TVアニメ『アークナイツ』、ドクターの目が中心にきていない描写や回想シーンをあえて入れなかった理由とは? アニメプロデューサーと監督が語る制作秘話

特集・インタビュー
2024年01月30日

『アークナイツ 冬隠帰路』第16話場面カット

Hypergryph(ハイパーグリフ)が開発し、日本語版はYostarが運営・配信を行っているスマートフォン向けゲーム『アークナイツ』。本作のTVアニメが2クールに渡り放送された。基本的にゲームのストーリーに沿った内容で、全16話で構成されたTVアニメシリーズ。どのような点にこだわって制作されたのか。今回は、渡邉祐記監督とアニメプロデューサーを務めた畑岳央氏にインタビュー。放送後の今だから話せる制作秘話をお聞きしました。

◆最初に、ゲーム『アークナイツ』への印象についてお伺いできればと思います。

:“世界観が広げられる”作品だと思います。アニメで描いているシーンは『アークナイツ』の世界で起きている一部の出来事ではあるのですが、ストーリーや細かい設定から、それ以外にもあの世界ではいろいろなことが起きているということをイメージできるんですよね。渡邉さんはどうでしょう?

渡邉:いろいろなところでお話していますが、重たいというか、すごくシリアスな世界観になっていて、リアリティレベルが高い作品だと思います。ソーシャルゲームはキャラクターの魅力でゲームを好きになっていただく場合が多いと思いますが、『アークナイツ』に関してはキャラクターよりも世界観が作品の軸になっていて。もちろんビジュアルもカッコいい・かわいいキャラクターばかりですが、それ以上にどうやってキャラクターが世界に関わっているのかによって魅力が生まれているというのが、少し特殊だと感じています。

◆リアリティレベルの高さは、TVアニメでも意識されていましたか?

:意識していました。現実世界には「どうでもいい人」なんていないじゃないですか。だから本作においても、例え物語に深く関わってこないキャラクターがいたとしても、「どうでもいい人」として描いてしまうと、リアリティレベルが下がってしまうと思って。その例のひとつとして、ドクターら主人公が所属する「ロドス・アイランド製薬」と対立する組織「レユニオン・ムーブメント」の一般兵の描き方があります。作中でしばしばフォーカスがあたるキャラクターと対等とまでは言えないまでも、差別化するのではなく、あくまで同じ世界に生きる人たちという点を重視していました。

渡邉:ゲームでも「一人ひとりにちゃんと命がある」ということを大事にしていたので、特にSeason2はそれを主題のひとつにしていました。また、キャラクターが死んでしまうショッキングな展開が多い作品ですが、その事実だけに留まらないようになっていて。むしろそのキャラクターが死んだことで周りがどういう影響を受けたのか、その先はどうしたのかということに重きを置いていると、原作ゲームのシナリオから感じました。

◆Season2ではスノーデビル小隊をはじめ、「レユニオン」側に所属するキャラクターたちの視点にもフォーカスされていました。そのなかで、決して勧善懲悪ではないということが伝わる物語が展開されていたようにも感じています。

:本作はドキュメントに近い構成だと思っていて。正義と悪の概念というものをぜんぶ剥ぎ取って、まっさらにしたうえでただ事実の積み重ねで淡々と物語が進んでいくんです。そのなかで正義か悪かを判断するのは、視聴者のみなさん。決して押し付けるのではなく、視聴者のみなさんが自身と照らし合わせてキャラクターたちの心情と共有・共感できるような作品にしたいなという考えが私のなかにはありました。そのキャラクターがつらいから「つらそう」ではなくて、一緒になって「つらいよね、大変だよね」と思える共感作用が、この作品の感動ポイントであり、重ねての言葉になりますが、リアリティの高さにも繋がっていると思っています。

