特定の声優にスポットを当て、その声優が吹き替えた作品を集めて特集放送するムービープラスの人気企画「吹替王国」。6月12日(日)放送の第6弾に登場する東地宏樹さんに、吹き替えについて根掘り葉掘り聞いてみました!
「メン・イン・ブラック」は幸せな収録でした
――今回の『吹替王国』のお話を聞いたときはどう思われましたか?
(小山)力也さんのときにツイッターで流れてきたので、こういう番組があるのは知っていました。それから山路(和弘)さんがやられて、そのあと連絡が来たので、どういう方が出てるのかなってそれ以前の出演者を見たら、「おいおい、ちょっと待って。まずいぞ、6番目ってなんだよ」って(笑)。6番目は早い、18番目くらいだなって感じはしています。
――番組宣伝の面白CMを収録されましたが、ほかの方の映像は事前にご覧になりましたか?
玄田(哲章)さんのとか、けっこうな破壊力があるのを見ました。ずいぶんふざけてるんだなあって(笑)。で、自分の台本をいただいて、うん、この程度で許してもらえるんだ。丁度いいやって(笑)。
――今回の番宣CMでは、キャラクターが次々と切り替わるシーンもワンカットで収録されました。難しかったのでは?
あれは違うんですよ。逆にひとつひとつ区切って収録したほうが、自分がショックを受けるんですよ。何もかわらないから。ショックを受けるくらいなら、いっぺんに収録したほうがいいと思ったのでそうしました。
――今回放送されるウィル・スミスの「ワイルド・ワイルド・ウエスト」の収録当時の思い出は?
当時、ウィル・スミスさんの吹き替えは「メン・イン・ブラック」しか経験がなかったんです。でも監督が同じなんですよね。だからキャラクターのテイストも似ていたんです。この作品も時代物なんですけど、「メン・イン・ブラック」のノリの良さを持ち込んでやりました。あとは、相手役のケヴィン・クラインさんは大好きな役者さんでそれを大好きな大塚芳忠さんを通じて絡ませてもらえて、幸せな収録でした。
――「アイ・フランケンシュタイン」ではアーロン・エッカートの吹き替えを担当されましたね。
アーロン・エッカートさんは、「アイ・フランケンシュタイン」ともう1作品くらいしかやってないと思うんですけど、彼の映画自体は好きで色々観ていました。素敵な役者さんだなと思っていて。「アイ・フランケンシュタイン」の時は、「フランケンシュタインをどんな感じでやっているのかな」と観察して「こういう風にやりたかったんだろうな」っと観察して、あるシーンで見えてきて。そこをきっかけにしながら、やらせてもらったなっていう記憶があります。
――「ファーナス/訣別の朝」のクリスチャン・ベールは役柄によってまったくキャラクターが変わりますよね。
あの人は尋常じゃないですよね。それも作品に合わせるというか、その人がこの作品で何をやりたいのかっていうことですよね。いろんなことをやりたいのが役者さんだから、そのときの作品に対して何がやりたいのかな?というヒントになるようなものがあればと思っていつもやっています。それは絶対どこかにはありますので、いつも参考にしてますね。
――吹き替える際に、キャラクターはどう作っていかれるのですか?例えば「メン・イン・ブラック」でのウィル・スミスのコミカルさとか。
作品の中でどういう役回りなのかということを、台本を読んで考えることが多いですね。例えば、クリスチャン・ベールさんがどういう意図でこうやっているのかっていうヒントのシーンがちょっとあるんです。いい映画は絶対にそのシーンがカットされていないので、そういうヒントみたいなものを探して、それから逆算して作ることがけっこうあります。
ウィル・スミスさんの「メン・イン・ブラック」での魅力は、やっぱりギャップ萌えですよね。あんなにギャーギャーやってるけど、締めるところは締めるっていう。ああいうのってみんな共感できるところだと思うんです。あれは、僕が作っているんじゃなくて、ウィル・スミスさんがやってるんです、ちゃんと。
あと、彼は役者である前にラッパーで、リズム感がすごくいい。僕はリズム感があまりよくないんですが(笑)、ちょっとまくしたてるところにリズム感を出すとか、もしラップでやるならこうなるのかなっていうのも考えた上でせりふに戻したりっていうのはありますね。
内海賢二さんが「東地、待ってるぞ」って
――東地さんはどんなきっかけで声優の仕事を始めたんですか?
