お笑いコンビ・トンツカタンの森本晋太郎さんがTV LIFEで連載中のコラム「トンツカタン・森本晋太郎のネクストブレイク紀行」。「今年売れる」と言われ続ける中での出来事や本音が綴られた“飛躍を夢見る芸人の備忘録”をwebでも公開します。今回は、ジェラードンのかみちぃさん扮する如月マロンちゃん主催のフェスの話。(TVLIFE 2024年12月25日発売号より転載)
パーティーの序章も終わりが近そうですよ
如月マロンというアイドルをご存知だろうか。ジェラードンさんによる名作コント『握手会』でかみちぃさんが扮するキャラクターで、「永遠の15歳、でも本当は35歳」という最速で白状する自己紹介でもおなじみだ。
そんなマロンちゃんが主催するフェスが先日渋谷のライブハウスで行われ、光栄なことにそのMCとして出演させていただいた。高揚感あふれるオープニングVTRが流れ、マロンちゃんの曲と共にステージが様々な色のライトに照らされる中、なぜか僕ひとりだけが登場するというとんだ肩透かしスタート。にも関わらず、これでもかというくらいスタンディングで超満員の客席からは「森本もかわいいよー!」「100回ツッコんでー!」などの暖かい声援が飛んできた。
その後、今日の主役であるマロンちゃんを呼び込むと絶叫に近い歓声が会場中に響き渡った。そのあまりの熱量に驚いて如月マロンがジェラードンかみちぃに戻りかけていた瞬間もあったが、なんとか持ち堪えていた。
その日はかが屋の加賀が出演者兼カメラマンとして参加しており、ステージの下で写真を撮ってくれていた。みんながマロンちゃんに夢中だったため、念のため「実はここにカメラマンの加賀がいます」と紹介するとまたしても大歓声が。それに応えようとした加賀はそのままステージによじのぼり、天高くカメラを掲げて「俺に任せろー!!」と叫んだ。あんたそんなこと言うタイプじゃないだろ。
オープニングからフルスロットルの盛り上がりを見せたマロンフェスはその後もゲストの芸人やアーティストによる素晴らしいパフォーマンスでボルテージが最高潮のままトリのマロンちゃんにバトンが渡った。客席の迫力に狼狽えていた頃がウソのように、完璧なアイドルを演じる如月マロンがそこにはいた。舞台袖の芸人たちもいつしかソロアイドルを見守る表情に変わっていて、コントの枠から飛び立っていく瞬間を目の当たりにした。
最後の曲が始まる前にマロンちゃんがその日の出演者をステージに上げて大団円を迎えようとしたとき、2階席から聞き馴染みのある声が。
「ちょっと待ったー!」
アタック西本さん扮する如月マロンの大ファン、ごろうさんだ。『手術を抜け出してやってきた』という設定のため包帯と血のりでボロボロではあったものの、遅れて現れた二人目の主役にその日一番と言っていいほどの大歓声が鳴り響いた。
その勢いでステージに上がったごろうさんはそのあまりのスター扱いに動揺したのか、自らの角刈りについた汗を客席に飛ばすという奇行を始めた。黄色い声援が絶叫へと変わっていく中、より遠くへ汗を振りまこうと前に移動したごろうさんが、あろうことか足を踏み外してステージから落下してしまったのである。場合によっては大怪我もありえる高さだったので静まり返る会場。次の瞬間、急いで立ち上がったごろうさんが
「無傷です!無傷です!」
と、血のりまみれの姿で叫んだ。結果、本当に無傷だったらしいがややこしい見た目なので全く信用されてなかった。しかもあまりの焦りに普通にアタック西本として喋っていたことに気付いたのか、最後の最後で
「無傷ですよぉ~ぅ!!」
とごろうさんに戻っていた。なにもかも手遅れだった。しかしそんなノイズをものともせず、マロンちゃんは最後の曲も見事なクオリティで披露してフェスは終演した。
今回のイベントは、如月マロンの底知れない魅力とお客さんのとてつもない熱量によってお笑いの枠組みを飛び越えたような気がした。僕たちに知らない景色を見せてくれてありがとう、マロンちゃん。
ごろうさんは飛び越えられずに落ちたけど。ってしまうのだけど。
森本晋太郎
●もりもと・しんたろう…1990年1月9日生まれ、東京都出身。お笑いトリオ「トンツカタン」のツッコミ担当。プロダクション人力舎のお笑い養成所・スクールJCA21期を経て、現在はテレビやラジオで活躍中。趣味でもあるツッコミに特化したYouTubeチャンネル「タイマン森本」も好評。