西島秀俊、初の指揮者役で「表現する、誰かと共鳴するとはどういうことかを学んでいる気がする」『さよならマエストロ』インタビュー

特集・インタビュー
2024年01月14日
『さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~』©TBS

日曜劇場『さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~』(TBS系 毎週日曜 午後9時~9時54分/初回は25分拡大)がいよいよ1月14日(日)にスタート。初回放送に先駆け、主演を務める西島秀俊さんに、マエストロ(指揮者)として心掛けていることや、共演の芦田愛菜さんの印象などを聞きました。

本作は天才指揮者だったが“ある事件”で家族も音楽も失った父親・夏目俊平(西島)と、そんな父を拒絶し音楽を嫌う娘・響(芦田愛菜)が地方オーケストラを通して失った情熱を取り戻し親子の絆と人生を再生させていく、とびきりアパッシオナート(情熱的)なヒューマンドラマだ。


◆オファーを受けた時の心境を教えてください。

プロットと企画を頂いて、そこに数行書いてあるせりふだったり、物語を読んで感動したので、この作品に関わることができるのであればぜひお願いしたいとすぐに思いました。

◆一番の決め手は何でしたか?

物語です。人それぞれ生きていく中で困難なことは必ずあって、大きな挫折を経験している人たちがそれぞれ音楽を通して、もう一回再生していくという物語が、どこか遠い物語ではないなと脚本の力を感じて、参加したいなと思いました。

◆特にどういったところに脚本の魅力を感じられていますか?

それぞれが取り返しのつかない過去を背負っていたり、僕たちがどこか身近に感じられるような人生の壁みたいなものにぶつかっている登場人物がたくさん出ています。そんなキャラクターたちが音楽を通して、お互いを作っていくという物語がすごくドラマチックで、それと同時にこれは自分たちの物語なんだと感じさせてくれる脚本。実際に僕は演じている側ですけれども、演じている側としてだけではなく、きっと自分が出来上がったものを視聴者として見た時にも、自分の物語として感じられて、温かく前向きな気持ちになるのではないかなと。本当に読んでいて毎回涙がこぼれてしまうようなジーンとくるすてきな脚本です。

◆涙がこぼれそうになるのは、俊平の心情に共感されてでしょうか?

どちらかというと、オーケストラのメンバーたちの「本当は自分はこういうことがしたかったんだ」「こういうことを人に分かってほしかった」ということを音楽を通して、みんなが理解し合うところです。それぞれの登場人物が魅力的で全員が主役みたいなドラマなので、そこを読んでいて、演じていて、とても感動しています。

◆本作ではマエストロに挑戦されていますが、実際に習われていかがですか?

指揮者という職業を演じるのは僕にとってハードルが高いです。そもそもできるのかなと。いまだに苦労していますし、きっとこの撮影中は次の曲、次の曲と自分の中で、いつまでも1曲1曲に向かっていく感じです。

◆特にどういったところに難しさを感じられていますか?

教えていただく先生が何人もいらっしゃって、マエストロの映像も見ているのですが、皆さん全く違うんです。もちろん基本はあるのですが、結果としてはバラバラで全く正解がないという。何か一つの方向に向かっているけれども、皆さんが皆さんの道をひたすら進んでいるということなので、もちろん模倣から入っていますが、最終的には自分の道を探していくしかないのかなと思っています。

◆監修の広上淳一先生とご一緒してみていかがですか?

僕の役にとって、広上先生がとても大きなヒントや、影響を与えてくださっていて、本当にお人柄、ご本人の持っているエネルギー、誰もが好きになる、そしてご本人も音楽に対しての愛情がものすごく大きな方で、魂の部分というか、そういうものを常に教わっています。そして、そのことを表現してくださいと、最初からそして今も言われ続けていて、他の先生にも「最も模倣するのが難しい人です」とも言われています(笑)。広上先生からはこのリズムでこういうことをやっている、なぜこういう動きをしているのかなど、基本の振りからすごく丁寧に教えていただいています。

あとは先生の動きを見て、「先生、ここはなぜこういう動きをしているんですか?こういうことですか?」「そうです。これはこういうことでこうやっているね」と、広上先生自身も無意識でやられているところをご自身で分析していただいて、それを僕に解説してもらって、それを僕が消化してという作業を積み重ねていって、本番に向かっています。本当にプロセスがすごく不思議で、何か形を真似していって、それの精度を上げていくのではなくて、広上先生に教わった“この曲はこういう曲で、こういう風景があって、こういう感情があって”ということを掘っていって、それ以上の何か本当に表現するということ、そして、誰かと一緒に共鳴するということはどういうことかということを学んでいるような気がしています。

◆指揮台に初めて立ったときはどんなお気持ちでしたか?

