在はテレビやラジオで活躍中。趣味でもあるツッコミに特化したYouTubeチャンネル「タイマン森本」も好評。