渡邉:共感作用という点で言えば、今回アニメ化するにあたって「『アークナイツ』の世界に視聴者が一緒にいるような感覚になる作品づくり」を意識していました。例えばテロップ。演出的に必要なところ以外は一切排除しています。そのときの出来事が何時・何分のことなのかという表示もしていません。回想シーンも本当に必要な場合以外は排除していますね。回想を入れて「このシーンはあのときのことと関連している」と強制的に思い起こしてもらうのではなく、視聴者の方が「あのシーンと関係しているかも」と振り返ってもらうのがリアリティにも繋がるはずと思い、あえてそういう作り方にしました。

◆なるほど。

渡邉:ただ、この作り方の副作用として、今誰がどこにいるのかという説明や補足を省いちゃうので、分かりづらくなってしまったかなと。じっくり見て考えてもらう作り方なので、「ながら見」には向いていない作品になっていると思います。

◆ある意味、見返す前提で作っているところもある?

渡邉:もちろんテレビ放送されることも念頭には置いていますが、地続きで見ることを想定して作ってはいました。Season2のスタートでSeason1の振り返りなどを一切入れていないのも、そういった地続きで見てもらうことを想定していたためです。

『アークナイツ 黎明前奏』第8話場面カット

◆見返すことでの気づきもある気がします。例えばメフィストとファウストの関係。戦いをゲームのように楽しんでいる残忍なメフィストと、冷静沈着なファウストが一緒にいる理由が分かりませんでしたが、Season2の物語を経て、ファウストにとってメフィストは唯一の存在だったのかなと思えるようにもなって。

渡邉:あのふたりは共依存の関係にありますからね。いつの間にかお互いに「いなきゃ」というよりも「いるからこそ」の存在になってしまっていたのかも。Season1の2話でのメフィストの言動はひどいものですが、改めて物語のなかでファウストがどう受け答えしていたのかという点やメフィストの過去を知ると、彼らの見え方も少し変わってくると思います。

◆その他、本作のアニメを制作するうえでこだわった点を教えてください。

:フレームでしょうか。一般的に日本のTVアニメは16:9のサイズで制作されますが、今回は2.35:1のシネスコ(シネマスコープ)を採用しています。

渡邉:シネスコを採用することで上下に黒帯が入っています。それだけで視覚的に高品質なものに感じさせる効果もありますが、採用したからといってぜんぶがリッチに見えるという簡単な話でもなくて。ただ、ゲームのアニメーションPVからずっとシネスコでやっていたので、今回はそれを踏襲する形にしました。

『アークナイツ 冬隠帰路』第16話場面カット
上下に黒幕が入っている(TVアニメ『アークナイツ 冬隠帰路』第16話場面カット)(TVアニメ『アークナイツ 冬隠帰路』第16話場面カット)

◆各配信サービスで全話配信中の本作。見返すうえで、おふたりがぜひ視聴者の方々に注目してほしいポイントを教えてください。

:Season1の好きなシーンは別のインタビューでもお答えしましたので、今回はSeason2についてお話できればと思います。私が印象に残っているのは、フロストノヴァの最期が描かれるところで、足の間から雪が吹き抜けるシーンですね。雪が吹き抜けるということは、風が吹いているということ。風が吹くということは、気圧の変化があるということです。あのシーンは、フロストノヴァが力尽きてアーツの影響が無くなったことで寒い部分と熱い部分ができて、風が起きたという表現になっているんですよ。つまりはあのカットって、死のメタファーなんです。TVアニメ『アークナイツ』では、見えないものを描いてほしいという気持ちが私のなかにはあって。あのカットは目には見えない「命」というものを「風」や「雪」で表現できたと思うので、印象深いですね。

『アークナイツ 冬隠帰路』第16話場面カット
フロストノヴァ(TVアニメ『アークナイツ 冬隠帰路』第16話場面カット)
『アークナイツ 冬隠帰路』第16話場面カット
目に見えない命を「風」や「雪」などの描写で表現(TVアニメ『アークナイツ 冬隠帰路』第16話場面カット)