人前に立つということは慣れているほうですが、実際オーケストラの皆さんの前に立つというのは全く別の体験でした。先生に「全く違いますね」という話をしたら、「あれ、武器だからね」と言われたんです。みんなが楽器という武器を持っていて、その人たちを前に立たなきゃいけないと。なので、すごくプレッシャーは感じていますし、これまで2曲ぐらいやっていますが、どちらも何かが起きていて、先生も喜んでいらっしゃるし、僕自身、それからオーケストラの皆さんの表情を見ていてもそういうふうに感じられます。それは不思議な感動があって、素晴らしい体験をしたなということが起きています。まだまだ曲がたくさんあるので、今はとにかく必死に曲と向き合っています。

◆俊平に対して、演じていく中で理解が深まったことはありますか?

スタッフも本当に気持ちがいい人が多いですし、すてきなロケ先の風景の中でみんながそれぞれの楽器の練習をしていて。よく知っている曲を練習しているのですが、あらためて向き合うと本当に美しい曲ですし、キャストも真っすぐで純粋な人たちが集まっているので、現場に清廉な空気が常に流れているんです。それがきっと俊平を作る上でも大きく作用していて、俊平という人が持つ純粋さだったり、音楽に対する愛情や喜びを、楽器がうまい下手ではなくて、俊平と同じように感じる人たちと共鳴することで、傷が癒やされたりすることがとても当たり前のように感じますし、そういう空気が現場に流れています。だから、現場に入る前に考えていた俊平とは違う、すごく無垢な俊平になっていると思います。

◆今回、ウィーンでの撮影もありましたがいかがでしたか?

ちょうどウィーンに行った時、そのシーズンは天気が悪いと言われていたのがたまたまその撮影の数日間だけものすごく快晴だったんです。それで本当に気持ちのいい日の中、美しい風景がたくさん撮れて、日本に帰って来て、富士山がよく見える場所に行くのですが、これがまた富士山がよく撮れる。雲がかかってなかなか撮れないと言われている中、そのウィーンの風景、空気みたいなものと、日本で確かに何かつながっている空気感みたいなものがあって、それは幸運なんでしょうけど、作品の雰囲気が作られたのかなと思っています。

『さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~』©TBS

◆共演する芦田愛菜さんの印象は?

本当に柔らかくて、温かくて真っすぐな人ですが強い。強いからこそ、真っすぐで柔らかくいられるんだなとあらためて感じています。それはドラマだけではなくて、バラエティでご一緒した時でもそうですし、待ち時間でもそうですが、撮影も時には時間的にも大変なことがあったりとか、寒かったりすることもありますが、その中でも全くつらそうな様子を見せないので、本当にすごいなと。僕は「すごく寒い」と言ってしまうので“寒がりマエストロ”とあだ名をつけられているんですけど(笑)。女優としてももちろん素晴らしいですし、人間としても素晴らしい方だなと思っています。

僕の前では響は基本的に怒っているので、芦田さんの怒っているところしか僕は見られていないんです。この間たまたますごく楽しそうにしているところを見かけましたね(笑)。カットがかかったら、芦田さんはニコニコとされていますが、本番中はずっと俊平に怒っているので、他のシーンを見ると「あ、笑っている」「楽しそうだな」といろんな思いが渦巻きます。なので、ドラマが完成して、僕の目の前でないところでたくさん表れている響の本当の姿をすごく楽しみにしています。

◆現場の雰囲気など、共演者の皆さんのエピソード交えて教えてください。

オーケストラのチームは、控室でもずっと「ここの何小節目の何々が~」みたいな音楽の話が飛び交っていて、ドラマの撮影をしているのか、コンサートの練習をしているのか分からないような感じになっています。本当にみんな楽器がうまくなっていて、本当に弾けるようになっているので、お互いに刺激を受けながら、「ここはこうやろう」とコミュニケーションを取るようにしています。

