お笑いコンビ・トンツカタンの森本晋太郎さんがTV LIFEで連載中のコラム「トンツカタン・森本晋太郎のネクストブレイク紀行」。「今年売れる」と言われ続ける中での出来事や本音が綴られた“飛躍を夢見る芸人の備忘録”をwebでも公開します。今回は、後輩のライブでタイマンをした話。(TVLIFE 2024年10月2日発売号より転載)
最近は後輩に振り回されてばかり
先日、9番街レトロのなかむらから「今度の主催ライブでタイマンなかむらをやりたいのですがどうでしょうか?」というLINEが届いた。ついにその時が来たか、というのが僕の率直な感想だった。というのも、僕がやっているYouTubeチャンネル『タイマン森本』になかむらが出てくれた時に「いつか僕がツッコミで森本さんがボケる『タイマンなかむら』をやらせてください!」と熱望していたからである。たまにノリでそういうことを言う芸人はいるのだが、彼だけが「場所って同じところ使えますか?」や「編集はこちらでやらせていただきます!」など、実現に向けてゆっくりと動き出していた。
そんな中、ちょうど良いタイミングで9番街レトロがここ数年9月9日に主催しているライブがあり、そこでオファーをいただいたというわけだ。ツッコミとしてならまだしも、ひたすらボケまくるという役割をなんの編集も施すことのできない場でできるのか。今までの経験上、かなり厳しい気がする。でもかわいい後輩のお願いを断るわけにはいかない。
「ぜ、全然いいよぉ…」
快くオファーを受けさせていただいた。そこから暇を見つけてはボケを考える生活が始まった。普段はネタ作りで相方のボケを考えることはあっても自分用のボケを改めて考えることがほとんどなかったのでとても新鮮な作業だった。
そうして迎えた本番当日。僕は家にある一番大きな白いトートバッグを肩にかけて会場入りした。本家のタイマンでも大荷物を持ってくる人がいて、いつもは「たくさん考えてきてくれてありがとう」と思っていたが、それ以上に荷物量とタイマンへの不安は比例するということがわかった。荷物の重みが安心と直結するのだ。逆に手ぶらで来る人たちのメンタル化け物すぎる。どちらにも改めて最大限のリスペクトを送りたい。
そんなわけで始まった『タイマンなかむら』。この日のために仕込んだ数々のボケでなかむらのツッコミを引き出そうとするものの、楽しくなったのか全くツッコまずにどんどんボケを重ねてくるのでそれに僕がツッコむと「今日はツッコんじゃダメですよ!」と注意されるというのが頻発した。周り回って自分のボケにツッコんでいるような感覚で小っ恥ずかしかった。
途中で用意したボケを出し切ってしまい、「もうボケたくない!性に合わない!!」とただのクレーマーと化す瞬間もあったものの、なんとか終了のブザーが鳴るまで逃げ出さずにいられた。あの音が鳴ると芸人たちが安堵の表情を見せる意味がわかった。あれは救いの音色だ。
こうして初めてゲスト側のタイマンをライブで経験することによって、またひとつ芸人として成長できた気がする。ボケとツッコミの両方を経た今、より良いタイマンをみなさんにお届けできるに違いない。そんな崇高な想いを胸に臨んだ数日後のタイマン収録で、気付けば僕は青木マッチョに体をぶんぶん振り回されていた。秘めた想いとか、遠心力で全部どっか飛んでった。
森本晋太郎
●もりもと・しんたろう…1990年1月9日生まれ、東京都出身。お笑いトリオ「トンツカタン」のツッコミ担当。プロダクション人力舎のお笑い養成所・スクールJCA21期を経て、現在はテレビやラジオで活躍中。趣味でもあるツッコミに特化したYouTubeチャンネル「タイマン森本」も好評。