もともと声優になるつもりはなかったんですけど、大学で仲良くなった連中が芝居にすごい熱いやつらで、舞台のほうに引き込まれていったんです。役者になるつもりもなかったんですが、やらないと単位がとれない。「演劇学科・演技コース」っていうところに入っちゃったので(笑)。
最初に吹き替えをしたのは金城武さんの「アンナ・マデリーナ」という作品。それで大失敗して、2本目は何となくうまくいったけど、しばらく声優の仕事はなかったんです。そこにウィル・スミスさんの「メン・イン・ブラック」のオーディションがあったので「吹き替えを経験してないわけじゃないからやってみようかな」って思ったら運良く受かって。そこからスタートしました。
――そのときに声優という仕事の魅力を知ったんですね。
いや、「メン・イン・ブラック」のときはボロボロでしたね。ボロ雑巾のようになって。ほかの方々はみんな先に終わられたんですよ。今でも忘れないんですけど、そのときに内海賢二さんが「東地、待ってるぞ」って言ってくれて。みんなで先に飲みに行ってるんですね。僕はどうにか収録を終えて、遅れて参加したら「新しい仲間の東地だ」って内海さんが言ってくださって。いい思い出です。
「メン・イン・ブラック」ってやたらと再放送してくれるんですよね。それを見るたびにやっぱり…(苦笑)。“どヘタクソ”だと自分では思うし、まあ、ヘタとかうまいとかじゃないものがあの作品にはある、とディレクターの方はいってくださるんで、ありがたいんですけど。自分から見ると「おいおいおい…」とは思います(笑)。
でも、そんなのを後悔してる暇はないんですよね。いまの年代でできることを精いっぱいやるしかないといつも思っています。
――映画の吹き替え、アニメ、ゲームではそれぞれどんな違いがありますか?
映画の吹き替えのほうは、面白くて日本に来てるっていうものもあれば、そうじゃない作品(笑)に声を当てることもあるんです。そのとき、僕らがチームでどうしたら日本語吹替版で楽しく観てもらえるかなって事を考えるので、逆に盛り上がっちゃいます。
アニメは、吹き替えに比べると自由度が高いですね。先方から指名されてのオファーなら自由にやらせてもらう事が多いので特に、自由度というか責任感はちょっとアニメのほうが強いかもしれないですね。
ゲームは……修行だと思っています(笑)。籠りきってやるので。作品によっては、現場の近くに部屋を借りたくなる作品もありますね(笑)。
―― 一番、自分に合っている、楽しい現場は?
海外ドラマは楽しいですよね。面白いシリーズをやるのは楽しい。いつまでもやっていたいって思います。作品によっては「これ大丈夫か?」っていう作品もありますけど(笑)、それはそれでみんなで面白くしようぜっていうのもありますし。
――シリーズものを長く続けることで見えてくるものはありますか?
ありますね。レギュラーメンバーの呼吸感ですとか。いい作品だと準備もよくて、収録が終わったあとに次の台本を渡してくれるんです。準備がいい=いい作品だと思うんですけど、制作の方から次の台本を渡されたときに、みんなその台本を早く読みたいわけです。次どうなるかって。で、飲みに行って「こうなるってよ!」って盛り上がってる瞬間が一番楽しい。
いま僕がやっている「スーパーナチュラル」という作品はすごくよくできたシリーズなんです。1シーズンに20何話あるんですけど、その中に本筋とまったく関係ない話を突っ込むんですよ。それがアメリカでは人気みたいで。それを楽しみにしているコアなファンがいて、そういう作り方も長く続けられる秘訣なのかなって思います。
――声優によっては、息遣いやしゃべりのトーンが自分に近い俳優がいるそうです。東地さんにとってそういう俳優はいますか?
僕にとってのウィル・スミスさんっていうのは、「こういうことをやる」っていうことは分かってはいても、やっぱり合わせるためには1本1本に対してちゃんと準備しないとできないっていうところはあります。
「プリズンブレイク」シリーズのウェントワース・ミラーさんは、「レジェント・オブ・トゥモロー」に出ているんですけど、映像で見たら演技のくせが変わっていなくて。合わせやすいといえば合わせやすかったですね。
腕のある人たちの職人芸に注目して見てほしい
――声優の先輩方に飲みに連れて行ってもらうそうですが、お店で声バレしませんか?異様に声がいい集団は目立つと思うのですが…
声バレはしますね。でも、その前にとにかくうるさいんです(笑)。すさまじい声のデカさですから(笑)。それはもうびっくりしますよ。
声バレでいうと、同じお店にいる団体さんが声優の専門学校の生徒だったら即アウトです(笑)。
――声優は人気職業になりましたが、後輩たちにアドバイスをお願いします。
人に「どうすればいいですか」って聞くなって言いたいですね。いま活躍している人たちは、人に聞いていないと思いますよ。
