「企画・原作・脚本:みうらじゅん×安齋肇・初監督」というサブカル界を代表する2人が送る「変態だ」が12月10日(土)より新宿ピカデリーほか全国順次公開。みうらさんが本人を想像して書いたという原作の基となったミュージシャン・前野健太が本作で初主演を果たし、奇跡とも言うべき3人のアンサンブルで生まれた青春ロックポルノムービー。みうらさん、安齋さんに本作の誕生秘話や、本作に込めた思いなどを聞いた。
◆今回の映画化に至った経緯についてお願いします。
みうら:正直、何が一番聞きたいですか?
◆なぜOKになったのかなと思いまして…。
安齋:(笑)。正直そうだよね、なんでこの企画がOKになったんだろうなって。
みうら:そこが謎なんですよね(笑)。そもそも松竹ブロードキャスティングというところで、僕が『みうらじゅんのグレイト余生映画ショーin日活ロマンポルノ』という番組をやっていて、2017年からまた始まるんだけど、日活ロマンポルノを勝手に紹介するみたいなことやっているんですよ。
安齋:松竹なのにね。
みうら:松竹なんだけど、そもそもブローキャスティングが松竹だと思い込んでいたことから間違いが始まっているんですよ(笑)。
安齋:(笑)。そこからね、結構誤解が生じて。
みうら:だからね、今回の映画には“松”のマークが出ないんですよ、松竹のマーク。
安齋:僕らは“寅さん”と同じ並びだと思っていたんですよ。
みうら:そりゃ思うじゃないですか、松竹っていうんだから。そこがそもそもの誤解であって。
安齋:もうその番組で松竹ブロードキャスティングの方、略しておいたほうがいいかもしれない。
みうら:BC。
安齋:BCの人と会ったときにはもう…。
みうら:BC取れていたからね。
安齋:(笑)。BCじゃなくて、もう松竹本体の方だと思っていたんで大興奮なわけですよ。
みうら:面白いじゃないですか、メジャーな配給会社で、で、ポルノ撮ってもらえませんかっていうから。松竹もおかしなこと言うなって。
安齋:“寅さん”と同じ並びでね。
みうら:それで“みうらさん、日活ロマンポルノのことそれだけお好きだったら撮りませんか”ってあって。ポルノ映画だから短くていいっていう話だったんですよ。で俺まだ松竹だと思っているから。
安齋:シツコイね(笑)。
みうら:この話をポルノだけにしておくのはもったいないと思ったんです。それでこれはチャンスだ! “ポルノ”っていうのは好き勝手なことだと思っていたから。
安齋:ポルノって単語でね。
みうら:ポルノって単語は好き勝手できるっていう意味だと思っていたんで、実はこういう原作があると。これは前野健太って人物を想定して書いた話で、しかも安齋さんには昔から俺は映画を撮ってほしいと思っていたんですよ。これは渡りに船だと思って。とうとう好き勝手できる映画ができるよっていう話を安齋さんに…。
安齋:すごいでしょ。確かにそれこそ質問したぐらい、それ本当なのって。
みうら:言いました、確かに。
安齋:ただその流れの中で、みうらじゅん原作の映画はちゃんとメジャー映画として、田口トモロヲさんがもう完璧にヒット作として出していたじゃないですか。そんな話がきてもおかしくないなとは思っていたんですよ。
みうら:そこがまた誤解を。あれはトモロヲさんの映画だから(笑)。
安齋:でもそのときには僕は、監督をしたことないのに、大抜擢だなって逆に思ってるわけですよ。そんな話を振ってくれてありがたいなと思っていて。もう二つ返事でOKして。
みうら:原作も知らずにですよ、言っていないですから初めは。その後に飲み屋で小出しにいろいろ話していった。で、前野健太って人に出てほしい。マエケンのことは安齋さんも知っているから、どう口説くかって話になって。
◆そのときはまだ前野さんには話はいっていなかったんですね。
みうら:安齋さんにいった段階のときにはまだいってなくて。
安齋:どう口説くのかって相談されるわけですよ。でもなんでこんないい話なのに二の足踏んでいるのって聞いたら、実はパンツ1丁になってもらわなきゃいけないんだよねって。えーどんな映画なんだろうと思って。
みうら:松竹だ、初監督だ、安齋さんだ、話題にはなると。一人電通としてはもうマエケンにそんな作品に出られるんだよ、役者として出て何の不足があるのかって説得はそこですよね。
安齋:(笑)。
みうら:でもマエケンも、すぐにいいですよ、やりますって言ってくれたから。面白いなって思ってくれたんだと思うんですよ。だから特に何も言わなかったけど、ただ撮り始めてからここまでやるんですかみたいなのはあったんだろうけどね。
