2時間出ずっぱりの役者たちと、少しの手持ちの小道具だけで、セットすらない舞台の上に「その時代の若者たちがどう生きて死んだか」という背景と死生観をエネルギッシュに描き出し、観客に突きつける劇団BSP(=ブルーシャトルプロデュース)。尋常じゃない稽古量が生み出すチームワークに裏打ちされた激しい殺陣とダンスでリピーター続出の注目劇団を代表し、『仮面ライダー鎧武』やミュージカル『薄桜鬼』で知名度を上げた松田岳さん、ミュージカル「忍たま乱太郎」シリーズで人気上昇中の鐘ヶ江洸さんが登場。幕末&維新という日本の転換点をダイナミックに描いた最新作「龍の羅針盤」二連作についてうかがいました!
洸はBSPにいてBSPにいない、風のような人(松田)
岳は文字通り山みたいにどっしりしてる(鐘ヶ江)
◆最初に、お互いのことを読者の方々に紹介し合っていただけますか?
鐘ヶ江:あ、じゃあ僕から…岳は同い年だけど、いつも山みたいにどっしり構えているかっこいい人。流されない、ぶれない。カンパニーの中心に山としてそびえ立っている。だから尊敬してるし憧れてるけど、しゃべると思いの外フワフワしてるからあんまりしゃべんないほうがいいとは思う(笑)。
松田:僕は洸のことをBSP最初の公演「ゼロ」から知ってて、直接的な絡みは少なくてもお互い失敗したり怒られたりしてる姿を全部見てきてるから、いてくれるだけですごい心強いです。これから役者として生きる上で、鐘ヶ江洸を見ていきたいと思います。
鐘ヶ江:何かこれ聞くのすごく照れるやつですね!?
松田:(笑)。洸はBSPにいて、BSPにいないみたいな人なんですよ。BSP以外での活動もそうだし、自分でプライベート使って積極的に海外に行ってエンターテインメントを吸収しようとするのも。そういうところがすごく好きです。
鐘ヶ江:最近ね。外に行ったほうが内側の良さが分かるって気づいて最近世界が好きになりました。
松田:そういう躍動するエンジンみたいなものは、BSPの中で彼だけの個性だと思う。
鐘ヶ江:ていうか岳は、俺がやってる芝居のワンシーンの真似をする率が高いよね。しかも絶対バカにしてるの。
松田:それはありますね。やっぱりイジりやすいですよ、孤高の戦士感があるだけ、逆にイジりやすいです。
鐘ヶ江:岳が内を張ってるから、僕は外に行ける。山で、風みたいな。でもそういう個性なんですよね、俺も岳に憧れるけど風って言われたほうがうれしいもん。
松田:俺も風って言われたほうがうれしい…。
鐘ヶ江:この流れで何でやねん!(笑) ま、岳も内面いろいろあるのかもしれないけど、それを絶対表に出さないし…言うときは爆発してるときだね。
松田:うん、噴火してるとき(笑)。
◆外の現場でお見かけする松田さんは、わりとかわいがられる後輩感もありますが…。
松田:あ、でもそれは兄弟の中で末っ子なんで、僕。
◆…え、末っ子でしたっけ?
松田:末っ子です(素)。
◆そうですか…???
松田:…???
スタッフ:(しばしの沈黙を見かねて)……あの、四兄弟の三番目です。
◆ですよね!? びっくりしました。
鐘ヶ江:俺も! だって弟(劇団ひまわり所属)も一度BSPの舞台で共演したよね? これツッコんだほうがいいのかな、何待ちなんや!? ってドキドキして変な空気なったわ。
松田:言いたかったのは「弟と歳が離れてて、幼少期は末っ子の期間が長かったから、末っ子気質なんです」っていう…。
鐘ヶ江:……こういうところがほんとバカなんです。たまに「え!?」みたいなことをガチで言う。「絶対そこ間違えへんやろ!」ってとこ間違える。
松田:「僕、末っ子なんです」。……ホンマやな!(笑)
鐘ヶ江:縮めて言ったんやな…普段しっかりしてるのにそれやから、なおさら人に好かれるんですよ。
“しんどい”“キツい”が僕らの原点であり心の拠り所です(松田)
