お笑いコンビ・トンツカタンの森本晋太郎さんがTV LIFEで連載中のコラム「トンツカタン・森本晋太郎のネクストブレイク紀行」。「今年売れる」と言われ続ける中での出来事や本音が綴られた“飛躍を夢見る芸人の備忘録”をwebでも公開します。今回は、M-1グランプリの話。(TVLIFE 2023年12月13日発売号より転載)
準々決勝を前日に控えた芸人のリアル
2023年も例年通り芸能界を牛歩で進んでいく中で、なんと予期せぬ最大のネクストブレイク脱出チャンスが到来した。そう、M-1グランプリである。執筆時点でトンツカタンは準々決勝に進出しており、みなさまがこれを読んでいるころには決勝メンバーが発表されている。
定期的に新ネタライブを行うようになってからお客さんを飽きさせない工夫のひとつとしてそれまで一切やってこなかった漫才を作るようになった。それに伴い、その年に出来た最も良い漫才をM-1グランプリにかけてみるというのを2年前から行なっている。初年度は物珍しさからか運良く準々決勝に行くことができたが、そこでキングオブコント同様とても分厚い壁に弾かれた。
去年は2回戦をギリギリで追加合格し、最終的に3回戦で敗退した。完全に一年目ボーナスの終わりを感じた。それをきっかけに真剣に漫才と向き合い始めるわけでもなく、今までと同じペースで新ネタを作った。そう、M-1グランプリは戦うものではなくエンジョイするものと決めたのだ。特に相方とこの話をしたわけではないが、きっと同じ考えだろう。
エンジョイに振り切ったことにより、僕はM-1のYouTubeでネタが公開され、全国のお笑い好きの目に触れる3回戦を目標に挑むことにした。2回戦でありがたいことにインタビューをしていただいたのだが、そこでも「3回戦を目標としておりまして、ここで勝てれば僕らにとって決勝進出と同義です」と宣言してスタッフさんがあまりの志の低さに首をかしげていた。しかしその緊張感のなさが功を奏したのか、今回2年ぶりに準々決勝へと駒を進めることができた。
そんなエンジョイ第一をモットーに掲げていたものの、人間とはまあ欲深い生き物で、冒頭で僕はこの状況を「最大のネクストブレイク脱出チャンス」と言ってしまっている。完全に勝ちたがっているし、なんならこのコラムを書き始めてから心拍数が少しだけ上昇している。こしゃくにもこの機会をものにしようとしている。M-1グランプリという大会の歴史と重みはこうも人の感情を揺さぶってくるのか。
ならばM-1によって引き出された感情はすべてM-1にぶつけてこようと思う。当初のエンジョイ100%からは離れてしまうが、そうも言ってられない段階に来てしまっている。このコラムも初めは「漫才楽しむぞ」といったまとめ方で書く予定だったけど、そんな綺麗事で終わらせられるわけもなかった。どうやら僕は自分が思ってる以上に人生を変えてみたいらしい。
これを読んでいるみなさん、僕の人生は変わりそうですか?なるほど、わかりました。
森本晋太郎
●もりもと・しんたろう…1990年1月9日生まれ、東京都出身。お笑いトリオ「トンツカタン」のツッコミ担当。プロダクション人力舎のお笑い養成所・スクールJCA21期を経て、現在はテレビやラジオで活躍中。趣味でもあるツッコミに特化したYouTubeチャンネル「タイマン森本」も好評。