お笑いコンビ・トンツカタンの森本晋太郎さんがTV LIFEで連載中のコラム「トンツカタン・森本晋太郎のネクストブレイク紀行」。「今年売れる」と言われ続ける中での出来事や本音が綴られた“飛躍を夢見る芸人の備忘録”をwebでも公開します。今回は、伊集院光さんの話。(TVLIFE 2023年10月25日発売号より転載)
深夜じゃなくても当然のように馬鹿力
中学生のころラジオに出会い、そこから聴いたり聴かなかったりを繰り返していたが、大学に入ってから本格的に深夜ラジオを拝聴するようになった。その中でも特にTBSラジオのJUNKが誇るお笑い好きにはたまらない盤石な布陣に魅了され、ほぼ毎日聴くようになった。
初めは聴いているだけで満足していたが、その頃すでに芸人を志していた僕はいつしか投稿してみたいと思うようになった。いわゆるハガキ職人である。
数ある番組の中から僕が選んだのは伊集院光さんがパーソナリティを務める『深夜の馬鹿力』だった。馬鹿力の投稿コーナーは想像しろが多く、聴くのも考えるのも楽しい。今はわからないが当時はJUNKで唯一この番組だけがコーナーごとの投稿フォームを用意していて、そこにネタを書き込むシステムだったので初心者でもとっつきやすかったのをよく覚えている。
しかし最近聴き始めたいち大学生がそう簡単に読まれるほど甘いものではなく、自分の投稿が電波に乗ることはしばらくなかった。もう半ば諦めムードだった僕は、毎回適当なラジオネームを付けて宝くじを買うような気持ちで投稿を続けていた。そしてそんなある日の馬鹿力で伊集院さんの口から
「ラジオネームしまいにゃポコチン…」
という言葉が出た。たしか僕が今週適当に付けたラジオネームな気がする。その後のネタの内容を聴いて確信に変わった。僕が送ったやつだ。眠気はどこか遠くへ吹き飛び、溢れ出そうな喜びを必死に押さえつけて静かにガッツポーズをした。そこから僕は『しまいにゃポコチン』として様々なラジオ番組に投稿を始めることとなる。
それから10年以上の時が経ち、今月28日に『図書館名探偵の事件簿』という番組がNHKで放送される。光栄なことに僕がMCを務めさせていただくのだが、ゲストのひとりになんと伊集院光さんがいらっしゃるのだ。ネクストブレイクも長いことやってるとこんなハガキ職人ドリームも叶うんだと感慨深くなった。この事実をご本人に言うか言うまいか悩んだのだが、あえて言わないことにした。大まかな理由としては「なんかそっちの自分の方が好きだから」である。
収録自体は伊集院さんに何度も助けていただき、僕のような未熟MCがとてもやりやすいようにしてくださった。いつも当たり前のようにこなしてしまうから麻痺してしまっていたが、伊集院さんの圧倒的な立ち回りを目の当たりにして普通に家でテレビを見ているような感覚に陥る瞬間が多々あった。同じ業界にいるからこそさらにそのすごさが身に沁みる。
そして収録終わりにスタッフさんとお話ししていると「実はこの番組、うちの◯◯っていうスタッフが森本さんをMCにしたいって言って決まったんですよ」と教えてくださった。その◯◯さんは僕が現場入りした時にいらっしゃってお話しもしたけどそんな素振りは一切見せていなかった。タイミングはいくらでもあったのに、だ。
それを聞いて自分がハガキ職人だったことを伊集院さんに言わなかったのは正しかったのかもと思いながら帰路に着いた。僕はやっぱそっちの方が好きだ。
森本晋太郎
●もりもと・しんたろう…1990年1月9日生まれ、東京都出身。お笑いトリオ「トンツカタン」のツッコミ担当。プロダクション人力舎のお笑い養成所・スクールJCA21期を経て、現在はテレビやラジオで活躍中。趣味でもあるツッコミに特化したYouTubeチャンネル「タイマン森本」も好評。