渡邉:自分が実作業したところで挙げると、Season1とSeason2で似たような構図になっているところは意図して作っているので、注目していただければと思っています。例えばドクターの目のアップとアーミヤとの視線。1話でPRTSにログインする場面でドクターとアーミヤの目のアップが映るシーンがあるのですが、あそこのシーンではドクターの目が画面の中心からちょっとズレているんですよね。あれは、ドクターとアーミヤの気持ちが完全に一致していないことを表現しています。ただ、16話のフロストノヴァのところへ向かうシーンでは、ドクターの目が中心位置にきていて、アーミヤの中心構図と重なるんですよ。ここにきてふたりのズレが収束してきたということを構図で表現しました。

『アークナイツ 黎明前奏』第1話場面カット
アーミヤの目のアップ(TVアニメ『アークナイツ 黎明前奏』第1話場面カット)
『アークナイツ 黎明前奏』第1話場面カット
目覚めたばかりのドクターの目のアップ(TVアニメ『アークナイツ 黎明前奏』第1話場面カット)
『アークナイツ 冬隠帰路』第16話場面カット
16話でのドクターの目のアップ(TVアニメ『アークナイツ 黎明前奏』第1話場面カット)

◆せりふにはなくとも、演出でそういった気持ちを表現している。

渡邉:そうですね。アーミヤもアーミヤで、ミーシャと対峙したときは暴力を振るってでも解決するんだという本来の役割を個人的な感情に流されてしまい、術を発動する手を降ろしてしまいます。対してフロストノヴァのときは手をあげる。そういう気持ちの変化を構図で表現しました。今回は私が担当したシーンを挙げましたが、他のスタッフの方々も頑張っているので、ぜんぶを見てほしいです(笑)。

◆本作は、Yostar Picturesさんがアニメーション制作を担当されています。おふたりが思うYostar Picturesの強みを教えてください。

:まだまだ新しい会社でいろいろなことをチャレンジできるのがひとつ、あとは『アークナイツ』制作チームに関しては、デジタル作画をメインで取り入れているという点だと思います。デジタルの場合、細かいところまで描けるというメリットがあって。拡大・縮小しながら絵が描けるので細かくいろいろな色を埋め込んでいけたり、グラデーションの色を増やしたりコントロールしやすかったりするんですよね。

渡邉:動きを確認しやすいというのもデジタルのメリットですね。紙でも「クイック・アクション・レコーダー」などで原画の動きをシミュレーションすることができましたが、デジタルなら、ソフトのツールを使えばすぐに動きを確認できます。連続性のある動きをその場で即確認できるのは作画する際に助かりますし、演出担当も複雑なアクションのときなどに書き出したムービー素材があれば、チェックの精度が高まります。やり直しもしやすいので、芝居構成のトライ&エラーはすごくしやすいんじゃないかと。

:それだけこだわれる分、スピードが落ちてしまう可能性も大いにあって。それに、使い方などを覚える必要もあるので、モチベーションがある人でないとなかなかデジタル作画って大変なんですよ。

渡邉:そういう意味では、Yostar Picturesの社内スタッフは、「デジタル作画にしぼります」と言ってもついてきてくれている人たちが残っているのかなと思っています。それが統一感や目指す方向性の一致にも繋がっているのかも。

:ここではデジタルのメリット・デメリットの話をしましたが、そもそも紙とデジタルどちらかが優れているという話でもなくて。表現の仕方が違うというだけで、それぞれに良さがあると私は思っています。ただ、変にデジタルと紙の作業を混ぜるとどちらの良さもなくなってしまう可能性があるので、Yostar Picturesはデジタルの純度を高めて、統一感をもたせることと、クオリティを上げることを目指す選択をしました。それが制作会社としての特色であり、強みでもあるのかなと思っています。

◆今回アニメプロデューサー・監督をやってみて、改めてそれぞれの役割をやっていくうえで大切だと思ったことを教えてください。

:アニメプロデューサーは、いろいろな人にさまざまなお願いをして助けてもらわないといけない仕事です。実際、本作でもいろいろな方に助けていただきました。その上では、人間関係が本当に大事。繋がりを大切にしないと、この仕事はやっていけない気がします。これからもスタッフをはじめ、多くの方との縁を大事にしていきたいですね。

