齊藤京子(日向坂46)が初の単独主演で挑む、新進気鋭の漫画家・伊奈子の『泥濘の食卓』を初ドラマ化した本作。主人公の深愛はアルバイト先の妻子あるスーパーの店長と禁断の恋に落ちるが、純粋すぎるがゆえにまっすぐなその愛はやがて度を越えていき…。店長だけでなく、その息子や妻にまで近寄り、徐々にこの家族へと寄生。やがて泥濘へと引きずり込んでいく、かつてない“パラサイト不倫”を描いてきた。
そんな本作で吉沢悠さんが演じるのが、深愛がただひたすらにまっすぐな愛情を向け続ける店長・那須川。さらに、深愛に思いを寄せるハルキ(櫻井海音)の父であり、彼女がカウンセラーになり切って支えてきたふみこ(戸田菜穂)の夫でもある。
第8話(12月9日放送)では、ついにふみこが那須川と深愛の関係に気づいただけでなく、深愛が“毒母”美幸(筒井真理子)に那須川への思いを打ち明ける衝撃の展開で幕を閉じたが、いよいよ今夜は1時間スペシャルで送る最終回。そんな同回を前に、オファーを受けた際の心境や本作に感じた印象を吉沢さんに振り返っていただきました。那須川を演じる上でヒントにしていたワードなども明らかに…。
◆まず、原作や脚本を読んだ際に感じた印象は?
原作と台本を読ませていただいた際、心に隙間のある男性が若い女の子に手を出し、不倫をしてしまったという単純な物語ではないな、と感じました。同時にタイトルの“泥濘”とは一体どういう意味なのだろうと考えたのですが、ひと通り読み終えた時に“水分を多く含み、泥状になっている地面”というような説明書きを見つけたんです。まさにその通り、この作品は登場人物それぞれが何かしら事情を抱えていて、主人公の深愛ちゃんもその生い立ちから嫌われたくない、自分を肯定してほしいという欲求がある。僕が演じる那須川も、おそらく社会人として何かを成したい、スーパーの店長となって家族を支えたいという入り口から入ったものの、年を重ねるごとに現実はうまくいかないことばかり。加えて毎日の忙しさにも追われ心が疲弊してしまい、目の前のことを正しく捉えられなくなり、深愛ちゃんやアルバイトの女の子との不倫を繰り返してしまっていて…。そんな人間模様の闇の部分にフォーカスを当てているところや、それぞれの登場人物が生み出す世界観が魅力的な作品だなと感じました。
◆那須川という役を演じるに当たって、当初どのような心境でしたか?
一番最初に衣装合わせをした際に、監督が多忙な中で時間を割いていただき、キャラクター設定を丁寧に説明してくださったんです。その際に、あくまで僕ら生身の人間が演じるドラマでありながら、原作の世界観や大切にしなくてはいけない部分を制作陣がしっかりと捉えているということが伝わってきて。さらに、那須川が僕自身これまで触れてきたことがないようなキャラクターということもあり、今まで僕がやってきたやり方では通用しないかもしれない、という感覚を覚えたんです。なので、0とは言わずとも1からいろいろ構築しながら芝居の仕方を練っていこうと。陳腐な表現かもしれませんが、僕にとって“挑戦”となる役だなと感じました。
◆那須川の役柄について、監督とはどのようなお話をされたのでしょうか。
当初は深愛ちゃんに一線を踏み込ませないといいますか、ここから先はもうだめだよ、とある程度のところで遮断するような男なのかなと勝手にイメージを抱いていたのですが、そこがまず監督の考えとはズレていたんです。あくまで深愛ちゃんに対しての愛情はしっかりありながら、疲弊感から頭の回転やキャパシティが追いつかず、決して進んではいけない道を選んでしまったのだと。そういう捉え方で那須川を構築してほしいというお話を監督から頂いて、“疲弊感”というのが那須川を演じるに当たってかなり大きなヒントになりました。
◆その“疲弊感”は白髪まじりの外見だけでなく内面からも匂い立ち、那須川というキャラクターの魅力になっていると思います。そして、吉沢さんは4月クールのドラマ『夫婦が壊れるとき』(日本テレビ系)でも不倫する夫の役を演じられていましたよね。
『夫婦が壊れるとき』の時もそうだったのですが、回を増すごとに視聴者の皆さんからのコメントがひどくなってくるんですよ(笑)。でも、それは逆に言うと期待していただいているということだと受け止めていて。形は違えどどこか似た部分のあるキャラクターですし、那須川も皆さんがつい気にしてしまう存在になっていたらいいなと思っています。
◆物語は怒とうの展開を繰り広げていますが、現場の雰囲気はいかがですか?
主演の齊藤さんをはじめ、僕と年齢がひと回り以上離れている方も多いですが、若い方々との共演は刺激になりますね。皆さん吸収力がすごくて、本読みの段階から監督のオーダーに対してすぐに応えていくんです。息子役の櫻井(海音)君も役としては悩みの中にある青年ですが、普段はとても明るく好青年で、皆さんからエネルギーをもらえる現場でもあります。
◆最後に、読者へのメッセージをひと言お願い致します。
この作品は賛否両論あるドラマになっていると思っています。決して明るい物語ではありませんが、この『泥濘の食卓』という作品の持つ独特な空気感や、普段の生活では味わうことのできない非日常な世界観というのを作り上げてきました。それぞれが抱えている“泥濘”にどう向き合っていくのか、ぜひ最後まで楽しんでいただけたらうれしいです。
ANOTHER TALK
◆日々の中で泥濘にハマってしまった時の解消法は?
「これができていない」とか「こうなれたらいいのに」と頭を抱えることもあるのですが、僕は運がいいことにいい教えを説いてくださる人たちと出会えて。とにかく「行く末を捉えた生き方をしなさい」とおっしゃるんです。目先のことでぐるぐる迷うのではなく、10年、20年と行く末を捉えたことができているかという視線で捉えなさい、と。そういう意味では、挫折を感じるようなことがあっても行く末につながることなんだという捉え方ができるので、なんとかやれているのかなと思っています。
PROFILE
吉沢悠
●よしざわ・ひさし…1978年8月30日生まれ。東京都出身。B型。近作はドラマ『週末旅の極意〜夫婦ってそんな簡単じゃないもの〜』『夫婦が壊れるとき』『悪女について』『ギバーテイカー』『イチケイのカラス スペシャル』など。
番組情報
土曜ナイトドラマ『泥濘の食卓』
テレビ朝日系
2023年12月17日(土)午後11時30分〜深夜0時30分
※最終回は1時間スペシャル
番組HP:https://www.tv-asahi.co.jp/nukarumi/