安齋:(笑)。
みうら:そこは監督の方に任せて。
安齋:そりゃそうだよね、最初はね、白いブリーフ1丁だったんですよ。
みうら:最終的に革のブリーフに。格上げだから。
安齋:(笑)。革パンになったら、本人もすごく満足していた。革パンになりました!って。
みうら:マエケンがすごく悩んだところは作品に出てくるのは僕ではないと。役者として出ているだけで、インタビューを受けるときに“前野さんMなんですか”とか聞かれるじゃないですか?でもそれは役だから。
◆でも前野さんじゃないとってぐらいのハマり役でした。
みうら:じゃないとってあったでしょ。
安齋:こっちが言うのも(笑)。
みうら:体もいいのよ。
安齋:あのヒゲとパーマの掛け具合と。
みうら:いや、あれは天パだから(笑)。
◆あのバスのもじもじ具合とかもよかったですよね。
みうら:ほかのどの役者を考えても、マエケンしかいないんですよ。
安齋:あれを普通にもじもじしなさいってミュージシャン・前野健太に言ったら、それはやらなくてもいいんじゃないですかってなるよね。でも俳優としてだから、自らやりだしたからね、もじもじ。楽屋で練習していたからね。
みうら:結局、最終的に安齋さんとマエケンと3人がそろって企画が動いたんですよ。そこにほかの人も集まってきてってことだから。この企画の出だしは勘違いしているから俺。そっからだからこんなことになっただけで。初めから持ち込みだったら通ってないでしょ(笑)。
◆どうですかっていうお話があったのですね。
みうら:そんなことも知らずにだよ、だから企画を固めていって、早く撮って早く撮って監督に言って。
安齋:会社の気が変わらないうちに早く撮ろう早く撮ろうって(笑)。
みうら:雪も降っていないのに、そのころはね。
安齋:雪も全然ないのに、北海道行けば降っているよとか。
みうら:こういう話は頓挫しがちだから。頓挫だけは避けたい。
安齋:頓挫は避けたいね。
みうら:頓挫だけは避けたいという熱い意志で出来上がった作品です(笑)。
◆「変態だ」のタイトルで、18歳未満禁止となっていますが、本編を見させていただいてとても青春の匂いというか。
みうら:青春の蹉跌と言っていた人もいたし。
安齋:ある種、ロードムービーの感じはありますよね。バスに乗っていますしね。
みうら:本当のロードムービー。
◆劇中の主人公のあの後どうなるのか、ポルノというくくりで収まらない映画だと思いました。
みうら:ポルノは何でもありってことだからね(笑)。
安齋:自由ってことですよ。
みうら:ポルノは自由の意味ですからね。
安齋:…違いますよ、本来の意味は。
◆でも白石さんとのシーンはちょっとポルノというか色っぽいシーンでした。
みうら:白石さんいいもんね、白石さんの体は本当にいいよね。
安齋:体目当てですか。
みうら:いやいや(笑)。
安齋:演技もいいんですよ。
みうら:雰囲気もね。
安齋:あの雰囲気はね、どんないい美術の人やスタイリストでも作れないもんね。あの白石さんの笑顔というか雰囲気っていうか。裏切れない感じの純粋さみたいなの。でも本当にそうなのかってうがった見方もできるし。
みうら:できるね。本当はあの妻のほうが計算高いのかもしれないですしね。男は愛人と再婚したほうがうまくいくのかもしれないしね、趣味が合うんだもんね。
安齋:お風呂場で市会議員のおじさんの話を持ち出したりさ、なんかちょっと上昇志向強そうな感じもするしね。
みうら:一見幸せそうに見えるところのほうが分からないもんね、実はね。
安齋:本当に怖いのはね、怒っている人なのかニコニコしている人なのか。それは本当に分からない。
みうら:それは分からない。主人公からしたら、あの家庭を守っていたら楽に生きられると思っているかもしれないけど、どうなのってところはありますよね。幸せがいいわけではないしね。不幸せが悪いわけではないような気がするけどね。
◆18禁がもったいないような気がします。
みうら:俺もそう思います。
安齋:確かに。でも18禁ですよって最初に言われて、例えば隠そうと思えば隠せるし、ある程度のところを抑えられるわけだから別に18禁にする必要はないわけですよ。やっぱり18禁というところに、ある種、自由さを感じるわけで。Rがついたりしてるほうが、ハードルっていったら変だけど、許可が必要なほうがすごく内容が入ってくるし、そこの自由度は映画を作るときに全く考えなくていいっていうのはいいですよね。
みうら:この映画は精神的R18だから(笑)。
◆初監督した安齋さんの姿はみうらさんから見ていかがでしたか?
