俳優の陣内孝則さんが「桐島、部活やめるってよ」の脚本家・喜安浩平さんとタッグを組み、9年ぶりにメガホンを取ったヒューマンコメディ「幸福のアリバイ~Picture~」から山崎樹範さんに続き、木南晴夏さんにインタビュー。劇中で描かれる5つのエピソードのうち、「見合い」編と「結婚」編に出演し、シンタ(山崎)と交際中ながら好条件の見合いに目がくらんでしまうサラを演じた木南さん。30代を迎え、女優としても円熟味を増している彼女に作品に対する思いや心境の変化を伺いました。
◆陣内監督の作品に参加されるのは、初めてですよね。
役者としての陣内監督とも今までお会いしたことがなく、完全に「初めまして」でした。そんな私の名前を陣内監督自ら今回のサラ役に挙げてくださったそうで、うれしかったですね。
◆現場での陣内さんは、どんな監督でしたか?
パブリックイメージと変わらず、パワフルな方でした。陣内監督って「よーい、ハイ!」の声がすごく大きいんですよ。遠くのほうにも響きわたるくらいに。そうやって、いつも私たちキャストやスタッフ全員に気合を入れてくださるんです。でも、「結婚」編の撮影のときは、ロケ地の結婚式場の周りが住宅街だったので、スタッフさんから「夜9時以降は大きい声で『よーい、ハイ!』と言うのはやめていただけますか」ってお願いをされたらしく、本気でちょっとスネるっていう(笑)。そんなかわいらしい一面もありましたね。
◆“役者をやられている監督ならでは”と感じた瞬間はありますか?
これは役者だからっていうより陣内監督だからかもしれませんが、陣内監督はその明るさと元気なキャラクターで、現場を盛り上げようといつもみんなの輪の中心にいて、空気作りをしてくださるんです。自ら先頭に立ってそこまでやってくださる監督って、私の知る限りではあまりいらっしゃらないですね。
◆喜安さんの脚本からはどんな印象を受けましたか?
私が出演させていただいた「見合い」編と「結婚」編は1本の流れになっていて、シンタとサラの関係性もつながっていくので面白いなと思いました。
◆サラ役をどう捉えて撮影に臨んだのでしょうか?
サラは気が強くて、物事をはっきりと口にするし、どちらかと言えば男の人よりも上に立っているような女性。自分が演じてきた役の中ではわりと多いタイプだったので、やりやすさはありました。ただ、この作品はオムニバスなので1本1本がそう長くないんです。描かれていることが少ない分、自分の中で想像を膨らませて演じないといけない。その点は、ほかの作品以上に考えさせられましたね。
◆「想像」というのは、例えばどんなことを?
サラがシンタとどういう付き合いをしてきたのかとか、「見合い」編から「結婚」編までの間に2人の関係性はどうなっていたのかとか。「結婚」編のラストでサラがシンタにあるセリフを言うんですけど、それも本当なのかどうか分からない。サラはシンタに対して実際のところはどう思っていたのか、とかいろいろですね。
◆そもそもサラは、シンタのどんなところに惹かれて付き合い始めたんでしょうね。
本当ですよね(笑)。そういう部分も想像しました。何でこの人を選んだのかなと。でも「結婚」編で思ったんですけど、シンタってすごいバカだけど、その分真っすぐなんですよ。そういうところってやっぱり輝いて見えるし、だから好きになったんじゃないかな。女性としては、シンタみたいな男性がいたら「しょうがないな~」とか、「ああもう、じゃあ、ウチ来ていいから」とかってなると思うんですよね。
◆そういうサラの気持ちは木南さん自身、理解できる部分だったんですか?
ああいうおバカな男性のピュアなところが好きっていうのは自分と似ているかもしれないです。好きな一方で、イライラしてしまうところも含めて(笑)。だから、サラがシンタを好きになったのは、ちょっと理解できるんです。
◆シンタを演じた山崎さんとの共演はいかがでしたか?
今回が初共演だったんですけど、イメージどおりの方でした。面白くて芸達者。山崎さんがシンタを演じると聞いてぴったりだなと思っていたんですけど、本当にハマり役で。お芝居について特に2人で打ち合わせするようなこともなかったんですけど、とてもやりやすかったです。
◆山崎さんもインタビューで木南さんのことを「達者」な方だとおっしゃっていました。お2人の阿吽の呼吸が素晴らしかったです。
現場に入る前にリハーサルを設けてくださって、「山崎さんはこういう感じでやっていくんだな」というのをある程度つかめていたので、それも大きかったです。なので、撮影はすごくスムーズでしたね。
◆劇中で特に印象的なシーンはありますか?
「見合い」編は、全裸の山崎さんのアソコを隠すのにみんな一生懸命で、私もカメラワークのことばかり考えていました(笑)。どのシーンというよりは、それが印象に残っています(笑)。「結婚」編で挙げるなら、ダンサーさんがミュージカルのように歌って踊るシーン。陣内監督もかなりこだわっていたところで、現場で見ていても鳥肌が立つくらいの迫力でした。私もあのダンサーさんの中に入りたかった!
