2019年に放送され好評を博した、木村拓哉主演の日曜劇場『グランメゾン東京』。その5年ぶりとなる完全新作スペシャルドラマ『グランメゾン東京』が12月29日(日)に放送(TBS系 午後9時~11時05分)。翌12月30日(土)にはフレンチの本場パリを舞台にした映画「グランメゾン・パリ」が公開を迎える。
作中では、自分の腕に絶対的な自信を持ち、料理のためならどんな犠牲もいとわない型破りなフランス料理のシェフ・尾花夏樹を演じている木村さん。5年ぶりとなる『グランメゾン東京』の撮影に臨むにあたり意識したことや、撮影エピソードを語ってくれました。
◆今回のスペシャルドラマと映画化のお話を聞いたときの感想は?
非常にうれしかったですし、新型コロナウイルスによるパンデミックさえなければ、もっと早いタイミングで会うこともできたのかなと思いました。と同時に、このタイミングでもう一度作品を立ち上げるならば、実在したあの時間をなかったことにしてはいけないのではないかなと。(新型コロナの自粛ムードで)飲食業界が苦しかった中で踏ん張られた方もいれば、お店を閉じて別の選択をせざるを得なかった方たちもいらっしゃるでしょうし。そういう方たちに対して、フィクションという世界だからといってすっ飛ばして描くのは違うと思ったんです。プロデューサーの伊與田(英徳)さんともそういう話をさせていただいて、今回のスペシャルドラマの脚本がああいう形になったというところがあります。
◆新型コロナウイルスの影響により、飲食業界は大打撃を受けました。今回のスペシャルドラマ『グランメゾン東京』は、それを受けてのストーリーとなっています。
サービス業としては、料理を作ってお客様に食べていただくことで成立しているわけですけれども、そこには“お客様に喜んでいただく”“すてきな時間を過ごしていただく”ことも含まれているわけで。それって究極のコミュニケーションであり、(現実社会で)そういう関係性が作れなかったことは大きな出来事だったと思うんです。
もちろんドラマとしてはフィクションですから、何事もなかったようにまたみんなが顔を合わせても構わないと思うんです。どこぞのご家族のお話や、どこぞの警察学校の話であれば(笑)。ただ、この作品は飲食業界の物語ですし、そこを避けて通るのは何か違うんじゃないかなと。登場人物たちがあの時間をどう過ごしていたかを描くことは、必要なことだと思ったんです。
◆脚本を読んで、5年ぶりの尾花の姿にどんなことを感じましたか?
尾花というキャラクターは相変わらずコミュニケーション能力が高い方ではないので、脚本を読んでいて“またそっちを通っていくんだ”“でも、そっちを通っていくから面白いのか”という部分はありました。一方で倫子さん(鈴木京香)の姿からは、彼女なりにコロナ禍を過ごしてお店を守ろうとしたんだけど、だからこそ失ったものもあるんだなと受け取れましたね。現実と同じように5年弱の時間が経過していて、登場人物たちもそれぞれの5年間をしっかり生きてきたんだろうなと感じました。
◆共演者の皆さんと再会したとき、どんなことを感じましたか?
現場でお会いしたときに過ぎた時間の隙間みたいなものは一切感じなかったです。自分が尾花という役を取り戻す、取り戻さないというより、皆さんがその役の人たちとして衣装を着てそのシチュエーションにいてくれるだけで、それぞれのスイッチが同時に入ったような感覚でやらせていただきました。またそこに窪田(正孝)さんや北村(一輝)さんが、お料理に比喩して言わせていただくと、“新たな素材”として加わってくれて。提供の仕方が変わったような気がして、ありがたかったです。
◆ご自身で実際に調理されているからこそのエピソードはありますか?
フランスでの撮影のときに街のビストロの台所をお借りして、倫子さんに手長エビのエチュベ(蒸し煮)を出したことがあったんです。撮影しているうちに日が沈んできて、光の入り方の関係でカメラの角度を変えたりしてだんだん時間がたっていって。でも自分としては冷えたエチュベを食べてほしくないから、結果9皿ぐらい作ったんですけど。そんな中で「すっごくおいしい。何で私にはこれが作れないんだろう」って涙を流す倫子さんを目の当たりにしたとき、まさに作品へのスイッチが入った瞬間でした。そうやって自分で作った料理を召し上がってもらうからこそ、その方が口にする=その方の一部分を担う責任や喜びがあるし、食べてくださった方の五感に届く瞬間みたいなものはあるのかもしれないです。
◆ほかにも料理にまつわるエピソードはありますか?
パリでロケをさせていただいてるとき、撮影が終わった後でお食事を共にしたときの会話も面白かったです。京ちゃん(鈴木)が「やっぱりうちのお店で出すカトラリーとしては」みたいなことを言い始めて、最後に「どう思われます、木村さん?」って。“うちの店で出すカトラリー”と言いながら、僕に話を振ってくるときは「木村さん」になるんだ、と(笑)。フィクションだからカットがかかったら終わりの世界のはずなのに、その後も役との感覚や意識が共存しているというか。それは面白いなと思ったところですね。
◆連続ドラマとスペシャルドラマで監修をされている、「カンテサンス」の岸田周三シェフから受けた影響はありますか?