何をやらなきゃいけないのかとか、どうしなきゃいけないのかっていうのは、人を見ていれば分かりますから。こうなりたいと思ったら努力の方法としては自分でやるしかない。
あとは、普段の生活で泣いたり、笑ったり、怒ったり、悲しんだり。そういう経験が助けになる仕事です。
引きこもったり、いじめられていようが、明るい学生生活を送れなかった人でもそういう経験さえも生かせる世界だと思います。ただやはり人と関わることは大切だと感じます。傷ついて、失敗して、成長していきましょう。僕自身も現在進行形であります。
――最後に、視聴者に向けてメッセージをお願いします。
放送される作品はそれぞれ面白くて、バラエティに富んだ作品を放送してもらえてうれしいです。やっぱり吹き替えのよさというのは間違いなくあって、日本語の分かる方が見ている場合に、吹き替えには字幕にない表現の幅があります。
字幕では、5人がクロスしてしゃべっていても、せりふが全部いっぺんには出てこない。一人がしゃべったせりふしか出てこないんです。それが、吹き替えではいっぺんに分かるんです。
僕の先輩方、自分も頑張っているとして、普段から頑張っている腕のある人たちの職人芸に注目して見ていただければと思います。
PROFILE
東地宏樹●とうち・ひろき…5月26日生まれ。東京都出身。
洋画の吹き替えのほか、アニメ・ゲーム・海外ドラマなどでも活躍。
洋画では、ウィル・スミス、クリスチャン・ベール、アーロン・エッカートなど多くの役者の吹き替えを担当。
番組情報
『吹替王国 #6 声優:東地宏樹』
CS映画専門チャンネル ムービープラス
6月12日(日)15:00~翌1:15
ムービープラス「吹替王国」公式ページ⇒http://www.movieplus.jp/square/fukikae/
放送ラインナップ
★アーロン・エッカート出演作★
『アイ・フランケンシュタイン【日本語吹替版】』
放送日時:6月12日(日)15:00~16:45
監督:スチュアート・ビーティー
出演:アーロン・エッカート/イヴォンヌ・ストラホフスキー/ビル・ナイ
声の出演:東地宏樹/有本欽隆/世戸さおり
フランケンシュタイン博士が創造した人造人間“アダム・フランケン
シュタイン”は、誕生から200年後の今も生き続けていた。
世界支配を企む“悪魔”と、それを阻止せんとする“天使”の長きに
渡る全面戦争に巻き込まれた彼は、自身の“再生細胞”が戦いの
鍵を握っていることを知る。
★リーヴ・シュレイバー出演作★
『ソルト【日本語吹替版】』
放送日時:6月12日(日)16:45~18:45
監督:フィリップ・ノイス
出演:アンジェリーナ・ジョリー/リーヴ・シュレイバー/
キウェテル・イジョフォー
声の出演:湯屋敦子/東地宏樹/竹田雅則
米CIA本部。女性分析官イヴリン・ソルトが、謎の密告者オルロフの
尋問を行なっていた。だがオルロフは、訪米中のロシア大統領暗殺
計画とそのために送り込まれた女スパイ“ソルト”の存在を告白。
ソルトは何者かの罠だと訴えるが聞き入れられず、同僚から
追われる身となってしまう。
★クリスチャン・ベール出演作★
『ファーナス/訣別の朝【日本語吹替版】』
放送日時:6月12日(日)18:45~21:00
監督:スコット・クーパー
出演:クリスチャン・ベール/ウディ・ハレルソン/
ケイシー・アフレック
声の出演:東地宏樹/内田直哉/小松史法
溶鉱炉が立ち並ぶペンシルベニア州ブラドック。この寂れた鉄鋼の
町で生まれ育ったラッセルは、製鉄所で働きながら老父の面倒を
見ている。イラク戦争で心に傷を負った弟のことも心配だが、
恋人リナに支えられ慎ましくも愛情に満ちた日々を送っていた。
だが、そんな彼の暮らしがある日突然、暗転する。
★ウィル・スミス出演作★
『ワイルド・ワイルド・ウエスト【地上波吹替版】』
放送日時:6月12日(日)21:00~23:00
監督:バリー・ソネンフェルド
出演:ウィル・スミス/ケヴィン・クライン/ケネス・ブラナー
声の出演:東地宏樹/大塚芳忠/広川太一郎
1869年、西部開拓時代の米国。短気で無鉄砲なジェイムズ・
ウエスト、発明家で知的なアーティマス・ゴードンという対照的な
2人の連邦捜査官に、大統領からある密命が下される。
それは、秘密兵器を使って政府乗っ取りを企む悪の天才科学者、
ラブレスの陰謀を阻止せよというもので・・・。
★ウォンビン出演作★
『アジョシ【日本語吹替版】』
放送日時:6月12日(日)23:00~翌1:15
監督:イ・ジョンボム
出演:ウォンビン/キム・セロン/キム・ヒウォン
声の出演:東地宏樹/矢島晶子/高瀬右光
街の片隅で質屋を営み、ひっそりと生きる男テシク。クラブダンサー
の母親に構ってもらえない隣家の少女ソミは、そんな彼を“アジョシ
(おじさん)”と呼んで慕っていた。ある日、麻薬密売に巻き込まれた
母親とソミが組織に拉致されてしまう。テシクは驚異的な身のこなし
で組織に立ち向かうが・・・。