渡邉:監督は、作品としての進む方向の答えを持っておくべきだと思っています。細かいチェック物に関して「分からないから後で確認していいですか?」というのは問題ないと思いますが、作品として何がしたいかという根本的なところの答えを持っていないと、スタッフたちがどうすればいいのか路頭に迷ってしまいます。監督がどういう作品を作りたいのか分かっていなかったら、みんなが困ってしまうんです。大きなところでの答えを誰にでも説明できなければと、本作を通じて痛感しました。これからも監督を担当するときは、ちゃんと「答え」を持って作品づくりに臨もうと思います。

『アークナイツ 冬隠帰路』第16話場面カット

作品情報

『アークナイツ』TVアニメシリーズ
DMM TVをはじめ、U-NEXT、Leminoなど各種配信サービスで全16話配信中
アークナイツ 黎明前奏
https://tv.dmm.com/vod/?season=6ke0exxw4j2hxi0dc145j9oeq
アークナイツ 冬隠帰路
https://tv.dmm.com/vod/?season=3618tfsticat7dkxamnh4a0cz

アークナイツ【黎明前奏/PRELUDE TO DAWN】
【キャスト】
ドクター:甲斐田ゆき
アーミヤ:黒沢ともよ
ドーベルマン:種﨑敦美
Ace:松山鷹志
ニアール:佐倉綾音
チェン:石上静香
ウェイ・イェンウ:山寺宏一
ホシグマ:安野希世乃
フランカ:加隈亜衣
リスカム:石川由依
エクシア:石見舞菜香
テキサス:田所あずさ
メテオリーテ:種田梨沙
ケルシー:日笠陽子
Medic:麻倉もも
Guard:小林千晃
タルラ:坂本真綾
クラウンスレイヤー:千本木彩花
メフィスト:天﨑滉平
ファウスト:堀江瞬
W:竹達彩奈
ミーシャ:松田颯水
スカルシュレッダー:松田利冴

【STAFF】
原作:Hypergryph / Studio Montagne
キャラクター原案:唯@w
監督:渡邉 祐記
副監督:西川 将貴
シリーズ構成:Yostar Pictures
アニメキャラクターデザイン:高藤 彩
プロップデザイン:若山 温
美術監督:大西 穣(ビック・スタジオ)
美術設定:坂本 竜(ビック・スタジオ)
色彩設計:後藤 恵子
撮影監督:棚田 耕平
編集:重村 建吾
音響監督:渡邉 祐記
音楽:林 ゆうき
音楽制作:レジェンドア
アニメーションプロデューサー:畑 岳央
アニメーション制作:Yostar Pictures
製作:Hypergryph Studio Montagne/ Yostar/ Yostar Pictures

・アークナイツ【冬隠帰路/PERISH IN FROST】
【キャスト】
ドクター:甲斐田ゆき
アーミヤ:黒沢ともよ
ケルシー:日笠陽子
フロストリーフ:加隈亜衣
ジェシカ:広橋涼
メテオリーテ:種田梨沙
ブレイズ:中原麻衣
グレースロート:福圓美里
レッド:小清水亜美
チェン:石上静香
スワイヤー:徳井青空
ホシグマ:安野希世乃
ウェイ:山寺宏一
フミヅキ:日髙のり子
リン:伊藤かな恵
タルラ:坂本真綾
メフィスト:天﨑滉平
ファウスト:堀江瞬
クラウンスレイヤー:千本木彩花
W:竹達彩奈
フロストノヴァ:高垣彩陽
パトリオット:銀河万丈
ナイン:庄司宇芽香

【STAFF】
原作:Hypergryph / Studio Montagne
キャラクター原案:唯@w
監督:渡邉祐記
シリーズ構成:Yostar Pictures
アニメーションプロデューサー:畑 岳央
アニメキャラクターデザイン:高藤 彩
音響監督:渡邉祐記
音楽:林 ゆうき
アニメーション制作:Yostar Pictures

公式サイト:https://arknights-anime.jp/

●text/M.TOKU

(C)2017 HYPERGRYPH. All rights reserved.

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