みうら:安齋さんは“こう”見えるけど、“ああ”なんですよ。
安齋:なんなんだよ、全く意味が分からないよ。
みうら:僕は長い付き合いなんで知ってるんですよ。でも、“ああ”見えるじゃないですか世間的に。でもちゃんとすごいのやる人なんですよ。言われると照れくさいから嫌がるんですけど、今回は“この”安齋さんが作品に出ちゃったんですよ。“この”安齋さんは初監督だろうが、10作撮っておられようが出ていたと思うんです。初監督の感じがしないでしょ。
◆初監督ということにびっくりしました。
みうら:びっくりしたってことは、“あの”安齋さんだからでしょ。
安齋:(笑)。
◆いろんなものを拝見させていただいてこういう部分もあるんだろうなと思っていたんですけど、でも“あの”安齋さんが勝るので。
みうら:“あの”安齋さんのほうが勝ったでしょ。
安齋:だから“あの”安斎さんだと思っているから、お手軽な映像で落ちのある映画じゃないかって人もいた(笑)。
みうら:その裏切りもいいですよね、絶対に裏切れるからいいですよ。
安齋:裏切っているんじゃなくて、もともとあれは人が作ったもので、俺が作ってないんですよ。ただスチャダラパーとかっていうのは軽い感じで作っているから“あの”安齋さんという感じで見えてもいいんですけど。
みうら:安齋さんは“ああ見えてこうなんです”っていう人だから。
安齋:それは別に僕がシフトを変えたわけではなくって原作と脚本があったからやっているわけで。これがダジャレの映画だったら全編ダジャレで。
みうら:それは安齋さんを想定して脚本を書かなきゃならない、これはマエケンを想定して書いたから。“あの”安齋さんを想定した脚本を書いたらそれはおかしいね。監督・主演だもの(笑)。
安齋:絶対嫌だな。やっぱり一番嫌なのって表に出ることのつらさですよねっていうことを監督して思ったんです。僕やっぱり裏方が好きかなって。裏にいることで自由がありますよね。なんかああでもこうでもないって言わなくても編集のときにそこ切っちゃえばいいんだもん。それってすごいよね。
みうら:残酷だよね、ある人にとっては。
安齋:(笑)。最初に前野健太、次にウクレレえいじの配役が決まっていたんです。本人役で決まっていた。
みうら:決まってた、決まってた。
安齋:(笑)。それなのに、スノーロッヂフェスでのウクレレさんのシーンいらないなって言って、脚本書かないの。
みうら:(笑)。
安齋:ウクレレさんかわいそうでしょ、あんな寒い雪山まで行って、半ズボンにアロハで頑張って、寒い中やって、一応ネタもやってもらったんだけど、いらないなって。
みうら:俺監督じゃないけどね、ウクレレえいじさんのことは誰よりも知っているつもりだから、ここはいらないウクレレえいじっていうのがあるんですよ。あのないがしろにされているウクレレえいじがたまらなくいいときがあるからね。
安齋:(笑)。いいんですよね。
みうら:もう浮いた会話になっていないような話を1人でするのとかも。
安齋:ね(笑)。
みうら:もうウクレレさんだから。こっちは知っているからいいかなと思ったけど。でもあんなに客が入っていないフェスってないよね。来年からフェスないよ(笑)。
安齋:中止だね。そう今度“2016スノーロッヂフェス”を原宿のビームスのトーキョー カルチャートっていうギャラリーでやるんですよ。
みうら:写真展?