◆「見合い」編と「結婚」編の、そのシチュエーションの違いも面白いところですよね。
順番としては先に撮ったのが「見合い」編で、そっちは山崎さんと私の2人芝居ですし、部屋の中というワンシチュエーションだったので、舞台のような感じで自由にやらせていただきました。で、その後「結婚」編を撮ったのですが、インするまでにちょっと期間が空いたんです。舞台も結婚式場になって、シンタとサラの関係性も変わっていますし、全く違った作品をやっている感覚に近かったですね。
◆ほかの3編も色は違っているんですけど、1つの作品としてしっかりまとまっているように感じました。
確かに一編一編は全く違った話ですけど、それが連なって楽しめる作品だと思います。「葬式」編は、小野ゆり子さんがスーっと出てくるところの演出がちょっと変わっていて、私的に面白かったですね。「誕生」編は、柳葉(敏郎)さんと浅利(陽介)君の2人芝居から始まっていて、車の中がメーン。私たちの「見合い」編と同じワンシチュエーションとはいえ、車の中では狭くて動きが作りにくいでしょうし、撮影は大変だったんじゃないかなと。あと、清野菜名ちゃんのアイドル姿の映像がすごくかわいくて、見とれちゃいました(笑)。「成人」編の中井貴一さんと木村多江さんは「さすが!」のひと言に尽きますね。のほほんとした父親役に中井さんがぴったりハマっていて、本当に空気作りがお上手だなと思いました。
◆すべてのエピソードで“写真”が1つの軸となっていますが、木南さん自身に思い出の写真はありますか?
写真は撮ってもらうことも多いですし、自分で撮るのも好きなので、いっぱい持っています。特に思い出深いのは、30歳になったときの記念写真。今も一番仲の良い大学時代の女友達と5人で、写真スタジオに撮りに行ったんです。この機会を逃したらもうないかもしれないなと思って。そういうちゃんとした撮影って、なかなかやらないじゃないですか。私自身も、仕事を除けば成人式以来でしたし。
◆確かにそうかもしれないです。いい記念になりましたね。
みんなで服をそろえたりして、すごく楽しくて。それで、40歳になったときにまたやろうかって話になったんです。でも、みんなで花束を中央にして「わぁ~」っていう感じの写真とかはもう結構キツいから、そういうところはちゃんと考えようねと(笑)。
◆30代に入って、心境は変わりましたか?
これと言って何かが変わる感覚もなく、そんな話を2、3歳上の女友達にしたことがあったんです。そうしたら「自分は変わらなくても、周りの目が変わるんだよ」って言われて、確かにそのとおりだなと。28歳でも29歳でも十分立派な大人ですけど、30の代に乗るとよりれっきとした大人として見られるようになる。だから、“ちゃんとしよう”と意識するようになりました。言葉遣いや姿勢、現場での居方、年下に対する思いなんかも含めて、最近は少しずつ変わってきたかなと思いますね。
◆この先も出演作が控えていて忙しいと思いますが、そんな中で“幸福”を感じる瞬間はありますか?
私、パンが好きなんです。だから、おいしいパン屋さんを見つけたときは、めっちゃ幸せを感じます!
◆最近はどんなおいしいパンに出会いましたか?
ずっと行きたいと思いつつ、なかなか行けてなかったパン屋さんが下赤塚にあって、この間ついに、初めて行ったんです。そこのパンがもうめっちゃおいしくて、今この瞬間も食べたくてしょうがいないです(笑)。
◆そのお店のパンは、どういうところが魅力だったんですか?
魅力は、大きくて安い!(笑)。それって私にとっては幸せなことなんですよ。東京のおしゃれなパン屋さんだと「こんなにちっちゃいのに、300円もするの!?」って思うことが結構あるんです。どんなにおいしくても「300円がふた口で終わっちゃった…」ってなると、いまいち幸せを感じられなくて。でも、「サンドウィッチがこんなに大きいのに350円!?」とか、「こんなにいっぱい買ったのに1000円もいかない!」とか、そんなときはもうチョ~幸せです!
◆では最後に、これから映画をご覧になる方へメッセージをお願いします。
「写真」がテーマの映画なんですけど、私、それをすっかり忘れちゃっていて(笑)。あらためて映画を見てみると、確かに人生において写真に撮りたい瞬間や、写真が残る瞬間って、すごく大事な場面が多いんじゃないかなと。その大事な場面の一瞬一瞬を切り取ったような映画が、この「幸福のアリバイ~Picture」です。自分の人生を振り返りたくなるような作品で、きっと皆さんにお楽しみいただけると思います。ぜひ劇場でご覧ください。
■PROFILE
木南晴夏
●きなみ・はるか…1985年8月9日生まれ。A型。大阪府出身。
「第1回ホリプロNEW STAR AUDITION」でグランプリを獲得したのをきっかけにデビュー。今年だけでも映画「秘密 THE TOP SECRET」「グッドモーニングショー」、ドラマ『火の粉』『せいせいするほど、愛してる』など出演作多数。現在は、ドラマ『勇者ヨシヒコと導かれし七人』にムラサキ役で出演している。歌手の一青窈の実姉・一青妙のエッセイを基にした主演映画「ママ、ごはんまだ?」が、2017年2月11日(土・祝)公開予定。
■作品情報
幸福のアリバイ~Picture~
11月18日(金)全国ロードショー
原案・監督:陣内孝則
脚本:喜安浩平
出演:中井貴一、柳葉敏郎、大地康雄、山崎樹範、浅利陽介、木南晴夏、渡辺大、佐藤二朗、木村多江ほか
公式HP:koufuku-alibi.jp
©2016「幸福のアリバイ~Picture~」製作委員会
●photo/中村圭吾 text/甲斐 武