◆そんなお2人の所属するBSPですが、公演を拝見すると、練られたシナリオとすさまじい熱量、景色すら役者だけで表現してしまうようなプリミティブな情熱に毎回圧倒されます。あらためてその魅力を教えてください。
松田:僕たちは稽古期間が異常に長くて、ひとつの公演につき毎回3ヶ月くらい全力で重ねるんです。一度では目で追い切れないほど濃密な熱量はBSPにしか出せない独特の魅力かな…と思います。
鐘ヶ江:セットがないのも稽古量も、演劇の原点というやつですね(笑)。といっても、ただ当たり前のことを、アホみたいに直球で突き詰めてるだけなんですよ。当たり前だから本当は別にすごくないんだけど、ダンスも殺陣もみんなさすがにそこまでやらないから相対的にすごいって言われちゃう感じ。それが僕らBSPの色、個性かなって思います。
松田:何か…その、稽古が「しんどい」っていうのが僕たちの原点という面もあって。
鐘ヶ江:うん、本当に「稽古がキツい」ってことそのものが僕らの核、心臓だよね。
松田:BSP最初の公演「ゼロ」のとき、僕たちはまだ何もできず役者としての実績もほとんどないまま、ただ「このユニットで頑張るぞ!」という気合だけでスタートしたので、何か…休めない。稽古でできることはまだまだあるし、慣れたらだめだからもっと難しいことに挑戦して自分を追い詰めようってすぐ…演出の大塚(雅史)さんもそういう人だし、振り付けの(柿谷)結衣先生も、稽古中も本番中も僕たちに休む暇を与えない(笑)。
鐘ヶ江:あの運動量、本当だったら本番の公演数だけで死ぬよね。
松田:うん、死んじゃうと思う…。
鐘ヶ江:2時間動きっぱなしが多いから、何か最後のほう自分でも役でもないときがない? ちょっと超えちゃっているというか。
松田:そう、それがいいのか悪いのか分からないけど、何か、自分が動かしてるのか周りに動かされてるのか分からないときがある。
鐘ヶ江:で、そのくせ緻密なんですよ位置取りとかが。舞台上に碁盤みたく細かいマス目を引いて覚えるんですけど、それさえ1マスじゃなくて「半間の半分」とか。だから1人が0.25マス場所ズレするだけで事故が起こる。タイミングも同じで、噛んだとかそういう分かりやすいミスじゃなくて、1秒以下の間の違いで全体が狂い始める。全キャストに影響していく。あの瞬間の怖さってないよね。
松田:うん…だからBSPにしかないなって思うのはそこかも。そのくらいの間のズレで「ごめん俺最後ミスした!」って公演後に大泣きした先輩がいたくらい、舞台を構成する一員としての責任感がみんなやばい。
鐘ヶ江:しかもスピード感がすごいから、稽古しなくちゃダメなんですよ。筋肉と同じで「ブチブチに繊維切ってもう一回強いの作れお前ら!」みたいな感じなのかもしれない。ダンスも殺陣もパフォーマー並みのえらい振りを付けてくるから、素じゃないんだけど、役者としての本人たちが舞台上にいるという感覚。
松田:うん、どんどん要求は大きくなってくるから、僕はBSP以外のときも、常にBSPにつながることを探しながら仕事してる。外の舞台で感じた先輩や同期の姿勢をBSPに持ち帰って伝えたいなと思って。僕らは東京進出に向けてもっと上り調子にならないといけないと思うので、うーん…だから…えっと、何の質問でしたっけ。
鐘ヶ江:BSPの魅力は? だよ(笑)。第一作目から出ている人はこの密度の高い稽古を一年に何本も何年間もやってるので、その中で育った信頼関係がそのまま舞台上に乗っかる。BSPならではの関係性がそういう意味でお芝居に反映されるのも、外部公演にはあまりない要素かも。
松田:どれだけやっても稽古がまだ足りないと思うってことは、裏を返せば僕たちの未熟さなのかもしれないけど、それを愚直にやり続ける人間の美しさやたくましさを表現したいなとは思います。
洸が持っているトラウマは、BSPの誰もが持って戦っています(松田)
◆劇団の中でのお2人はどんな関係ですか?