安齋:映画の写真などの展覧会。スノーロッヂフェスのロゴをビームスの方が偉く気に入って。
みうら:あれ気に入ってもらったの。
安齋:ロゴを使ってマフラータオル、Tシャツ、あとマグカップ、キャップ(笑)。
みうら:実際のスノーロッヂフェスでは誰もかぶっていないのに。
安齋:映画に出てないのにもかかわらず、今度やるんですよ、12月13日(火)から。
みうら:それはウクレレさん呼ばなきゃ(笑)。
安齋:やります、やります。
みうら:見てくれた人に、あ、この寒さかっていうのを体感してもらわないと。
安齋:(笑)。やっと体験できますよ、スノーロッヂフェスが。
みうら:あの寒い感じが。
◆最後にあらためて本作の見どころをお願いします。
安齋:基本的には音楽映画だと思っているので。映画のために作った音楽なので、これは大きな画面で見てもらえるともっとより多く感じてもらえると思います。
みうら:全部なんですよね、全部が全部つながっているようでつながってないようでつながっているような。
◆劇中の音楽は最高でした。映画の中では前野さん演じる主人公が作りますが、この音楽の才能があるとまた、悩みを生むんでしょうね。パンフレットにみうらさんのコラムで「生まれつきDNAに組み込まれたものだったのか?」とありましたが、そのとおりだと。
みうら:生まれながらDNAにあればいいだけど、ないから悩むんですよね。憧れがあるんですよね、行きすぎちゃうことに対して悩むんですよ。また日常がバランス取れていることに葛藤もあるんですよね。
安齋:そうなんだよ。そこなんだよね。
みうら:そこが音楽ってことだけはそれでは済まないと思っているところが主人公の運のつきで、でもあの終わりがハッピーエンドなのかバッドエンドなのか分からないっていうね。まだまだ人生が続くからね。今見えている幸せが本当に幸せなのかっていう問いかけですからね。
安齋:いろいろ考えちゃうかもしれませんね。
◆同じところをぐるぐる回っているところから一歩を踏み出す映画というか。
安齋:それいいですね、もらっていいですか。
みうら:それいいね。
■PROFILE
みうら・じゅん…1958年、京都市出身。武蔵野美術大学在学中に漫画家デビュー。イラストレーター、作家、ミュージシャンなどとして幅広い分野で活躍。1997年「マイブーム」で新語・流行語大賞受賞。2005年日本映画批評家大賞功労賞受賞。話題の「ゆるキャラ」の名づけ親でもある。著書に「見仏記」シリーズ(いとうせいこう共著)、「アイデン&ティティ」(2003年映画化)、「色即ぜねれいしょん」(2009年映画化)、「マイ仏教」、「人生エロエロ」、「「ない仕事」の作り方」など。『笑う洋楽展』(NHK BSプレミアム)などに出演中。
安齋肇●あんざい・はじめ…1953年、東京都出身。イラストレーター、グラフィックデザイナー。TV,CM,雑誌、LINEスタンプで数多くのキャラクターデザインを手がけるほか、ユニコーンや奥田民生ツアーパンフレットのアートディレクション、宮藤官九郎原作の絵本「WASIMO」や作品集「work anzai」「draw anzai」を出版。『タモリ倶楽部』(テレビ朝日)、『笑う洋楽展』(NHK BSプレミアム)などに出演。1997年には「勝手に観光協会」をみうらじゅんと結成。ほかに、数々のバンドを結成し、積極的に音楽活動も行っている。
■作品情報
12月10日(土)より新宿ピカデリーほか全国順次公開
企画・原作・脚本:みうらじゅん
監督:安齋肇
出演:前野健太、月船さらら、白石茉莉奈、奥野瑛太、信江勇、山本圭祐、
ウクレレえいじ、Shige、玉手峰人、田口かすみ、岸波紗世子、
宮藤官九郎、市川しんぺー、星野恵亮、桜井秀俊
©松竹ブロードキャスティング
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