脚本・詩森ろばが『御上先生』に込めた思いを語る「人間は変われるし、価値観を刷新していけると感じてもらえれば」

特集・インタビュー
2025年02月23日
『御上先生』©TBS

松坂桃李演じる文部科学省のエリート官僚・御上が、県有数の進学校である隣徳学院に教師として赴任し、生徒たちと共に日本教育界の腐敗に立ち向かっていく日曜劇場『御上先生』(TBS系 毎週日曜 午後9時~9時54分)。官僚という視点から冷静に物事を捉え、理路整然とした語り口とともに生徒自ら「考えさせる」ことで問題と向き合わせるという、新たな教師像を描いている。

そんな本作の脚本を務めているのが、長らく舞台を中心に活躍してきた詩森ろばさん。近年映像作品へも進出しており、2019年の映画「新聞記者」では、日本アカデミー賞優秀脚本賞を受賞した。綿密な取材を行うことで知られ、社会派の作品を手掛けることも多い詩森さんが自身初のゴールデン帯連続ドラマ脚本作となる『御上先生』に込めた思いとは何か。物語後半の見どころとともに語ってくれました。

◆日曜劇場はもとより、民放連続ドラマ初脚本となります。

自分にドラマを書く可能性ができた頃からよくドラマを見るようになり、連続ドラマというジャンルは大変なものだなと感じていたんです。その中でも規模感の大きい日曜劇場をいきなり任されるというのはプレッシャーでしたが、同時に光栄なことだとも思いました。民放のドラマはいろんな制約もあるというイメージでしたが、テーマや骨子に関しては制限されないまま、自由に書かせていただけて。書きたいものを書けない“壁”みたいなものって、世の中の印象から勝手に作られてるものかもしれないと思いました。

◆実際、どのような流れで脚本を書き進めていったんですか?

最初は飯田(和孝)プロデューサーから、「学園ものを作りたい」と言われたんです。飯田プロデューサーは教員免許を持ってらして、テレビ局に入ったのも、社会経験を積んでから教師になりたいからだとお聞きして。そういう方に任されるわけだから、いいものにしないといけないと思いました。

当初は今まで自分でも見て来たような、オーソドックスな学園ものをイメージしていたんです。私は取材がベースなので、まずは教員関係の方や官僚の方に話を聞き、学校や教育に関する書籍を読んでみると、自分が想像していた以上に教育や学習の方法論が新しくなっていた。生徒が能動的に学習していくアクティブラーニングのような教育もあるし、もっと早く知りたかったということがたくさんありました。そして素晴らしいなと感じる教育者の方は皆さん、生徒に考えさせるというスタンスを持ってらっしゃいました。なので、そういう教師像を描きたいと考えるようになりました。

『御上先生』©TBS

◆官僚が教師として派遣されるという形は、どういったところからの着想ですか?

もともと文科省の官僚が学校や教育委員会に派遣されていることは知っていました。官僚で教師はアリかもしれないな、と思ったのは直感みたいなものですが、学園ものに別のファクターが入り、学校というミクロな世界をマクロの視点から見せることもできるのではないかなと。飯田プロデューサーも賛同してくれて、プロットに取り掛かった感じです。

◆「官僚」というと世間一般的にはあまり良くないことをしているようなイメージもありますが、実際に取材して感じたことは?

どの方も一生懸命、自分の仕事に取り組まれているんです。実はコロナウイルスがまん延していた頃、演劇の存続のために慣れない政府の交渉をしました。文化関係の官僚の方は力になってくれようとしていましたし、実際尽力してくれました。ただ、文化行政が日本では弱い。システムが整備されていないことでうまく行かないことがあったり、大変なこともたくさんあるんだなと。「新聞記者」でも官僚のことを描いたんですが、そのときは時間の問題でそんなに取材ができなかった。なので、描き切れなかったという思いがあり、あの後も個人的に官僚の現状を知る勉強はしていたんです。それが今回、『御上先生』で役に立ちました。

◆松坂さんは「新聞記者」でも若手官僚の杉原を演じられていました。今回の御上も官僚ということで、キャラクターとして重なる部分もあるんでしょうか?

同じ官僚でも2人は違うキャラクターですし、その点はあまり意識しませんでした。ただ杉原は結局システムにすりつぶされてしまった人なので、御上はそうならないようにしたいなという願いはあります。松坂さんは、本読みの第一声から既に御上になられていて。インタビューで御上のことを「愛の人」とおっしゃっていたことには感動しました。御上のクールな物言いの中から私が一番込めたかったことを読み取っていただけていることがうれしかったし、信頼を寄せています。

◆御上先生のキャラクター作りでこだわった点は?

ちょうど『アンチヒーロー』を放送していた頃だったこともあり、飯田プロデューサーは、このドラマもダークなヒーローがいいとおっしゃっていたんです。ただ、私の資質的にダークヒーローはうまく書けなくて(笑)。結果として、ニュータイプの教師になったかなと思っています。私の基本的な考えとして、ドラマで職業を書く以上、その職業を尊敬して書くべきだと思っているんです。特に教師は人間の形成に関わるという他の仕事にはない役割がありますよね。それにふさわしい人物であるように、私なりにですが、造形したつもりです。

『御上先生』©TBS

◆生徒役のオーディションにも参加されたとお伺いしましたが、どのような点に注目されていたんですか?