鐘ヶ江:僕が九州から大阪に出てきたとき、岳はもう外部の舞台にも出てて、BSP最初の「ゼロ」は岳が主演、僕がアンサンブル。そのとき自分に何もなくて「ダメだな」ってなって、次の「ゼロ・ファイター」のときストレスで体がおかしくなっちゃって、点滴打ちながら稽古して。その次の「壬生狼」では、僕が本番中に木刀を客席に落としちゃったんです。
松田:…鮮明に覚えてる。
鐘ヶ江:舞台上の空気がガラっと変わって、世界が壊れて…誰も何も言わないけど、その後の僕は立ち回りとかをするのが怖くなったんです。「もう無理だわ」って本番30分前までずっと泣いてて、みんなが来てくれても受け答えすら無理な状態で、最後の最後に岳と大塚(雅史/演出)さんが来てくれて幕を開けるかどうか判断したっていう…ぶっちゃけ、みんなの足を引っ張るポンコツ時代があったよね俺! …ただ、それが今の自分の武器になってるのかな、とは思う。
松田:うん、ずっと洸の中に残ってるね。
鐘ヶ江:消えないと思います、思い出しただけで青ざめる(笑)。
松田:誰しもそういうエピソードやトラウマを持っているんですよ。でも例えば、汗で滑ってとか、刀身が抜けてとか、それが本番中に客席に飛んだら確実に怪我させてしまう。そういう危険なことを舞台上でやるのが役者だから。
鐘ヶ江:うん、俺が刀を落としたくらいからかな、「小道具を落とすな、それはお前らの命だ」っていうルールが出来ました(笑)。落とすと舞台の世界が確実に壊れる。
松田:お客さんにも緊張が入ってしまうし、作品の手足がもげたみたいな感じになっちゃうかもしれない。「じゃあそんな激しい動きやめればいいじゃん」ってことじゃなくて、そんな危険なことをしているんだけど、それでもお客さんが安心して没入できるようなBSPに、俺たちはなる。
鐘ヶ江:刀も扇子も、普通に持ってるように見えるときもめっちゃ力入ってますからね(笑)。
松田:…でも俺ね、結構「落としてやんぞ!」みたいな気持ちでやるの、逆に。
鐘ヶ江:あ、それが岳の強みかも。
松田:守りに入りたくないから、回すときも毎回「どこまで早く回せるだろう」みたいな(笑)。だから、練習量ですね。
鐘ヶ江:そう、稽古量です。それこそ「ゼロ・ファイター」とか「壬生狼」のときはまだ慣れてなくてゲロ吐きそうでしたもん。
松田:吐いてたね。
鐘ヶ江:うん、吐いてた……、いや!? 吐いてはなかったぞ、泣いてました(笑)。
千秋楽=決勝戦に向け、負けられない試合を勝ち進むのがBSP(鐘ヶ江)
◆(笑)。では最後に、BSP最新作「龍の羅針盤」について教えてください。
松田:僕の演じる坂本龍馬が、歴史上の重要人物と絡みながら進んでいく物語です。といっても、龍馬自身はつかみどころのない感じで、いろんな人を通して龍馬像を描き出す。お客さんが感じたのが坂本龍馬、みたいになればいいなと思います。
鐘ヶ江:僕は来年上演の第二部「維新回天篇」から登場する桂小五郎を演じます。もちろん二部だけでも観られるけど、より深く味わうために一部も観てほしいですね。「全部つながってたんや!」みたいな楽しみ方が確実にできる作品なので。
松田:さっき話に出た「壬生狼」も同じ幕末だけど、試衛館の若者が武士になっていくっていう結構若い人たちの話だったから、今回はそれに比べるとちょっと大人な話。政治的だったり文学的だったりなシーンもたくさんあるし、対面しての会話も多いので、今まで“集団の魅力”を打ち出していたBSPとしては、初めての挑戦になると思います。
鐘ヶ江:開演前に円陣組むとき、いつも大塚さんや岳が「勝ちに行こうぜ!」って試合みたいなことを言ってくれるんですよ。舞台のことを「試合」と言って、一公演一公演、一試合一試合を必死に勝ち進めて、千秋楽という決勝戦にみんなで向かう。そのためには一試合でも負けるとダメなんです。敗者復活戦はない。今回も負けられない試合を公演数分戦い続けて、その先にある景色を見に行こうって思ってます。
松田:BSPが始まって5年、その“先にある景色”をずっとずっと見ようとしているんですけれど、…まぁお客さんが増えたとか、自分たちでできることが増えたとか、そういうのはあっても、まだ全然見えてないような気もしていて。
鐘ヶ江:うん。そういう光る欠片みたいなのは見つけつつも、まだ暗闇の中を全力で走っている。そこに新しいメンバーも加わって、いい化学反応が起きているのが今のBSPの強み。
松田:そうだね。あとはとにかく稽古を積むだけ!