家のシーンは、大体カットがかかって、全部オッケーになってから、みんなで食事してます(笑)。芦田さんはまだシーンが終わっていなくても、「おいしいですね」みたいな感じですし、大西(利空)君も「食べていいですか」と言って食べていて。(石田)ゆり子さんは料理好きなので、「なるほど」みたいな感じで、みんなカットだと言われているのに、まだ食べていたりします。

◆オーケストラキャストの成長と、物語の盛り上がりとリンクするなと感じられるところもありますか?

みんな真剣に、しかも楽しんで練習をしているので、楽しいです。これは役を考えていって、役同士で共鳴するものと、もう一つ楽器を本気でみんなが練習をし合って、ドンっと音を出すという感動が一緒にあるので、それが「あれ、もう弾けているね」という人たちがどんどんいて、それはこのドラマの特別な力になっているんじゃないかというのは現場でものすごく感じます。

◆“家族だから素直になれない”みたいなところも本作では描かれていますが、そういったところはどのように感じられましたか?

親子というのは不思議なものですよね。愛情と、子供の場合は親が乗り越えなければならない大きな壁ということもあるし、皆さん誰もがひと言では言えない複雑な関係だったり、感情を持っていると思います。そこはたとえ怒っていて、うまくコミュニケーションを取れないことがずっと続いても、その中で微妙に関係が変化していって、何か通じ合ってまたダメになってという揺らぎみたいなものを丁寧に演じていきたいなと思っています。

◆俊平と響の親子の距離感も見どころの一つになっていますが、その親子関係を作り上げる上で芦田さんと話し合われたことはありますか?

シーンによっては話すこともありますが、関係そのものの話は特にはしていないです。監督も現場で実際にやってみて、演技をすることで何か起こることを大事にされる方で、「今本番行こう!」「何回もやらないで、今いった方がいい」みたいな判断がよくあって、その1回にしか起きないことをみんなでつかまえようとしています。ですが、はじめはもうちょっとシリアスな厳しい感じのシーンになるのかなと思っていたところがあって、でもすごく怒っているけれど家族で一緒にご飯を食べているところははたから見たら面白いなと思うので、そこは現場のマイルドな雰囲気が入ったのかなと感じます。

◆この作品を視聴者の方にどう見てもらいたいでしょうか?

個人的なことかもしれませんが、震災があったり、コロナがあったりと困難なことが起きて、その後にどうやって立ち直っていくかという時に、娯楽や音楽、物語といったものが大きな力を与えてくれるということを実感したんです。そんな大層なことではないかもしれませんが、何か抱えている状況から立ち上がらなければいけない時に、出てくるそれぞれのキャラクターがみんな魅力的で個性的ですが、みんなどこか僕たちと同じように挫折だったり、何かを抱えていて、それを音楽を通して乗り越えていく物語になっています。皆さんと共感しながら、一緒に物語を見ていきたいので、付き合っていただけたらなと思います。

PROFILE

西島秀俊
●にしじま・ひでとし…1971年3月29日生まれ。東京都出身。A型。

番組情報

日曜劇場『さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~』
TBS系
2024年1月14日(日)スタート
毎週日曜 午後9時~9時54分※初回は25分拡大

<キャスト>
西島秀俊、芦田愛菜、宮沢氷魚、新木優子、當真あみ、佐藤緋美、久間田琳加、大西利空
石田ゆり子/淵上泰史、津田寛治、満島真之介、玉山鉄二、西田敏行

<スタッフ>
製作著作:TBS
脚本:大島里美
音楽:菅野祐悟
撮影監督:神田創
音楽監修:広上淳一(東京音楽大学)
全面協力:東京音楽大学
企画プロデュース:東仲恵吾
プロデュース:益田千愛
演出:坪井敏雄、富田和成、石井康晴、元井桃

公式サイト:https://www.tbs.co.jp/sayonaramaestro_tbs/
公式X(旧Twitter):@maestro_tbs
公式Instagram:maestro_tbs

©TBS

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