私は選考には関与していなくて、ただ立ち会っただけというのが正確なところです。配役が決まったとき、どんな人なのか知っておきたくて。知りたがりの性分なんです。実際立ち会うとテンションが上がって、「あの俳優すてきですね!」とか出過ぎたことも言ってしまいましたが(笑)。なので、今回出演される方たちの出演している作品もできるだけ拝見しました。特に生徒役のキャストさんたちの可能性は未知数なので、実際に見ておきたかったというのがありました。キャスティングを聞いたときには「その役はその人なんだ」と意外だった配役もありました。でも、いざ衣装を着て教室に座っている姿を見ると、この人しかいなかったなと思わされて。プロデューサー陣のキャスティングはすごいと思いました。

◆生徒たちのキャラクターを作る上で大変だったことは?

一番は名前です(笑)。29人もいるので、どんなに気をつけても漢字や音がかぶるんです。本当はあだ名で呼び合ったりもすると思うんですが、視聴者の方に覚えてもらいやすいよう、苗字で統一しました。固有名詞はいつも本当に大変で、「隣徳学院」という学校名も紆余曲折あって。孔子の言葉を元にしているんですが、ようやく決まったときは学園の姿がきちんと立体化した感じで、書くモチベーションが上がりました。

◆各キャラクターの動かし方で意識したことはありますか?

普段から群像劇を書くことが多いし、演出も手掛けることがあるので、同時にいろんな人を動かして行くという点は意識しなくてもできる感じです。ただ、人数はケタ違いに多いので、人物評を貼って、常にそれを見るようにしていました。

◆何か書く上で気を付けたことはありますか?

演劇は書き手の文体が出過ぎてしまう傾向があるので、映像である今回はあまりそこは出ないように心掛けました。あとは、このドラマは時系列として長いし、ミステリー要素もあるので、何をどの段階で開示したらいいか整理するのに苦労しました。何かが明らかになったとき、視聴者が納得できるものでないといけないですし。そういう部分は時間をかけたところです。

『御上先生』©TBS

◆見る人の心に刺さるワードも多いですが、どのようなことを意識してせりふを構築されているのですか?

せりふに関してはもともと意気込んでこれをぶつけようというタイプではなく、せりふが浮かんだらメモをとるみたいなこともないんです。そのシーンで何をやるかだけをざっくり決めて、あとは人間同士を向き合わせれば、何かしら言葉が出て来るものだと思っています。なのでキャラクターが、私も思ってもいなかったようなことを言い出すこともあります。もし刺さる言葉があるのだとしたら、いろいろなところで取材をして、たくさんの刺さる言葉をもらって、考えてきた。その積み重ねの中から出てきているのかな、と思います。

◆「パーソナル・イズ・ポリティカル」もそうやって生まれた感じですか?

御上の兄である宏太(新原泰佑)は人権意識の高い人なので、この人だったらこういうことを言いそうだなと、何げなく書いたんです。そしたら飯田プロデューサーたちが気に入ってくれて、その後も使っていくことになって。もともとはフェミニズムや学生運動から出て来た言葉で、私自身はセクシャル・マイノリティの方の取材でこの言葉を知って大切にしてきたんですけど、ここまで見てくださってる人たちに響く言葉になるとは思ってませんでした。それだけ今の社会にとって必要な視点、必要な言葉だったんだろうし、それをシェアできてよかったと思います。

◆最後に、2月23日(日)に放送される6話の見どころをお願いします。

御上自身、20年以上前に亡くなった宏太のために教育改革したいという思いはあったけど、どこかで彼のことはもう解決してきた問題だとも思っていたんです。生徒と関わり合う中、改めてそこと向き合う必要が出て来て、6話では御上の人間らしさが見える回になっていると思います。生徒との関係もまた深くなります。

前半はディスカッションドラマとしてロジカルな部分が際立っていたと思うんですけれども、後半からは個人や関係性の話になって、生徒を取り巻く大人たちの変化や内面、抱えている思いも怒濤のようにあふれ出て来ます。全員が変わらないと乗り越えられないことが描かれていきますので、そんな彼らの姿を見て人間は変化していけるし、価値観を刷新していけるんだと感じていただけたらうれしいです。

『御上先生』©TBS

番組情報

日曜劇場『御上先生』
TBS系
毎週日曜 午後9時~9時54分

<出演者>
松坂桃李、吉岡里帆/岡田将生/迫田孝也、臼田あさ美/及川光博/常盤貴子/北村一輝 ほか

■隣徳学院3年2組
奥平大兼、蒔田彩珠、窪塚愛流、吉柳咲良、豊田裕大、上坂樹里、髙石あかり、八村倫太郎、山下幸輝、夏生大湖、影山優佳、永瀬莉子、森愁斗、安斉星来、矢吹奈子、今井柊斗、真弓孟之、西本まりん、花岡すみれ、野内まる、山田健人、渡辺色、青山凌大、藤本一輝、唐木俊輔、大塚萌香、鈴川紗由、芹澤雛梨、白倉碧空

<スタッフ>
製作著作:TBS
脚本:詩森ろば
プロデューサー:飯田和孝、中西真央、中澤美波
演出:宮崎陽平、嶋田広野、小牧桜
音楽:鷺巣詩郎
脚本協力:畠山隼一、岡田真理
教育監修:西岡壱誠
学校教育監修:工藤勇一

©TBS

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