鐘ヶ江:それに、メンバー・田渕(法明)君のtwitter情報では、今回のフォーメーションには0.25の小数点どころか三角関数が入ってきたらしくて。学校卒業後初めて実生活で三角関数を使います(笑)。そうやって緻密に演じているけど、舞台上では役としてだけじゃなく本当にリアルで戦っている感じがする。歴史上の人物を今生きてる僕らが舞台上で演じてまさに生きる熱さを、ぜひ楽しんでいただければと思います。
■PROFILE
松田 岳
●まつだ・がく…1992年11月20日生まれ。兵庫県出身。外部公演に舞台「ミュージカル 忍たま乱太郎」第三弾、ミュージカル「薄桜鬼~新選組奇譚~」(主演)、舞台「パラノイア★サーカス」など。ほかに、重要な役を演じたドラマ『仮面ライダー鎧武/ガイム』や、映画「忍たま乱太郎 夏休み宿題大作戦!の段」など、映像作品も多数。出演映画「天使のいる図書館」が、2017年春に公開予定。
公式ブログ(http://ameblo.jp/8739taki/)
公式Twitter(https://twitter.com/8739gaku)
鐘ヶ江 洸
●かねがえ・こう…1992年11月28日生まれ。福岡県出身。ミュージカル「忍たま乱太郎」第六、七弾、芝居屋企画「チェンジ ザ ワールド」(主演)、ミュージカル「妖かし村正 地獄変」など。出演舞台「プリンス・オブ・ストライド THE LIVE STAGE」エピソード1が、2016年12月9日(金)~14日(水)に東京・シアター1010で、12月23(金)~25日(日)に大阪・森ノ宮ピロティホールで上演。
公式ブログ(http://ameblo.jp/kokind54/)
公式Twitter(https://twitter.com/kokind54)
■BSPとは!?
創業60年以上の歴史を持つ劇団ひまわりのプロダクション部門、ブルーシャトル(BS)がプロデュース(P)する演劇公演の総称。2002年に演劇ユニット「Axle」として始動、「11人いる」「最遊記」「BANANA FISH」「WILD ADAPTER」「新撰組異聞 PEACE MAKER」など優れた漫画作品の舞台化を中心に活動し、2012年「三銃士~仮面の男」で一区切りを付けた後、松田岳を中心とした座組で再始動。日本史の1シーンを駆け抜けた男たちの生き様を描くオリジナルストーリーと、極限まで鍛え抜かれた肉体の動きのみで作り上げられる舞台美で、大阪を拠点にしながら全国からの支持を増やしているブレイク間違いなしの劇団だ。
【活動歴】
2012年「ゼロ」
2013年「ゼロ・ファイター」
2013年「壬生狼」
2014年「零式」
2015年「幸村―真田戦記―」
2015年「雪の女王―A HEARTFELT STORY―」
2016年「真田幸村」
2016年「龍の羅針盤」第一部 幕末死闘篇
2017年「龍の羅針盤」第二部 維新回天篇
劇団ブルーシャトル公式サイト(http://www.blue-shuttle.com/)
■公演情報
■「龍の羅針盤」第一部 幕末死闘篇
大阪公演:
2016年11月24日(木)~28日(月)
グランフロント大阪北館ナレッジシアター
東京公演:
2016年12月10日(土)~12日(月)
渋谷区文化総合センター大和田 伝承ホール
※チケット発売中
坂本龍馬役…松田岳
トーマス・ブレーク・グラバー役…田渕法明
勝海舟役…梅林亮太
岩崎弥太郎役…石田直也
武市半平太、大久保利通役…青木威
高杉晋作役…山本誠大
斎藤一役…黒田陽介
後藤象二郎役…池之上頼嗣
伊藤博文…中内天摩
近藤長次郎…新正俊
望月亀弥太役…藤田恭平
村田新八…澤田誠
西郷隆盛…山本健史
■「龍の羅針盤」第二部 維新回天篇
大阪公演:
2017年2月2日(木)~6日(月)
グランフロント大阪北館ナレッジシアター
東京公演:
2017年2月16日(木)~20日(月)
CBGKシブゲキ!!
※チケット一般発売…大阪公演12月3日(土)11:00~、東京公演12月17日(土)11:00~
※チケットプレリクエスト先行…11月12日(土)正午~13日(日)18:00(東京・大阪共に)
坂本龍馬役…松田岳
トーマス・ブレーク・グラバー…田渕法明
勝海舟…梅林亮太
岩崎弥太郎役…石田直也
武市半平太、大久保利通役…青木威
高杉晋作役…山本誠大
斎藤一役…黒田陽介
後藤象二郎役…池之上頼嗣
伊藤博文役…中内天摩
近藤長次郎役…新正俊
望月亀弥太役…藤田恭平
村田新八役…澤田誠
西郷隆盛役…山本健史
中岡慎太郎役…田中尚輝
桂小五郎役…鐘ヶ江洸
徳川慶喜役…土倉有貴
脚本・演出…大塚雅史
音楽…和田俊介
振付…柿谷結衣
殺陣…ドヰタイジ
「龍の羅針盤」公式サイト(http://www.blue-shuttle.com/bsp07/)
■あらすじ
武士の時代の終焉を告げる明治10年の西南戦争で、薩摩藩士・村岡新八は坂本龍馬に託された羅針盤を見つめていた。池田屋から薩長同盟、そして大政奉還と時代が回天する幕末に、東へ西へと船を走らせた坂本龍馬の5つの曳き波が描き出す、未来の国と彼の真実とは?
●text/坂戸希和美