岸田シェフに関しては、そもそも『グランメゾン東京』というお話を作らせていただくときにものすごく大きな太い柱になっていただきました。今となっては僕自身、ちょっと変な感覚があるんですね。それこそ、先日の「ミシュランガイドセレモニー東京2025」発表セレモニーで三つ星レストランに選ばれた方たちを発表させていただいたときに、岸田シェフも三つ星を取得されていて。壇上に上がって来る姿を見ていたら、もちろん“「カンテサンス」の岸田シェフ”なんだけど、“『グランメゾン東京』のスタッフ”が三つ星を取ったみたいな感覚もあって。どちらも共存している感じが、ちょっと不思議ではありました。
◆今回、尾花の髪を金髪にしたのは、どういうイメージからですか?
パリに行った尾花がどう過ごしてるのかを考えたとき、日本にいたときのままではないだろうなと考えたんです。きっといろんな国に行って、“こんなのあるんだ”ってその土地の料理を口にしていて。ベースはパリに置きつつ、相沢(及川光博)とたまにコンタクトを取るぐらいの状況だったと思うんです。
そんなことが頭にある中で、僕が普段からお世話になっているヘアサロンに行ったときに「また『グランメゾン東京』をやるんだ」と話をしたら、スタッフの方が「マジっすか、超うれしいです」って喜んでくれて。「どうしようかなと思ってる」と言ったら、「思い切って全頭ブリーチ行っちゃいましょうか」って提案されて。それはさすがに…と、すぐ監督の塚原(あゆ子)さんに連絡したんですけど、「見てみないと分からないです」と言われて。でも、とりあえずやってもらったんです。その状態で衣装合わせに行ったら、スタッフのみんなが微妙な顔をしていて…。「完全に不評じゃん」って思っていたんですけど、その中の何人かが見せてくれたのが、映画「グランメゾン・パリ」で料理監修をしてもらうことになっていた「レストランKEI」の小林圭シェフの写真でした。みんな、「待って、この人金髪なの!?」って(笑)。小林シェフの存在を知ってはいたけど、ビジュアルは(詳しく)知らなかったんですよ。
◆何かがシンクロしたのでしょうか?
何なのか分からないけど、「うわ、かぶった!」とは正直思いました(笑)。ご本人と会ったときも非常に照れたし、お互いの髪を一瞬見ましたね。ただ、尾花がパリで過ごす上で取った選択として、ないこともないのかなって。海外に行くと毎回感じるんですけど、ファッションや外見の選択が日本と違うんですよね。日本だと“今こういうのがかわいいよね”“こういうのが来てるよね”って感じでファッションやヘアスタイルなんかをチョイスする風潮があると思うんですけど、パリの人たちは“これが好き”“これを羽織ってるのが一番心地いい”って選び方をしている気がして。その中で尾花がどういう選択をしたのかを考えたとき、そういうことで選んだのがこの髪なのかなと。
◆今回のスペシャルドラマや映画では若手シェフたちの成長も描かれていますが、木村さん自身が後輩の方たちから成長を感じ、影響を受けたことはありますか?
みんな素晴らしい努力をし、行動に移してるとは思うんです。でも、そういう方たちの姿を見て、自分が何かするということはないかもしれません。自分に対してちょっと特別な感情、それこそ「ご一緒できてうれしいです」みたいなテンションをいただくことで、その「うれしいです、光栄です」の上に行きたいという気持ちはありますけど。(共演が)終わった後に、“コイツ結構つまんねぇわ”って思われたら最悪ですから。それが影響と言えば影響なのかな。
◆では『グランメゾン東京』という作品から、ご自身が受けている影響はありますか?
料理に対してそこまで興味や熱量のない方たちからすると、ミシュランガイドで三つ星を取ることの価値や選ばれることの名誉や責任なんて、他人事だと思うんです。自分も『グランメゾン東京』をやらせてもらうまでは、“「ミシュラン」ってタイヤですよね”って解釈でしたから(笑)。でも尾花を通して、他の共演者やスタッフと共にちょっと特別な価値観や世界観を煮詰めていく過程は楽しかったし、料理というものに対して高い熱量とモチベーションを持ち、ものすごいストレスと向き合いながらも取り組んでいる方たちの存在も知っていきました。その中で、「ミシュラン」というものの響きも変わってきて。ある意味、食べる前の「いただきます」に対する思いもちょっと変わったかもしれません。添え物の野菜から何から何まで“全ての命をいただいてる”っていう。一つの作品としても非常に面白く価値のあるものでしたし、共演者やスタッフも含め、僕にとっての宝物の一つになった気がします。
PROFILE
●きむら・たくや…1972年11月13日生まれ。東京都出身。O型。近作に『教場』シリーズ、『未来への10カウント』『Believe-君にかける橋-』、映画「レジェンド&バタフライ」など。
番組情報
スペシャルドラマ『グランメゾン東京』
TBS系
2024年12月29日(日)午後9時~11時05分
脚本:黒岩勉 プロデュース:伊與田英徳、松本桂子 演出:塚原あゆ子
出演:木村拓哉、鈴木京香、玉森裕太(Kis-My-Ft2)、寛一郎、朝倉あき、吉谷彩子、窪田正孝、北村一輝○尾上菊之助、冨永愛○中村アン、及川光博、沢村一樹 ほか
作品情報
映画「グランメゾン・パリ」
2024年12月30日(月)公開
監督:塚原あゆ子 脚本:黒岩勉
出演:木村拓哉、鈴木京香、オク・テギョン、正門良規、
玉森裕太、寛一郎、吉谷彩子・中村アン、冨永愛、及川光博、沢村一樹ほか
グランメゾンプロジェクト公式サイト:https://grandmaison-project.jp/
番組公式サイト:https://www.tbs.co.jp/grandmaisontokyo/
番組公式X:@gurame_tbs
番組公式Instagram:gurame_tbs
公式TikTok:@gurame_tbs
●text/小山智久